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必ず君を救ってみせる。〜推しが消える最終回は認めない〜  作者: 唯乃


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第四話

 郊外の廃教会。


 ここは、三十年前の邪神と勇者と戦いの余波で崩壊し、そのまま放置されている。


 かつて祈りが捧げられていたであろう祭壇は崩れ、ステンドグラスの破片が月光を反射し不気味な光を放っている。


 普通の人間なら、こんな場所に足を踏み入れることはない。


 だが、俺は淀みなく奥へと進んだ。


「……そこにいるのは分かっている。出てこい、ヴァル=ディグナ」


 呼びかけると、空間がカーテンのように揺らいだ。


 祭壇の影から、どろりとした影が染み出す。

 それは不定形の闇から、やがて青白い炎のような瞳を持つ異形の姿へと形を変えた。


【……ホウ。矮小な人間風情が、我が名を知っているとは。恐怖に震えることもなく、自ら死を望みに来たか】


 鼓膜を揺らすのではなく、脳に直接響くような不快な声。


 魔族ヴァル=ディグナ。


 原作では四年後、この廃教会を拠点に力を蓄え、九条蒼真の肉体を乗っ取ってエクリプスの幹部へと成り上がる存在だ。

 だが、現時点でのこいつは、ただの死にかけている魔族に過ぎない。


「死にに来たんじゃない。……商談に来たんだ、異界の住人。お前、今のままだとこの世界に存在し続けられないだろ?」


 ヴァル=ディグナの動きが止まる。


 この世界の理として、高位魔族はこちらの生物を依代よりしろにしなければ、存在を維持できない。


 三十年前にこの世界にきたヴァル=ティグナは、帰還する術を失った上、傲慢な気性とプライドの高さが邪魔をして、人間以外の動物を依代に選ぶことはなかった。

 もはやその命は風前の灯だ。


【……貴様、何を知っている】


「お前に最適な『器』と、その先にある莫大な利益を提示してやる。俺を依代にしろ。そうすれば、お前は消滅を免れるだけでなく、今の数百倍の力を手にできる」


【ハッ、笑わせるな。我がお前を食らい、その意識を塗り潰せば済む話だ!】


 影が膨れ上がり、俺を飲み込もうと迫る。


 凄まじいプレッシャーが魂を削りに来るが―俺は一歩も引かなかった。


「やってみろ。……だが、俺の精神を食い破るのにどれだけの時間がかかる? その間に消滅するのがオチだ。賭けてみるか?」


 冷徹な声で言い放つ。


 一瞬の沈黙。ヴァル=ディグナの影が、苛立ちに震えた。


「……俺には計画がある。エクリプスに潜り込み、邪神復活のエネルギーを掠め取る。そのエネルギーをお前の核に流し込んでやる。そうすれば、お前は邪神の配下ではなく、新たな『神』にすらなれるだろう」


【………】


「お前だって、絶対者に跪くだけの生活は退屈だろ?」


 俺は一歩踏み出し、自ら喉元を晒すように両手を広げた。


「俺が主導権を握る。お前はその力を貸せ。利害は一致しているはずだ。……さあ、選べ。ここで惨めに消えるか、俺を依代として、最強の魔族を目指すか」


 青白い炎が、値踏みするように俺を見つめる。


 やがて――影が嘲笑うように歪んだ。


【面白い……。これほどまでに傲慢な人間は初めてだ。良かろう、その「器」、我が借りてやる】


 影が一気に収束し、俺の胸元へと突き刺さった。


「ぐっ……、あああああぁぁぁッ!!」


 血管を沸騰した鉄が流れるような激痛。


 意識の深淵で、ヴァル=ディグナの意思が俺の自我を侵食しようと牙を剥く。


 だが、俺はそれを冷たく突き放した。


(――黙って座ってろ。お前の席はそこじゃない)


 暴れる魔力を、強固な理性の檻で押さえつける。


 侵食は止まり、激痛が引いていく。


 代わりに、全身に漲るのは、かつて経験したことのない全能感。


 視界の端で、右手の甲に黒い紋章が浮かび上がった。


「……交渉成立だ、ヴァル」


 掌を握り、ゆっくりと開く。


 脳内に流れ込んでくるのは、物質の構造を書き換える権能。


 《アルケミア・リコンストラクト》


 これで、同じ土俵に立った。


 エクリプスの懐に入り、邪神の首に手をかけ、陽菜を救うための「奇跡」を起こす。


 廃教会の天井を見上げ、俺は静かに笑った。


 その瞳は、もはや人間のそれではなく、夜よりも深い魔の輝きを帯びていた。



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