君は何?
じーーーーと、しばらくお互いを見つめ続けて数分。
先に目をそらしたのは私。
こういう場合さっさと通り過ぎないと、私の場合は
イチャモンをつけられるか、何も言われないまでも、舌打ちは確実にされる。
今までがそうだった。
私以外の女なら、どの男も嬉しそうにニコニコしてたけど。
それに今は廊下で瀕死の重傷を負った生徒が寝転がってようが、どうしようが
私には次の授業に出席する、という明確な目的があるのだから
どっちにしろこんな所でグズグズしてる訳にはいかない。
急がないと、本鈴までもうそれ程時間もないだろうし。
「ねぇ。」
今廊下の隅で猫か何かが啼いたみたいだ。うん、空耳だな。
「沢村さん?」
えーー、猫がしゃべった?しかも私の名前を・・・・。
「沢村さん、今から教室に行っても誰も居ないと思う。
もう次の授業始まってるし。・・・・・聞こえてる?」
次の・・・授業が始まってる?確かに廊下には誰も出てないけど。
「うそ。だってまだ予鈴しか鳴ってない。」
「さっき鳴ったのが本鈴。よく聞いてなかったんじゃない。」
そういえば今日は昼前に色々あって、トイレでもぐるぐる考え事してたから
聞いてなかったと言われればそうだったのかも。どうしよう・・・。
いや、そもそも私は一体誰としゃべってるんだ?あれ?
さっきのは猫の鳴き声じゃなくって誰かが私に呼びかけた声だったのか・・・・?
廊下の隅に座ってたあのだん・・
「え、何、ショックで立ったまま気絶とか?」
ひょいっ、と突然視界に割り込んできた男子生徒の顔に、驚いた私はもちろん
叫び声をあげる・・・・・・・・・・
・・・はずだった。と、いうかもう
反射的に口が開いてたんだと思う。後は声帯が震えるだけだったにも関わらず
それを阻止したのは例の男子生徒。
彼は片手で私の大きく開いた口を無理矢理ふさぐと
もう片方の手で体ごと腕をひっぱって、そのまま私を拉致してしまった。