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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第一章 アイドルはファンのみんなが恋人です

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06話 ともだち


 一方、こちらは眞名が通う高校。


 授業も終わり掃除当番の役目を終えた眞名は松山美鈴(まつやまみすず)と下校した。美鈴は眞名のクラスメイトで、どちらも純然たる帰宅部だ。


「まななも今日はライオンハウスよね」

「すずも一緒でしょ」


「同じ対バンなんて、久しぶりよね」

「じゃ一緒に行こ」


「もち」


 ふたりが仲良くなったのには理由があった。理由、と言うより必然性と言った方がいいかもしれない。


 高校に入った頃の眞名は多忙を極めていた。練習に練習に練習にライブ。アイドル駆け出しの眞名はひとり家でトレーニングすることも多かった。根が真面目なのである。部活動が出来ないのは計算の内だったが、帰りに買い物行こうよとかマクドに寄って帰らない? とか今度カラオケ行かない? とか言うクラスメイトからのお誘いすらほとんど断らざるを得なかった。それでも友達は少なからずいた。


 高校は共学だからラブレターを貰ったこともある。もちろん丁寧にお断りした。2ヶ月経った頃だったか、クラスのみんなにアイドル活動をしていることがバレた。本名で活動しているのだからバレるのは時間の問題だったのかも知れない。別に隠していた訳じゃない。自ら言いふらさなかっただけだ。しかしこれを機に時折発生していた放課後のお誘いイベントが完全に無くなってしまった。今まで断ることが多かったから仕方が無いのだが、学校の友達が気を使ってお誘いをしてくれなくなったみたいなのだ。


 男子からの視線も変わった気がした。それまで聞いたことがない眞名の陰口が聞こえ始めた。「自信過剰だよな」とか「どうせ見た目だけで性格は」とか――


 そんな時、声をかけてくれたのが美鈴だった。おとなしくてクラスでもあまり目立たない存在だった彼女は「ぱっとらぶ」と言うアイドルユニットのメンバーだった。芸名は「鈴花」。紫色担当の彼女はおっとり癒やし系で売っていた。友達になる以前にも眞名はライブ会場の楽屋で彼女に会ったことがあるのだが、その時は同級生だと気付かなかった。芸名を使ってるから、と言うこともあるけれど、アイドルの彼女は学校とは全く印象が違っていたからだ。


「ぱっとらは、もうすぐ周年記念ライブでしょ?」


 駅に向かう歩道、周りに人がいないことを確認して眞名は訊いた。


「うん、ビッグサーバルでね」

「凄いじゃない」


「ゲストもいっぱいだよ。ぱっとらだけじゃ客席埋まらないのよ」

「それはカモミも一緒」


「「はははははっ」」


 笑い声は通り過ぎる車のノイズにかき消される。やがて静けさが訪れると眞名は声を潜めた。


「ところでさ、すずは恋って、したことある?」

「えっ」


 美鈴は勝手に何かを察した。


「まなな…… この私に断りもなく!」

「違う違う! そうじゃなくって」


「またまた~」

「私は真面目なアイドルだよ」


「アイドルだって恋はするでしょ?」

「……」


「まなな学校でもモテモテだし~」

「そんなことないよ!」


「言っちゃおうか? 言っちゃおうか? あのこと言っちゃおうか?」

「言わないって約束したじゃない!」


「約束なんてしてませ~ん」

「もうもう~っ」


「で、誰よ誰? 私、恋バナ大好物!」


 勝手に妄想を膨らませていく友に眞名は必死の弁明をはじめる。自分たちアイドルに恋愛は御法度。それなのに誰もが恋って素敵だという。恋は最高で恋は一番で恋さえあれば他には何もいらない、な~んて歌詞は山ほどある。だけどアイドルだってとびっきり素敵な時間をみんなに届けてるんだ。恋人なんかに負けたくない。だからこそ知りたい、恋するって気持ちを――


 本当は今の自分の、この初めての気持ちが自分でもよく分からなくて、だからしたことのない恋というものに興味が湧いてしまったのかも知れない。宇宙一の妹になるためにも、きっと絶対必要な知識に違いない。でも、そんなことを言ったが最後、この妄想爆走少女はとんでもない結論を導き出すに違いない。


そう、新しいお兄ちゃんが出来たことは彼女にも話していなかった。


「なあ~んだ、恋に恋してるだけかあ。恋する気持ちねえ……」


 美鈴は大きく空を見上げた。


「私も知らないけど、きっととっても素敵なんでしょうね」

「推し活より?」


「当然よ! どんなに推してくれるヲタクだって、恋人が出来たら私たちアイドルなんて見向きしなくなって、ポイって捨てられちゃうんだよ」

「捨てられるの!?」


「そうよ!」


 テンション高いふたりの声にすれ違ったおばさんが振り返る。


「あ、ごめん。この前さあ、ほとんど全通だったヲタク様が突然他界しちゃった話したでしょ?」

「すっごく落ち込んでたよね」


「それがね、ヲタクの人が教えてくれたんだけど、彼ったら恋人が出来たんだって。口惜しかったよ。とっても」

「……」


「でもね、どこかすっごく納得したの。彼は幸せになったんだからいいんだって。私、負けたのにね」

「アイドルって辛いね」


「その後一回だけ来たの、私のとこに」

「……」


「私のおかげで彼女が出来たんだって! すずちゃんには感謝してるんだって!」

「……」


「だから言ってやったわよ! 永遠にお幸せにって……」


 ふたりの姿は限りなく黒に近いセーラー服。

 駅へと続く広い歩道でも誰ひとり彼女たちがアイドルだと気付くものはいない。サングラスをかけたり帽子を被ったり、リポーターに追いかけられる有名人のようなことはする必要も無い。だけど二人はれっきとしたアイドルだ。


「アイドルってさ、想像してたのと違うね」

「すずはもっと有名になれると思ってた?」


「そう言う訳じゃないけど……」


 階段を上り改札を抜ける。ふたり並んでホームに立つと、各々カバンからスマホを取り出して弄り始める。「今日のライブよろしくね」と通知をするためだ。


「あ、すずの写真すっごい盛れてる!」

「でしょ! ヘアサロン行った日に大量に自撮ったからね」


「いいなあ。私、自撮りが枯渇しちゃってるの。せめて文章だけは頑張らなきゃ思うんだけど、難しいね」

「まななは真面目だもんね。文章なんて毎日考えなくてもお決まりのパターンでいいんじゃない?」


「うんまあ、それはそうなんだけど……」


 やがて。

 電車がホームに滑り込むと、ふたりは混雑の中に吸い込まれていった。


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