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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
102/258

相対

 空に黒い塊がある。おそらくあれがフォールなのだろう。その黒い塊の下で俺たちは訓練に励んでいる。

 デュランダルだけじゃダメなんだ。エクスカリバーも解放しなくちゃいけない。あのフォールがしたように、光の魔法を完成させなくてはいけない。


「とはいえ…何の情報もないんだよね」


 習うより慣れよとか、コツを掴めばなんとでもなるとかあるけどコツなんてわからないし習おうにも慣れようにもこの魔法を使えるのは俺しかいないんだからどうしようもない。

 勇者の文献でも残ってればよかったんだけど…ほとんどなかったしなぁ。唯一分かったのは光魔法と闇魔法が対極にあるってことぐらいだし。


「対極か…」


 空に浮かぶ黒い塊を見つつため息をつく。あの闇魔法を見てから何となく感じるものはあったんだけどどうも分からない。

 確かに俺はフォールと対極にある。飄々とした性格も残忍な決断も残酷な希望も何もかもが俺とあいつとでは対極だ。あいつが人を殺すことに特化したのだとすれば俺は人を救うことに特化しているはずなんだが…


「何とかしなくちゃ…」


 嫌でも焦ってしまう自分を押さえつつエクスカリバーに魔力を集中させる。光を発したエクスカリバーを振りかぶり振り下ろす。巨大な光は地面を抉り消えた。


「これじゃないんだよね…」

「おい、ユウヤ」


 ディスベルさんに話しかけられ後ろを向く。ディスベルさんは不機嫌そうに俺のほうを見ている。

 何があったんだろう…まぁ大方悠子のことだと思うけど。


「なぁユウヤ。お前はオレが魔王になったら助かるのか?」

「まぁ、うん。そうだね」


 魔王になるということは闇魔法が使えるということだ。今はフォールが闇核を持っているけれどそれがディスベルさんに継承されればいいだけだし。

 まぁそんなことができるんならとっくにやってるけど。


「あの空の黒い塊は、最下層の罪人らしいな」

「ですね」

「あれは挑発してるってわけでもないんだろうな。リュートを殺しかけるなんてことができるんならわざわざ挑発する理由もない」


 いや…フォールのことだからこっちの反応を楽しんでるって可能性も捨てきれないけど…

 黒い塊を睨み、ディスベルさんは言った。


「あれ、落とせるか?」

「いや無理です」


 反射的に答えてしまいまた機嫌を悪くするかと身構えたが特になにもなく「そうか」とだけ呟いてどこかに行ってしまった。

 なんだったんだ?



 創造主こと浅守燈義はホーメウス帝国に出現した黒い塊の中にいた。

 正直、二度と会いたくなかったが…まさか生きているとはな。てっきりあの世界で死んで残されたかと思ったが。


「おい、いるんだろナイト=フォール」


 燈義が言ってもなにも反応はない。燈義は舌打ちをして一回足踏みをした。するとどんどん景色が広がっていき見えたのは、


 日本の首都、東京。しっかり東京タワーもあり、スカイツリーはまだ建設中だ。燈義はスカイツリーの建設中に一度だけ東京を訪れたことがある。

 確か修学旅行の時だったな。まだ僕が中学の時だ。

 フォールの気配を追って人がいない街中を歩き、東京タワーをのぼり展望台に着く。そこには街を見下しつつゲーム機をいじるフォールがいた。


「異世界というのは初めて見たけど、大きな建物が多いね。一時期の電脳種を思い出すよ」

「生きてたんだな。魔王」

「生き残ったんだよ。魔導書館くん」


 燈義が右手をかざしラストインフェルノを発動させるもフォールは東京タワーから飛び降りそれを回避する。そして追ってくる炎を右手を振り打ち消す。

 さすがにこの空間では無理か。と燈義もタワーから飛び降りる。


「ここは君の世界から切り離されてる。ここではぼくこそ創造主なんだ。だから君とぼくとの間に決着はつかないよ」

「そうか…だが黙っているわけにもいかないな」


 燈義が手を振り上げると東京タワーがねじ曲がり、分解され、無数の鉄柱となってフォールに降り注ぐ。フォールはその場から動くことなく両手を振るい黒い竜巻を発生させ鉄柱をすべて吹き飛ばした。そして燈義とフォールの周りに鉄柱が突き刺さる。


「相変わらず無茶苦茶だね~まさかぼくの世界に干渉するなんて」

「僕が何なのか忘れたか。この程度の魔法、百年もあれば理解できる」

「対策は万全か…じゃぁこの世界が乗っ取られる前に手を打たないと」


 そう言ってフォールはパチンと指を鳴らす。そして地上の全てが消滅した。

 フォールの世界と言うのは基本、創造主である燈義の記憶をもとに形成している。つまり地球の構造を逐一理解しているので、フォールはそれを実現させた。


「大気とか気圧とかは問題ないだろうけど、これはさすがにつらいんじゃない?」


 つまり、地上から一切が消え去ったので、燈義はマントルへと落ちていくしかない。が―


「そうでもない」


 気が付くとフォールはまた東京の街中に立っていた。何一つ壊れていない、東京タワーもそこにある街並みに戻っていた。


「魔法干渉は僕の専門分野だ」

「そうだったっけ?よく覚えてないな」

「覚えてなくていい。死ね」

「殺せないくせに」


 フォールがそう言うと燈義はすこし止まり、舌打ちをした。

 そうだ。僕の既存の情報で創られているこの世界において闇核は必要だがそれを持っているのイレギュラーと化しているフォールだ。知らないものを創れない以上むやみに殺すわけにはいかない。


「君の理性的なところは好きだよ」

「黙れ亡霊。元の役割に戻れ」

「断るよ神様。ぼくはぼくだ。ぼくの望むことしかしない」


 燈義はまた舌打ちし、空間から消えた。フォールは風景を東京から百年前の自分の居城、魔王城に戻して魔王の椅子に座る。


「そう…全て、ぼくの望み通りに」


 その先は…まぁ希望になるかな。彼ら選択次第では。

 フォールはまたゲームを取り出し、電源を入れる。目の前の扉が開けられ百年前のあの時のような戦いができることを期待しながら。

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