チャプター10 ファルコンマン誕生
翌朝のノーラン邸。
目が覚めたトビアスは地下のジムで体を鍛えていた。
ゆっくりとバーベルを持ち上げては下ろす、持ち上げては下ろす。
これを繰り返していると、サムがやって来た。
「起きてたのか。朝食は?」
「後で食べるよ。」筋肉トレーニングをしながら、トビアスは答えた。
「何か仕事しないのか?こう、人の役に立つ仕事とか」
「ノーラン産業に入ろうかな~?」
「新入社員になるのか?」
「ああ。」
「やめておけ。上下関係が厳しいから。」
「なら、仕事はしないよ」
「若造が。」
サムは苦笑いして言った。
すると、トビアスは筋肉トレーニングを止め、別の話題に話を移した。
「サム、今この企業で何か造ってるものってある?」
「造ってるものか?そうだな、今のところ軍隊向けに製造したステルススーツと、特殊バイク、速さを極限まで追求したランボルギーニの改造車の試作品ならあるが。何れも軍用に考えている。まあ、お前には縁の無い代物だ。」
「それ、見せてよ。」
「ダメだ。他に知られては困る。企業秘密だからな。」
サムはきっぱりと断った。
しかし、トビアスは頼み込む。
「聞いてくれ、僕はなりたいものがあるんだ。」
「なりたいもの?」
「そうさ。この街に巣食う犯罪と戦う、こう、何か強いものに。」
「それで、今造ってる物を見せて欲しいと?」
サムが問いかけると、トビアスは頷いた。
「わかった。見せてやろう。ただし、絶対に他には口を割るなよ。ついてきたまえ。」
サムは考え込んだ後そう言って、階段を上がる。
彼についていくトビアス。
サムの車で、ノーラン産業開発部へと向かった。
開発部に着くと、そこは厳重なセキュリティ体制が敷かれており、カードキーでなければ入れないようになっていた。
地下に降りてカードリーダーにキーを通し、ドアを開けるサム。
長い通路を歩いていくと、巨大な貯蔵庫のような場所に来た。
その中には、様々なメカがあり、ハイテク兵器の試作品がズラリと並んでいる。
奥のガラスケースには、サムが言っていたスーツが、厳重に保管されていた。
「どうかね?」
「凄いよ・・・こんなもの見たの初めてだ・・・」
「これが、現在製作中のステルススーツの試作品だ。防弾仕様、そして、兵士に負担をかけないように、できるだけ軽く衝撃に強い素材を使った、画期的なスーツだ。」
「横のマフラーみたいなのは?」
「これか?」
サムは、ガラスケース越しに指し示すと、ガラスケースを開け、マフラーのようなものを取り出した。「これは特殊な素材で造った、ウィング型パラシュートだ。風を切ると、グライダーのように頑丈になる。従来のマッシュルーム型パラシュートとは違い、コントロール性に優れている。」
「それを、スーツに着けることは?」
「もちろん。そのために造った。どうだ、試着してみるか?」
「ああ、試着したい。」
「よし、ついてきたまえ。」
サムはスーツをアタッシュケースに収納し、トビアスをバーチャルトレーニングルームまで案内した。「凄い・・・」
トビアスは思わずつぶやいた。
「さあ、スーツを着て。」
サムはアタッシュケースをトビアスに渡すと、コントロールルームに入った。
トビアスはスーツを着ると、準備をした。
スーツは重そうな外見とは裏腹にかなり軽かった。
「本当に軽いな!」
「別名フェザーライト(羽のように軽い)スーツだからな。さあ、始めるぞ。」
「OK。」
トビアスは、ファイティングポーズをとる。
シュミレーションがスタートした。
CGのロボットがこちらに殴りかかってくる。
すかさずかわし、ロボットにアッパーを喰らわせ、ハイキックをきめた。
サムは拍手しながら、装置を止めた。コントロールルームから出てきて、トビアスに聞く。
「どうだ?動きは。」
「最高だ。とても動きやすい。」
「これで街に出るのか?」
「いや、これを自己流に改造する。ところで、さっき言ってた車とバイクは?」
「軍用機専用ガレージにある。どっちも試乗してみるか?」
「ああ。」
トビアスとサムは、軍用機専用ガレージへと向かった。そこには、陸、海、空の様々な兵器が保管されていた。例のバイクと、車もその中にあった。
トビアスはバイクのハンドルを握っていると、「試乗するか?」サムに聞かれた。
トビアスは頷く。トビアスとサムは、地下2階の広場へと向かった。
トビアスは、ヘルメットを被り、バイクに跨った。
サムはそんなトビアスを場外から見守っていた。
バイクを走らせるトビアス。
「乗り心地はどうかね?」
「最高だ。小回りもきくし。」
トビアスはバイクから降りると、車に乗った。サムも一緒に。
車を運転するトビアス。助手席で、サムがこの車について説明する。
「この車は防弾仕様、銃撃はびくともしない。バズーカ砲の衝撃にも2発までなら耐えられる。」
「2発以上は?」
「緊急脱出装置が作動する。どうだ、気に入ったか?」
「ああ。ところで、この色は何とかならないかな?」
「塗装したいのか?塗装なら、開発部に頼めばすぐにできる。何色だ?」
「黒と金、赤で頼む。」
「随分派手だな・・・」
サムはそう言うと、開発部に連絡する。
「もしもし、私だ。例の試作品を塗装して欲しい。何だって?いや、特別なお客様からの要望だ。頼むぞ。」電話を切ると、サムはトビアスに言った。
「特別に塗装するように頼んでおいた。」
「ありがとう。」
トビアスは感謝すると、サムと握手した。
トビアスは豪邸に戻ると、アタッシュケースに入れて持ち帰ったステルススーツを地下に持ち込み、塗装していた。
全体をマットブラックに、一部を金色に。
サムはトビアスの作業風景をじっと見守っていた。
トビアスは、スーツをスプレーで塗り終わると、特殊加工された防弾ガラスを素材に、ある形に切断しはじめた。
やがて出来上がったその形は、ハヤブサだった。
「なぜ、ハヤブサなんだ?」
「僕にとって特別な存在だから。僕を光へと導いてくれた・・・」
ハヤブサのエンブレムを赤く塗装し、スーツに接着する。
「よし。出来上がり。」
スーツは軍用の武骨な外観から、トビアスの求めていた思いが反映され、より洗練されたものへと生まれ変わっていた。
「おっと、忘れてた。サム、海外に特注してこれを造って欲しいんだ。」
トビアスはそう言って、デスクからデザイン画を取り出し、サムに渡した。
デザイン画を受け取ったサムは、つぶやいた。
「ファルコンマン・・・か。わかった。日本企業と交渉して、共同制作する。サンプルが送られたら、強度を確かめないとな。完成品が出来上がるまでに、トレーニングするといい。」
「ありがとう。恩に着るよ。」
トビアスはスーツをアタッシュケースに入れ、クローゼットへと保管した。
5日後。
サンプルが送られてきた。
厳重な箱に入ったそれを開けると、トビアスのデザイン画どうりの出来だった。
トビアスはハンマーをマスクにハンマーを向ける。
振り下ろすと、マスクは簡単に壊れてしまった。
「もう少し強度が欲しいな。」
「よし、依頼してみよう。」
一週間後。完成品が送られてきた。
完成品は試作品よりも洗練され、軽くなっていた。
トビアスはハンマーでそれを叩くが、ひび1ついかなかった。
「完璧だ。」
トビアスはサムに握手を求めた。
笑顔で握手に応じるサム。




