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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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蓄積

 美月に告白未遂をした次の日、僕たちは特に何も変わりなく日常を過ごしていた。


「トーギくん、トーギくん」

「なんだキトル。お前の過去とかどうでもいいんだが」

「いやさ、百年前から思ってたけど君の魔導書って不思議だよね」

「そうか?」

「そうだよ。光魔法でも闇魔法でも使える無尽蔵の魔導書はこの世界が構成される前から世界の構造に反してる」


 そうか。この世界が構成される前の世界でも普通の奴は基本二つの魔法と一つのスキルしか使えなかったんだ。しかも僕の魔導書館は勇者でも魔王でもないのに全属性と光、闇魔法も使えるんだよな。確かに変か。

 でもまぁ、そういうものじゃないのか?


「それに疑問だったんだけど、君の前の世界って大丈夫なの?」

「地球のことか?詳しくは知らないが大丈夫じゃないのか」

「いやだってさ、世界は存在によって構成されてるんだよ?君がその世界からいなくなったらその分の存在を補うために色々と変化があるんじゃないかなってね」

「まぁ確かにな。でもそれは観測できないだろ」

「そうだけどね。でもトーギくんとかは世界に結構影響を与えそうなものだけど」


 そうだろうか。どちらかと言うと誰にも属さず適当に生きているだけだと思うが。人生に意味を成せない人生を送っていたと思うがな。

 キトルは一冊の本を差し出した。


「これは?」

「前の世界での召喚魔法について書かれているんだけど、どうも読めないんだよね」

「どれ」


 僕は手渡された本の題名を見て目を細める。

 …これは。

 うっかり忘れそうになるがこの世界の文字はヒエログリフ、つまり古代文字なわけだ。僕たちは補正がかかっているのか読むことができるが地球の言語をこちらの人々は読めない。

 つまり、


「日本語か…」


 これは浅守燈義が書いたのだろうか。いや美月かもしれない。どちらにせよここにいる奴らには読めないよな。

 僕は本を開いた。書名か『召喚魔法の注意事項』

 何のひねりもないな。美月か?


『召喚魔法は他の世界からこの世界に存在を送り込む魔法である。別の世界の存在を無理やり世界に組み込むことによって召喚に成功するが、どちらの世界にも多大な影響を与える。本来いるはずのない誰かが成すこと、成さないことはたとえ小さなものであっても大きな現象を起こすことになる。そしてその影響は時に世界の行く末すらも変えてしまう。

 未来のことは分からないにしろ、確実なのは存在を抜き取られた世界も組みこまれた世界も確実に崩壊する』


 …崩壊、か。いやまぁ予想しなかったわけではない。カオス理論を端的に表現したバタフライ効果はバカにならないものだ。実際この世界に来た僕たちは世界に多大な影響を与えたのだろう。そして浅守燈義や土屋美月の存在が抜けた地球もかなりの被害を受けるのだろう。

 つみあがったブロックの何本かが抜けたらそのブロックは崩壊する。完璧につみあがった世界はその基盤である存在が抜けただけで完全ではなくなり、いつか崩れる。


 それがこの世界でいうラグナロクであり、向こうの世界である終末論なのだろう。


「どう?何か分かった?」

「とりあえずこれをどうやって調べたのか知りたいな」

「それならその本を拾ったところに行くかい?」

「拾ったところ?どこ?」

「天碌山」


 あぁ、あのエルフの。そういえばあそこだけ漢字表記だったな。確かに何かあるかと思っていたがあの時はレベルが足りなくていかなかったんだ。

 聞けば天碌山にはこの船の動力源である魔力魂があるらしい。僕も本でしか見たことがないがふわふわと浮いている魂のものだという。


「そろそろ燃料を入れないといけないし、天碌山に行こうか」

「頼む」


 そして到来は天碌山へと針路をとった。



 天碌山へは約二時間ほどで着くらしい。僕は美月に会うためにいつもの公園へ行く。今日はフェルも美月のところにいるはずだ。

 公園に行くと、鳥に埋もれている誰かが居た。


「フェル、これはなんだ」

「子供たちがふざけて餌をぶつけまくったらこうなりました」

「なんでここまでになった」

「ミツキさんも応戦しましたので」


 バカか。いやバカだ。

 僕は大量の鳥に突かれている美月を助け出し、三人で近くのベンチに座り世間話をする。


「そういえば、ルーさんってキトルさんのこと好きなのかな」

「そうだろ」


 間違いないだろうな。あの時の反応を見る限り。

 そんな話をしていると後ろの芝生がガサガサと揺れた。しかし特に何かが出てくるというわけではない。鳥か何かだろう。


「どうしたフェル」

「いえ、今一瞬だけ気配を感じたので」

「気配?敵意か?」

「いえこれは敵意ではありません。だから攻撃していないわけですし」

「今はどうだ?」

「感じられません」


 フェルが何か感じたというのなら誰かいたのだろうが、今は感じないというのならば多分気配を消すスキルの類だろう。魔法なら僕や美月が分かるはずだし。

 警戒して周囲を見回してみても特に怪しい奴はいない。


「警戒は必要だな」

「そうですね」


 さすがにまた到来が攻撃を受けていることはないだろうがフォーラスのこともある。警戒して置いて損はない。


「よぉ…」

「ルーさん、なんか疲れてません?」

「まぁな…ちょっと相談に乗ってくれないか」


 僕たちの前に来たルーは確かに突かれている気がした。


「いいですけど、どうしたんですか?」

「最近、見られている気がするんだ」

「見られている?そりゃお前は人望が厚いから見られもするだろう」

「いやそうじゃなくて、こう、生理的に嫌悪を覚える視線を感じるんだ」


 生理的に嫌悪を覚える視線ってそれ、


「ストーカーですか」

「やっぱり!?そうなのか!?」

「ま、ありえない話ではないだろうな」


 ルーは男勝りではあるものの美人だ。ストーカーがいたっておかしくはないだろう。


「で、そのストーカーを見つけてほしいのか?」

「できればそうしたいが、そう簡単に見つかりそうもない。どうすればいいと思う?」

「そうですね…」


 美月が考えている。しかしフェルは簡単打開策を出した。


「告白すればいいじゃないですか」

「へ!?」


 ルーの顔が一気に赤くなる。多分、フェルに悪気はない。一番簡単で最善の解決策を提示したのだろう。

 しかしそんなことができるのならこんなことになってはいない。だから


「そうだな、告白するか」

「えぇ!?」


 僕は便乗した。面白半分ではなくこれから一国との戦いになるというときにストーカーに悩まされている暇はない。

 そして美月までもが「やりましょう!」と乗ってきた。

 こうして、ルーをキトルとカップルにしよう作戦が始まった。

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