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第3話 勇者の実力 その一端

「勇者に関する諸々(もろもろ)は、私に一任されてるの。世界を救ってくれるのなら、出来る限り希望に答えてみせるわ。たとえ、大臣が何と言おうとね。」

 アンナのこの言葉によって、オレンが心配していた報酬の話は数分で解決した。

「よかった。」

 実は、オレン自身は報酬なんて必要ないと思っている。

 オレンは金が目的で勇者をしているわけではないからだ。

(泣いている人たちを助けたい)

 ただこの願いのみで行動しているのである。

 しかし、オレンが救いたいのはこの世界だけではない。

 これからもたくさんの世界に行って、困っている人々を助けたいと願っている。

 だが、<エイジ>の人間にかけられている<ロック>のプロテクトを外すためには、<派遣勇者>として登録していなければならない。

 そしてそのためには、仕事を終える度に会社に登録料として報酬の何割かを渡さなければならないので、報酬を貰わないわけにはいかないのである。

 オレンにとって<ロック>とは、自分を理不尽な召喚から守るものではなく、自分の手足に付いた(かせ)のようなものだった。

「すみません、本当は困っている世界から報酬なんて貰いたくないんですけど・・・。」

「何言ってるの。私はうれしいよ。最初にお父様が勇者召喚を決定した時、大臣は無償で働かせるつもりだったの。元の世界への切符を条件にね。それじゃあ、まるで奴隷じゃない。この国では何百年も前に無くなった悪しき風習よ。・・・だから、あなたが自力で元の世界に帰れるって聞いたとき、私すごく嬉しかったんだから。」

 そう言いながらもアンナの顔は曇っている。

「ただ、この世界の問題を他の世界の人に押し付けるっていう考えがあまり好きではないんだけど・・・。」

「いえ、困ったときはお互い様です。」

 オレンはどう答えればいいのかわからず、曖昧な答えを口にした。

「それでね、私もこの旅についていくことにしたから。」

「え・・・?」

「道案内も必要なはずよ。それに、私この世界ではかなり上位の魔法使いなんだから。自分の身は自分で守れるわ。」

「・・・危険ですよ・・・?」

「だからこそよ。この国では、魔物の討伐でも王族が先頭で戦うわ。危ないからって自分たちだけ安全なところに引きこもってるんじゃ、国民は付いてこないもの。今回だって同じよ。あなただけに任せていたら、私の気がすまないの。」

(ここまでの覚悟を持っているのか・・・)

「・・・わかりました。ですが、失礼ながらあなたの力を見せてもらいたい。いいですか?」

「わかってるわ。あなたの命にも関わることだもの。もし足手まといになると思ったら置いて行ってくれて構わないわ。」

 アンナの瞳には少しも揺らぎがない。

(自分の力に絶対の自信を持っている。そして、もし俺の希望に沿わないレベルの力だとしても納得できる意志の強さを持っているな)

「わかりました。それでは、テストをしましょう。」



 アンナのテストとオレンのスライム対策をかねて、2人は『リン国』を出て直ぐの草原に出ていた。

「この草原には既に数匹のスライムが確認されているわ。今は『リン』を守る結界魔術のおかげで入ってこれないけど、1年もしたら結界の効力が切れる。それまでに『スライムコア』を壊せなければお仕舞いよ。」

「ここなら、仮にスライムを倒せなくても逃げ切れます。安心して修行できますね。」

「あら、あまり弱気にはならないでほしいわ。あなたは希望なのだから。」

「いえ、過剰な自信は破滅を呼びます。戦闘では、常に最悪の事態を想定しなければなりません。勿論、他の人たちの前では勇者らしく振舞いますが、これから一緒に旅をする人の前で強がっても仕方ないでしょ?」

