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君って不思議

拉致される瞬間に思ったことは「あ、いい匂い。香水?」

自分でもあまりの危機意識のなさに正直あきれたけど、私を拉致して

性的にどうこうしよう、なんて輩がいないことはもう今までの経験上

はっきりしていることだ。それ以外の目的に殺害とかはあるかもしれないけど、

まさか白昼堂々学校内で、しかもバリバリの現役生がそんなことするとも

思えなかったし。なんにしろ抵抗らしい抵抗もできないまま、ずるずる

引きずられるようにして連れて行かれた場所は、学校の屋上へ通じる階段だった。

そこでやっと、私の口をふさいでいた彼の手が離れる。


「お前、あんな所で叫ぼうとするなよ。さぼってんのがばれるだろーがっ。」


ひそひそ声での彼の言い分は、内容こそ咎めるようなニュアンスを含んではいるものの、

怒ってはいないみたいだ。むしろ楽しそう。

だって口の端がきゅっ、とつり上がってるから。


なんにしろ、今から授業に出る気はもうとっくに無くしていたから、

この際さっきトイレに持って行って、まだ読みかけだった本の続きでも、と思って

私は本を開いた。


「え、この状況で普通本読む?てか人の存在さっきから完璧無視だね・・・。

 やっぱり変わってるなー、沢村さん。」


そんなことを言われても困る。だってこんな状況、どう反応していいのか・・・

友達いない歴も早4年の超がつく根暗にはハードルが高すぎると思いませんか?

と、いうかどうしてこの男子生徒はまだ私の隣にいるんだろう?さっきは叫ばれると

まずいからここまで拉致した訳で、用がないならさっさと好きな場所へ行けばいいのに。


とかなんとか考えていると、ふいに彼がこちらに体ごと向き直って


「邪魔?」


と。どう答えれば良いのだろう?今まで自ら進んで私の傍に居たがる人なんていなかった。

それがどんな理由であれ。

むしろ私が気にならないなら、居てくれても一向にかまわない。

ただちょっと居心地が悪いだけなんだ。家族以外とこんな風に話すのが久々過ぎて。


「邪魔じゃない。」


ぱぁ、と彼の表情が明るくなる。


「ありがとっ!」


ごく自然な口調で彼は言った。きっと周りから親切にされるのも、するのも当たり前な

人って、こんな風にするっと言葉が出てくるんだろう。


・・・あぁ、また卑屈な考え方してる、私。


「沢村さんはいつもまじめだよね。授業もちゃんと出てるし。」


「それは・・・。」


ちらっ、と彼の顔を盗み見る。返答しても大丈夫だろうか、と。

しゃべり方が気持ち悪い、なんてしょっちゅう言われてたし・・・。

私が返答しても、ひどいことをこの人は言ったりしないだろうか?

だけど、そんな心配がいらないと分かる程、彼の表情からは微塵の邪気も感じられない。

彼は無邪気なんだ。ただ興味や関心があることに、素直なだけ。


「・・・・それはだって、授業うけるために学校来てるわけだし。」


「う~ん、まぁそうだよね。でもこの学校まじめ過ぎると思うんだよなぁ。


 だから今までは俺もまじめちゃんやってたけど、一回くらいはさぼりも


 経験しとくべきかな、なんて。」


そう言って、すごく嬉しそうに笑う。


「変わってるね。」


「そう?」


こんな風にどうでもいいような会話を誰かとするのって、本当に久しぶり。


「そういえば、どうして私の名前知ってるの?」


「っ!!同じクラスだろっ。」


なるほど・・・。全然気がつかなかった。

そもそもクラスの人間の顔(特に男子生徒)をよく見る機会がなかったし。

私が見てたら「気持ち悪い」で一蹴される自信があるもの。




結局この後、なんだかんだでポツポツお互い会話らしきやりとりが続いて

気がついたらチャイムが鳴っていた。

そこで彼とは別れて(一緒に教室まで行こうと言ってくれたけど、変な噂が出ると嫌なので断った。)教室に戻った後は、帰宅までまたいつも通りの一日だった。


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