夢中
黒い塊が心臓のように鼓動を起こした以外は特に何もなく一日は過ぎて行った。結局俺は問題の解決をすることができず城の中の自分の部屋でこもっていた。
「…勝てないよね」
自分の力のなさに嫌気がさしつつ俺はエクスカリバーを取り出す。デュランダルはちゃんと俺と同調できていて力も発揮できている。しかしエクスカリバーだけはなぜか本来の力が出せない。心なしかだんだんと力が弱まっている気もする。
「不安?」
「そうだね…」
べリアちゃんが心配そうに聞いてくる。俺が返事を返すとべリアちゃんはいつもの通り俺の頭をなでてくれた。
本来はこれ、俺がべリアちゃんにやってあげるべきものじゃないのかな…まぁうれしいからいいんだけどね。
そんなことを思っているとべリアちゃんが俺に唇を近づけてくる。いつものことなので特に何もしないで―
「…お前、子供に何させてんの?そーゆう趣味なの?」
「いきなり出てきて変な疑いをかけないでくれる?」
「いやお前…だってさ」
入ってきたのはディスベルさんだった。ディスベルさんは俺に対して恐怖と軽蔑の目線を向けていた。
「どうした?」
悠子まで出てきた。
「いやこれ…」
「?別に変なことないやろ?」
「…おかしいのはオレなのか?」
ありえない現実を目の当たりにしたような顔をしていた。
なに?変なことでもあった?
ディスベルさんは「まぁいいや」と言って俺の部屋に入ってきた。
「何かあったんですか?」
「いやお前の修業がうまくいっていないらしいからな。手助けをしに来た」
「そうなんですか!ありがとうございます」
「なに、ユウコの頼みだ」
この人悠子の頼みだったら何でもやるのか。と言う突っ込みを言いたかったがやめておいた。多分「そうだけど?何か変?」とか言いそうだし。
「それで、どうするんですか?」
「お前を俺のスキルで夢の中に送る」
「夢の中?」
「オレのスキルは『夢中』相手を夢の中に送るスキルだ」
「夢の中って…それでどうすれば?」
「お前が習いたい相手とともに送り込む。そうすれば誰にも邪魔されないし傷つくこともない」
確かに…ディストピアを破るときに燈義くんがあれだけやったのに俺自身にけがはなかったしね。精神的には結構傷ついたけど。
「さて、どうする?」
「ぼく一択でしょ」
そう言って俺の上に現れたのは、フォールだった。全員が身構える中フォールは俺のほうを見て笑う。
ま、出てくるよねこの人は。
「いいよ。フォールに教えてもらう」
「…正気か?」
「正気だ。大丈夫」
俺がそう言うとディスベルさんは頷いた。
「それじゃ、行くぞ」
「はい。お願いします」
ディスベルさんの目が怪しく光り、俺の意識は遠のいた。
目を覚ますと生徒会室にいた。あの時と同じだが唯一違うのは俺以外に誰もいないことだ。
というかどんだけ学校好きなんだよ、俺。いやまぁここにいた時はこんなことに巻き込まれるなんて思ってなかったしなぁ。
「さてと…やるか」
俺は校庭に出てフォールと対峙する。
「改めてぼくを指名とはありがたいね」
「…よろしくお願いいたします」
「うん。よろしく~」
フォールは笑う。フォールなら全部わかってそうだし、これでいいんだよね。
「それじゃ、レクチャーといこう」
そう言ってフォールは指を鳴らした。出現したのは巨大な岩。
「レッスン一、シンクロ率を高めよう。意識を集中してエクスカリバーとシンクロして、この岩をぶっ壊して」
「それだけでいいの?」
「もちろん。ただ―」
フォールは意地の悪そうににやりと笑う。
「五分ごとにその岩、崩れて君の上に落ちるから」
「は?」
「もちろん潰れるくらいの大きさでね。そしてその地点から動いたら、爆破」
地点?と思って足元を見ると俺から半径三メートルくらいのところに魔法陣が出現している。俺は興味本位で近くの両手で持てるくらいの石を拾って投げてみると、
ドォン!!
海外の映画のクライマックスシーンくらいでしか見ないような規模の爆発が、詳しく言うのなら投げた石がなくなるレベルの爆発が起きた。人間に当たったら痛みとか感じる前に粉々になるだろう。
「大丈夫大丈夫、夢だから。あ、でも痛覚はあるよ」
「…分かってた。こうなることは分かってた…」
スパルタとかそういうのを余裕で超えている特訓に現実逃避しそうになったがなんとか自分を説得しエクスカリバーを取り出す。
シンクロ…エクスカリバーのことを理解し、もっと奥へ、奥へと進んで…
―
――
―――
「はい五分」
フォールの声が聞こえ上を見上げると、巨大な岩が迫ってきていた。
体の骨が無茶苦茶になり肉が完全に潰れる感覚と全身を襲う焼けるような痛みに動かない口から声のかぎり叫んだところで、体の骨という骨が、肉という肉が伸びて、くっついて、再生していくという形容しがたい痛みに耐えつつ気絶することもできない俺は生き返った。
お、思い返しただけで気絶しそうな体験だった。
「おかえり、意識のある死はどうだった?」
「いっそ殺せと思った……」
死んではいけないと分かっているのに死にたいと思ってしまうほどの体験だった。そんな魔法を使ったわけでもないのに疲れ切っている俺を見て心底嬉しそうに笑っているフォールをみて殺意が湧くがこれ以上痛みを味わいたくないので我慢した。
そんな俺をみてフォールは何か思いついたように俺を見る。
「死ぬのが嫌なら他の誰かを登場させてそいつを身代「嫌です。死ぬのは俺でお願いします」
何を言うのかなんとなく予想がついたので否定する。
「どうして?夢だから別にいいじゃん」
「誰もかれも守ろうとしている人にその仕打ちは、死ぬより辛いです」
そう言うとフォールは「ぶふぅ!」と噴き出した。
「あははは!そうだね!君はそういう人間だったね!」
そして俺は再びエクスカリバーを構える。そして意識を集中させる。
―――そして
「もう一回☆」
今度はゴシャツ!という自分の潰れる音まで聞こえた。
結局十回くらい潰れたところで今回は現実に帰った。
臨死体験って…するもんじゃないね…しばらく夢を見たくないよ…