「ふふ。それもそうね。」

 少し緊張した様子のアンナだったが、かなり緊張が解れてきたようだ。

「それで、今のうちに聞いておきたいんですが、そのスライムに弱点はないのですか?」

 オレンが尋ねると、アンナは苦い顔をして

「今のところ発見されてないわね。魔王も言わなかったし。」

「なるほど、それじゃ色々試してみますか。」

 そう言うとオレンは持ってきていた『異次元バック』から黒いロングコートを取り出して着た。

 そして、また手を突っ込むと、今度は聖剣<アルクシード>を取り出し、腰の辺りに装備する。

「すごいわね。本当に出てきたわ。」

 事前にバックのことは話していたのだが、やはり驚いている。

「それはなんなの?」

「これは、私の鎧ですよ。それと、聖剣<アルクシード>です。」

「これが鎧なの!?布じゃない!」

「ええ、軽くて動きやすい上に防御力は折り紙つきです。どちらも勇者装備開発会社<ワンダ>の最高級品ですよ。」

 他の世界に勇者を派遣する<エイジ>では、勇者に装備を売っている会社も存在する。

 召喚された世界で必ず最高の武器や防具が手に入るとは限らないからだ。

 勇者には聖剣などがつき物だが、それすら手に入らない可能性すらあるのである。

 さらに、他の世界の情報が多く手に入るために、ある程度の技術力があれば様々な能力を持つ道具を製作出来るので、召喚された世界の道具を使うよりも便利な場合が多いのである。

 その内の1つ<ワンダ>は、独創的な発想で癖は強いが強力な装備を多く製作する、玄人好みの会社だ。

 オレンの装備はほとんどこの会社のものである。

 そこまでをアンナに説明したところで、オレンは魔物の気配を感じとった。

「来ましたね。」

 スライムである。

 異様なスライムだった。

 普通のスライムが10CMほどだが、倍はあるだろう。

 色も通常のより濃い青のような気がする。

 そして、オレンはそのスライムから威圧感を感じていた。

(これは、本当に強い)

 オレンはアンナを下がらせると、腰の聖剣を抜いた。

 構えをとり、オレンがタイミングを図っていると、スライムが突撃してきた。

(速い!!!)

 10Mほどあった距離を、スライムが一瞬で詰めてくる。

(後ろにはアンナがいる!)

 オレンは回避を諦め聖剣を構え、迎撃しようとする。

 構えた聖剣へスライムが飛び込んでくる。

(な、切れない!?)

 迎撃のために横にした聖剣へぶつかったスライムは、切れることなくブヨーンとはじかれた。

(通常バージョンでも、触れただけで大抵の物を切れるのに・・・これは、想像以上だ)

 オレンはスライムが体勢を立て直す前に叫んだ。

「安全装置解除、バージョン01『村正(むらまさ)』!」

 その瞬間、オレンの持つ聖剣が光を放ち、次の瞬間には全く別のものが握られていた。

 長さ1.5mほどの鈍く黒光りする(かたな)である。

 後ろでアンナが驚いているが、構っている余裕はない。

 既にスライムが突進の体勢に入っている。

 オレンは刀を、こちらも形が変わっている鞘に納め、右手を添えて前傾姿勢になった。

 そして・・・

(!来た!)

 スライムが突進してきた瞬間、抜き放った!

 オレンは刀を鞘に納め、油断せず後ろのスライムに向き直る。

 スライムは数秒ウゴウゴと蠢き、そして動かなくなった。

「す、凄い・・・。私たちが多大な犠牲を払っても倒せなかったスライムを、こんな簡単に倒しちゃうなんて・・・・・・。」

「・・・いえ、これは私でも少しキツイですね。本来ならコレは奥の手なんですよ。そんなに軽々と使える代物じゃないんです。」

 オレンは、通常状態に戻した聖剣<アルクシード>を鞘に戻しながら、苦々しく呟く。

「勿論、コレが全力じゃありませんが、一匹倒すのにこんなに消耗していたら・・・。」

(困ったことになった・・・。これは、本当に全力を尽くさないと駄目みたいだ・・・)

「すいません、準備したい物があるので、城に戻りましょう。」

 彼らは城へと戻っていった・・・。

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