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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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自覚

 フォーラスに銃を向けられ、僕は何とか逃れようと考えるが逃げ道がない。だがここでつかまればキトルがまた助けに来るだろう。でも必ず犠牲は出る。できるだけ犠牲は避けたいし、なによりこいつに捕まりたくない。拷問とかされそうだし。


「迎えに来たのなら武器とか向けるなよ」

「あなたが敵ですと、面倒なので。最悪殺してもよいと」


 敵にわたるくらいなら殺すか。まぁそうなるだろうな。でも殺されるわけにはいかないな。

 それに、新しい魔導書も使ってみたいし。


「降伏しますか?」

「しない」


 そう言って僕は新しい魔導書を取り出した。エルフときから調べ上げ土屋とともに研究し考察し続けた魔導書。

 古代の魔法専用の魔導書『忘却の書』


 百年前に開発され今は誰も使わない魔法。神々に対抗するための魔法なので人体への負荷など様々な課題があったが魔法そのものを劣化させることでクリアできた。


「本って、偉大だよな」


 誰もかれもに忘れられたものが残されている。だから僕はこの魔法が使えるんだ。最終的には古代魔法そのものを使えるようになってやる。


「劣化版広域殲滅魔法、グラウンドデリート」


 グラウンドデリートでフォーラスの銃を消した。

 本当は生命体を巻き込んで半径三十メートルくらいのものは全部消せるのだがやはり威力は天と地ほどの差があるな。無機物の武器一つしか消せないなんて。まぁ僕のレベルがたりないのもあるのだけれど。


「この程度ですか?」

「まさか」


 劣化版俊足魔法、ライトニングステップ。

 本当は光速で動き続けれるのだが今はフォーラスの背後に目にもとまらぬ速さで移動することしかできない。

 そして僕はフォーラスの後ろをとり劣化版剛力魔法、ヒートブレイクで限界まで力を高め全力で殴った。フォーラスはいきなりのことで防御も取れず落ちた。


「…確かにやりますね。ですがこの程度で倒せるとでも?」


 もちろん思っていない。

 少しはダメージを負っているようだがやはり劣化版の魔法では倒すことは無理だろう。倒したいのなら天蛇の書を使うべきなのだろうが、まぁ今回はこれでいいのだ。


「もういいか」


 周りが完璧に静まり返っていることを確認し、僕はいまだに戦闘音が響いている方向を向き、言った。


「帰るぞフェル」

「了解です」


 ドン!と目の前にフェルが降ってきた。乗り込む前にフェルに渡しておいた魔導科学道具『魔法封印』を使う。これは名前の通り魔法を封じておくためのもので、これに転送魔法を封じておいた。これを壊せば魔法が発動する。


「逃がしますか」

「逃げる」


 対スキル用魔法、ノイズキャンセル。劣化版拘束魔法、エクストラバインド。ノイズキャンセルでフォーラスの鼓膜を揺らし一瞬だけ酔わせ転送する前にエクストラバインドで拘束しておいた。これでしばらくは追ってこないだろう。

 無事転送できた僕たちはとりあえず、休むことにした。



 十二時になり、体力の低下も治って僕は土屋と外に出た。外は驚くほど静かで、全員今日の戦いで疲れて眠ってしまったのだろう。中には酒に酔って道端で寝ている奴もいる。


「燈義くんと歩くの、久しぶりだなぁ」

「お前、土屋の中に入る前は何してたんだ」

「この世界をさまよってた。私はどこにでもいてどこにもいない存在だったよ」


 そして土屋が来たときに土屋の中に入ったのか。

 そしてジョーカーとかいうやつのスキルでこいつが引っ張り出された。現在の土屋美月の人格はどうなっているのだろう。


「あのジョーカーって人のスキルは人格を封印して操り人形みたいにするんだ。だからスキルで封じられただけで死んではいないよ。封印さえ解ければきっと帰ってくる」

「どうやって封印を解くんだ?」

「そんなもの決まってるじゃない」


 そう言って土屋は自分の唇を指さした。


「お姫様を起こすのは王子様のキスだよ?」

「童話の読み過ぎだ」

「すぐ否定って…」


 そもそも僕は王子じゃない。

 土屋は「あはは」と笑った後、僕の目を見て言った。


「キスってのは一つの方法。本当は燈義くんと美月の気持ちが通じた時に封印は解けるの」

「どういうことだ」

「燈義くんって、美月のこと好きでしょ?」


 さも当たり前のように言われたのでいつも通り否定しようとしたが、なぜかできなかった。

 なんだ。なぜ否定しない。


「そういう土屋は僕のこと好きなのか?」

「あ、気になる?」


 何でこんな質問してるんだ。

 自分の質問の意図が自分でもわからず混乱していると土屋は嬉しそうに笑いながら言った。


「それは私がいう事じゃないよ。聞きたかったら封印を解かないと」


 僕がむすっとしていると土屋は嬉しそうに笑い、目を閉じた。

 これはキスしろってことか。


「…十秒だけ待て」

「いいよ」


 ここで十秒でも待たせるというのはどうかと思う。と自分でも思うが僕は目を閉じ、考える。


 僕は土屋美月のことが好きなのだろうか。


 最初は土屋を便利な存在とだけしか思っていなくて、きっとすぐにいなくなるんだろうと思っていた。でも土屋はいつも嬉しそうに笑っていた。僕がピンチになると励まし、助けてくれた。

 そしてなにより、僕は演じていたはずの心をいつの間にか取り戻していた。取り戻している兆候はあったとはいえそれを認めていなかった。


 そうだ。いい加減認めろ。僕は絶対記憶能力なんて能力があるが、人間なんだ。人を好きになるだろう。いやもしかしたら人と関わってこなかった分、惚れやすいのかもしれない。


 あぁくだらない。所詮は僕も人類なんだ。こんなことに五歳のころから悩んでいたなんて。


「…はぁ…」

「なにその溜息」

「いや自分のバカさ加減にな」


 そう言って僕は土屋の肩に手を置く。土屋は目を閉じ、僕は心臓の鼓動を聞きながらだんだんと顔を近づけていき…


 そして土屋が顔をそらした。


「やっぱり無理!」

「…おい」

「はっ!しまった」


 しまったじゃない。こいつまさか…


「いや本当に封印されてたんだよ!でも今戻ったっていうか戻されたっていうか!」

「……」


 僕は土屋の肩から手を離しため息をついた。

 なんつーか…やられたなおい。


「ご、ゴメンね」

「いい。もういい…」


 なんか疲れた…もういいや。


「帰るぞ。美月」

「へ?」

「…どうした?」

「なんでもないよ!燈義」


 美月と手をつなぎ、部屋へ帰る。

 まぁ、これくらいは、いいんだよな。


 

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