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君ってやんちゃ

さいわい彼があの後クラスメートの前で私に話しかけたり


というようなこともなく・・・・


そのまま午前の授業も最後。


とうとう体育の授業がやってきてしまった。


正に恐怖の時間である。


今日は一体何を周りから言われるのだろう?とビクビクしながらも更衣室に急ぐ。


更衣室のドアを開けると、もうすでに何人かの女子が着替え始めていた。


しかもクラスでも割と苦手なタイプの女子グループだ。


本当に今日は何から何までついてない。


彼女達のキャッキャ、とはしゃぐ声が耳に突き刺さるようで


私ははやく着替えて出て行こう、とそのことばかり考えていた。


そのせいで彼女達の行動に気付くのが一瞬遅れてしまった。


私が上のブラウスを脱いだ、その瞬間「カシャッ」という突然の機械音。


えっ


と思ってそちらを向くと、さっきの女子達がにやつきながらこっちを見ている。


その手には携帯。


もし今の音が写メでの撮影音なら、撮られたのは私の下着姿ということになる。


すると、携帯を握る女子が私に向かって一言


「こっち見んなよっ、ブス。」


やっぱり気のせいだったと考えるべきなのだろうか?


確かに、私の写メなんて撮ったところで何の需要もないとは思うけど・・・。






体育の授業はいつも準備体操から始まる。


体育という時間の中で唯一この瞬間だけはストレスを感じないでいられる。




そして今日の授業内容はバレーボール。


一番苦手な団体競技だ。


たった一人の失敗が全体の不利益につながるという点で


私みたいな奴にはかなり酷な競技。


私一人の失敗がそのグループ全体の損になるのだから


当然失敗した時の風当たりもきつい訳で・・・。


それに私には味方してくれる友達もいないから


尚更みんなの非難の度合いもきつい。


余計なストレスを感じる分、動きも自然と鈍くなってしまう。


「ちょっと!沢村さんっ、今のボールならとれたでしょ?!!」


目をむいて叫ぶ同グループの女子。


確かみんなからは「まりっち」と呼ばれて慕われてる子だ。


運動部に所属してたな、そういえば。


だから余計私みたいに運動できない奴が腹立たしいのだろう。


こういう人って、いつもこんなちょっとしたことで


カリカリして疲れないのだろうか・・・。



・・・いや、とにかくこの場は謝ろう。


たとえ私に非がなくとも。


「ごめん・・・。」


「ごめん、って。ごめんって・・・あんた、本当に分かってんの?


 いっつもちゃんと動けって言ってんじゃん!


 前もそうだったけど、謝ってばっかりで全然改善してないしっ。」


吐き捨てるようにそう言うと


彼女はそのまま自分の友達の方へ行ってしまった。


後にはポツンと私一人が取り残される。


ああ、今日も失敗してしまった・・・。


「おい、次の試合の邪魔っ!!」


うっかりコート内に立ち尽くしてしまっていたようだ。


「あ、す、すみませ・・。」


「速くしろよ。」


チッ、と舌打ちの音。



この音は耳にも心にも突き刺さる。



私がコートを出るのと入れ違いに男子グループが


入ってきたところを見ると、次は男子試合らしい。


よく見ればさっき舌打ちした男子の後方に例の、猫みたいな男子生徒が


走ってくるのがチラリと見えた。


同じグループなのだろう。


そこまでは良かった。





そう、そこまでは。


走ってきた猫男子がそのまま、さっきの舌打ちした男子の


背中に跳び蹴りをくらわすまでは。





跳び蹴りは見事にきまり、くらわされた男子生徒は「ごぶぅっ」と


潰れた声をあげて倒れた。


一瞬シーーーーン、とその場が静まりかえる。


私は唯呆然と立ち尽くすばかり。


と、すぐに倒れこんだ男子が飛び起きて猫男子に


「っおい!何すんだよ!!」と。


でもその表情に不思議と怒りはない。


猫男子の跳び蹴り加減(?)が絶妙で怪我がなかったということも


あるだろうが、どうやら二人は仲が良いようだ。


猫男子もいたずらっ子のような無邪気な笑顔で悪びれた様子が全くない。


二人の空気が険悪にならなかったことで、自然と周囲からも笑い声があがっていた。



でも、私だけは気付いていた。





彼があんなことをした理由。







だってその後、彼が一瞬だけ私の方を振り向いて


「にっ」と口の端をあげて笑ったから。




見間違いなんかじゃない。



彼の視線の先には確かに私しかいなかった・・・。

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