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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第一章 アイドルはファンのみんなが恋人です

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7/12

07話 ライブハウス

「へーっ、当日でも予約出来るのね」


 地下鉄・心斎橋(しんさいばし)駅から歩いて5分のライブハウス。

 若者たちで賑わう街アメリカ村、建ち並ぶカラフルなブティックの展示品に目を奪われながら辿り着いた建物は思わず素通りしそうな地味な外観。


 拓海を先頭に美妃、唐津の3人はスマホの予約画面を係に見せるとドリンク代を払って中に入る。


「さっき貰ったドリンクチケットはここで使えます。今飲んでもいいしライブ後でもいいです」

「メニュー豊富だな」


「そっちはお酒ですよ。そうだ、wifiも飛んでるから設定しておいたらどうですか。パスワードはそこに」

「へえ~、便利じゃん」


「唐津先輩もここは初めてなんですね」

「専用劇場はよく行くけどな」


 コピー用紙を買った後、部室に戻った拓海と美妃は綾乃もライブに誘った。一応誘っておかないと彼女だけ蚊帳(かや)の外と言うのはよくない。けれども「興味ないから」とあっさり断られた。


「柳川さんも分からないことがあったら何でも聞いてよ」

「小倉くんが一緒だと心強いわね」


「で、ステージはどこなんだ?」

「そこのドアを開けた階段の下です」


「やっぱ地下なんだ」


 ドアを開くと薄暗い階段を降りていく。唐津は大阪のトップアイドルグループには詳しいが、ライブアイドルはほとんど知らない。ただ、ずっと興味はあったらしい。


「地下でライブをするから地下アイドルって言うの?」


 階段を降りながら美妃が尋ねる。


「そう呼ばれるきっかけにはなったらしいね。けど今では地上波のTVに出るような有名アイドルの対義語としての意味合いが大きいと思うよ」


 ステージは階段を降り切った先にあった。


 高い天井。全席スタンディングで椅子などはない。フロアは小学校の教室よりは広い程度で、その前方にステージがある。客席とステージを仕切る緞帳などはなく、ステージに手が届きそうな場所でもライブを見ることができる。


「ステージ近いな」

「距離の近さもライブアイドルの魅力ですからね」


 一方の柳川美妃は物珍しそうに周囲を見回していた。


「何か気になるものとかあるの?」

「大っきなスピーカーね」


「ロックバンドもライブする会場だからね。音響もド迫力だよ」

「ちょっと緊張するわ」


「手を繋ごうか?」

「大丈夫です」


 美妃は唐津の提案をやんわり断る。


「あーあフラれた。ところで小倉、ここって何人入るんだ?」

「公式にはキャパ300人らしいです」


「そんなに入るか?」

「詰め込めば」


「窒息するぞ」


 唐津の言葉に美妃も肯いて。


「その点今日は心配なさそうね」


 ざっと30人程が開演を待っていた。ステージから一列、二列にはヲタクが並んでいるけれど、その後ろは人もまばら。3人は中程左の壁際に陣取った。


「まだちょっと早いしね。それに今日は対バン。何組かのグループが出るライブだから推しグループの出番直前に来る人も多いんだ」

「と言うことはお客さんはドンドン増えて最後はいっぱいになるってこと?」


 美妃の疑問に拓海は答える。

「とは限らないかな。だって推しの出番が終わったら並行物販に出てそのまま戻ってこない人も多いから」


 並行物販とは出番が終わると他のグループのライブと並行して別の場所で特典会を行うことを言う(稀に出番前のこともある)。狭い特典会場の有効利用のためにも、特定の推しだけ見て早く帰りたいヲタクのためにも便利な形態だ。


 そんな拓海の説明に、美妃はまだ腑に落ちない様子。


「ふーん。でもそんなに特典会って大事なの? みんなライブを観に来てるんでしょ? 特典会とかサイン会とか無くたっていいんじゃないの?」

「絶対必要だよ!」


 大きな声を出した拓海は、周囲を見回し声を(ひそ)めた。


「特典会でチェキをとってアイドルとお喋りするのは重要なイベントなんだ。むしろ特典会目当てで来る人もいるくらいだよ。それに考えてみてよ。今日の出演アイドルは7グループだけど、例えここに二百人入ったとしても十分な出演料が稼げると思う? このライブハウスの場所代だってスタッフさんだって必要だしさ。アイドルグループには運営さんも付いてくる。だから特典会は重要な収入源なんだ。推しのためにも絶対に参加しないと」


 そう言うと拓海は眞名との会話を思い出した。

 そうだった。今日はひめの特典会に行けないんだ――


 拓海は何気に周囲を見回す。知ってるヲタ友もチラホラ見えた。去年の夏祭りで拓海の背中を押してくれたけいたさんの背広姿もあった。一番後ろで壁にもたれてエナジードリンクを飲んでいる。けいたとはニックネームで本名は知らない。歳も聞いたことはない。拓海よりずっと上なのは間違いないけれど40代か50代かすら知らない。さくら推しのけいたさんとは会うと必ず挨拶して情報交換や雑談するヲタ友なのだけれど、今日の拓海は友達と一緒。けいたは拓海と目が合うとニヤッと笑って小さく手を振った。


「ちょっと待ってて」


 拓海は歩いて彼の前に立った。


「久しぶりですね」

「ああ、最近仕事が立て込んでて出張もあってさ。で、一緒にいる人は?」


「大学のサークル仲間です。興味あるって言うから」

「ふうん、偉いじゃん。布教活動してるんだ」


「まあ、そうなりますね」

「で、彼女はたっくんの恋人?」


「違います!」


 語気を強めた拓海を見ながらけいたはニヤリと笑う。そうして周囲に目をやった。


「今日も男ばっかりだろ」

「そうですね」


「目立ってるよ。どこのアイドルメンバーが入ってきたかと思ったよ。悪い虫が付かないようガードしてあげないと」

「男の先輩も来てますから」


「でもさ、さっきから彼女、ずっとたっくんを見てるぞ」

「え?」


 拓海が振り返ると、美妃と目が合った。


「ち、違います! そんなんじゃないです!」

「分かった分かった。たっくんはひめちゃん一筋だもんな」


「そうですよ。ひめちゃんしか勝たんのです!」

「ひめちゃんを泣かせた唯一のヲタだもんな」


「その件は勘弁してくださいよ。僕もビックリだったんですから」

「そうだったそうだった。ごめんごめん」


 言いながらけいたは拓海の後方に目をやる。


「ほら、おふたりがお待ちかねのようだ」

「じゃあ、またあとで」


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