09話 ライブ終わっても
客席に何度も何度も手を振りながら、メンバーたちは舞台袖へと消えていく。
最後まで拍手で見届けた美妃は、やがてペンライトの色を赤や青へと変え始めた。
「これって、どうやって消すの?」
「長押しするんだ。貸して」
拓海は手を伸ばすと、ペンライトを受け取り消灯させた。
「カモミーユってレベル高いな」
「でしょ! パフォーマンス最高ですよね!」
「いや、顔面偏差値」
「そこですか?」
「そこしかないだろ!」
唐津はニヤリと笑う。
「先輩は誰が気に入りました?」
「そうだなあ―― 黄色の子かな」
「冬華ちゃんですか。メチャ美形ですもんね」
「俺、ああいうクールビューティーに弱いんだなあ」
一方の美妃はふたりの会話を穏やかに聞いている。
「あ、柳川さんはどうだった?」
「楽しかったですよ。小倉くんが叫んでたのも面白かったし」
拓海はポリポリ頭を掻いた。
「ついついコール入れちゃった。うるさかった?」
「全然。みんな色々叫んでたし面白かったけど、長い呪文みたいなのは何言ってるのか全然分からなかったわ」
「MIXだね。分かんなくて当然だよ。えーと、何と説明すればいいのかな……」
拓海は知り合いに会釈をしながら二人を後方に誘導する。そうしてMIXについて説明をした。ヲタクたちが曲中に叫ぶ特定の掛け声……そんな簡単な説明で納得してもらえる訳もなく彼が苦戦する間にも客席は人の大移動が起きていた。カモミーユ目当ての人たちが後ろの方へと退く代わりに次の演者目当ての人たちが前の方へとなだれ込む。拓海は初めてこれを見た時なかなか合理的なシステムだと感心した。勿論お目当てでなくても交代しない人もいる。楽しみ方は人それぞれ。好きなところで見て楽めばいいだけだ。
推しの眞名は事あるごとに自分のファンはいい人ばかりだ、と自慢する。だから拓海の行動も自然とお行儀よくなっていた。
「ずっと立ちっぱなしだし疲れたでしょ? カモミーユも終わったから帰りましょう」
「「ええっ? どうして?」」
拓海は撤収を提案したがふたりはそれを瞬時に拒絶した。唐津はこの後に出てくる他のグループも観たいと言い、美妃も終演後の物販に行きたいと主張したのだ。
「疲れませんか?」
「全然」
「私も」
「物販は別にお金が掛かりますよ」
「新規は無料なんだろ?」
「まあ、そうですけど――」
「タダより安い物はないからな」
「新規無銭で生きていくんですか?」
「なんだそれ?」
そうこうしているうちに会場は再び暗くなる。
そうして次のグループの登場曲が流れ始めた。




