君のおかげ
突然過ぎる白木君の登場に、すっかり私の思考回路はストップしていた。
でも彼の方は彼の方で、それ以上何を言う訳でもなく
ただじっと私を窺うように見上げてくるだけで・・・。
「あ、の・・・・何で?」
やっと私が言えたのはそれだけで、正直
何が言いたいのか自分でもさっぱりだ。
やっぱりまだちょっと混乱してるみたい。
「さっき、俺の友達の携帯にチェーンメールみたいなの回ってきてさ。
それで、教室戻ったら沢村さんいないし。
弁当広げっぱなしだったから・・・なんとなく?探してたっていうか。
まあうん、見つかって良かった。」
そう言って安心した、とでもいう様にホッと息をつく。
なぜ彼が、白木君がそんな風に安堵する必要があるのか?
本当にこの人、訳分かんない・・・。
「教室戻れそう?」
どういう理由があってこんなに親切にしてくれてるのかは分からない。
でも、心配してくれてる、その気持ちに嘘がないってことだけは
いくらおバカな私でもちゃんと分かる。
「うん。」
きっと彼の言うチェーンメールは例の写メのことだろう。
だからかな?すっごいさっきから恥ずかしい。
・・・いや、段々恥ずかしくなってきた。
私自身はまだその写メを見ていないけど、正直
他人様が見て気持ちの良いものではないだろう。
他の女子のだったら「おっ、ラッキー」くらいですむのかもしれないけど、
なんてったって私の(おそらく)下着姿ですからね。
そしてそんなものが白木君の目に触れたのだ、と思うと、
もうなんだろう・・・・・・・・・・
・・・・・・・泣きたくなってきた。
さっきまで写メが回されて、他人の目に触れても自分さえ我慢して
無視すれば良いんだ、って諦めがついていたはずなのに。
そう思って「あぁ、なんかもういいや。」みたいな気持ちになっていたのに。
どうしてなのか。
白木君に見られたと思うと、情けない様な惨めな気持ちが
どんどん自分の中で膨れあがってきて。
もう、耐えられなかった。
「・・・・っう、ぅううっっ。」
涙がぼろぼろ目から溢れて止まらない。
一度決壊するともう自分ではコントロールがきかなかった。
ただ声だけは必死にこらえて、私は俯いたまま、膝を自分の方に強く抱き寄せた。
ふいに真横でふわりと空気が揺れるような感覚。
膝小僧にうずめていた泣き顔をあげて横を見れば、白木君が隣に腰掛けていた。
白木君は何も言わないけど、こんなに冷えこんだ階段に座り込んで
一人で泣き続けるなんてことになっていたら、
きっと、もっと私の心は傷ついていただろう。
結局、私はその後ずっと泣き続けて、当然午後の授業なんて出れなくて。
でも、白木君は私が泣き止むまで横にいてくれた。
何も言わずにただじっと座って。
寒いだろうに。
私は泣いてばかりで彼は手持ち無沙汰で退屈だろうに。
ただじっと待ってくれていたんだ。
私が泣き止むのを。
何度も涙が止まりかけてはまた別の、もっと昔にあった嫌な事まで
全部思い出して、また泣いて。
それの繰り返しで、やっと完全に涙が止まったのはもう放課後。
微かに校舎外から帰宅学生の声が聞こえてくる。
隣を見ると、彼もこちらを見返してきた。
そうして一言ポツリと
「午後の授業全部さぼって・・・・・・俺らって実はすげぇ不良かも。」
にやり、と笑った白木君に、
いつのまにか自然と笑みを返せる自分がそこにはいた。