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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第一章 アイドルはファンのみんなが恋人です

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19/19

19話 ふたりのお家で

「ただいまっ、遅くなりましたっ!」


 眞名が靴を揃えていると、バタバタと拓海が現れた。


「お疲れ、遅かったね。ミーティングとかあったの?」

「え、あ、ううん、今日はちょっと、ね」


 眞名は笑顔で誤魔化すと2階へと消えた。

 自分の部屋に入ると鏡の前に立つ。そこにはもう泣き顔の自分はいない。明るい笑顔を見せる普段の眞名がそこにいた。大丈夫。クローゼットを開けお気に入りのシャツとキュロットを取り出した。


 眞名は時折思うことがある「アイドルって役者だなぁ」と。

 手際よく着替えを済ませ鏡を見ながら前髪を揃えるとスマホを持って居間へと降りた。


「着替えたんだ」

「カレーが制服に飛んだらイヤでしょ?」


「そりゃそうだ。じゃあ一緒に食べよう」

「え、まだ食べてなかったの?」


「うん」


 火を弱めてカレーをかき混ぜる拓海。眞名もキッチンに入ると皿を並べた。


「あとは私がやりますよ」

「じゃあ僕はラッキョウを出すね」


「ラッキョウ?」


 カレーは作った、ご飯もセットした。でもラッキョウは――

 不思議そうな顔の眞名を横目に拓海は冷蔵庫を開ける。


「買ってきた。そこのスーパー遅くまでやってるだろ」

「それで帰りが遅くなったの?」


「違う違う。せっかくの晩ご飯は美味しく食べたいからさ」


 そうか、薬味の存在を完全に忘れていた。

 母と暮らしていた時も夕食はよく作っていたし、カレーライスはお得意のメニューだ。まあ市販のルウを使っただけの、誰が作ってもハズレがない料理。「自慢の料理はカレーです」なんて吹聴する気はないけれど、具材はたくさん入れてるし密かに自信はあった。


(しかし薬味は考えてなかったなあ…… 福神漬け、ラッキョウ、ピクルス、確かに食卓にあるとないとでは雰囲気が大きく変わるわね)


 アイドルとしては「ポンコツ」を公言している眞名だけど、妹としてポンコツになるつもりは1ミリもない。それだけにちょっと悲しくなる。


「ごめんなさい。薬味なくちゃ美味しくないですよね。やっぱり私ってポンコツだなあ!」

「いや、そうじゃなくて。美味しく食べたいってのはそう言うことじゃなくて」


「え?」

「食事には美味しいおかずがいるってことだよ」


「ラッキョウがおかず? だったら私のカレーの立場は? そもそもカレーはご飯のおかずなの? そうだわ、鉄火丼のまぐろはご飯のおかずだし、そう考えたらカレーはやっぱりおかず?」

「違う違う。そう言うことじゃなくって。ほら、よく言うだろ、会話は一番のご馳走だって」


 ご飯をよそう手を止めて眞名は後ろを振り向いた。


「もしかして、私を待っていてくれたってこと?」

「イヤだった?」


「そんな訳ありませんっ!」


 大きな声に拓海は少し驚いた。


「よかった。じゃあ早く食べよう。お風呂も入らなきゃだし宿題だってあるんだろ?」

「終わらせましたよ、ライブの待ち時間に。こう見えて私やれば出来る子なんです」


「えらいなあ眞名ちゃんは」

「眞名ちゃんではありません眞名ですっ! 何回言わせるんですかっ?」


「えっと、百万と4回」

「もうもう~! 私のネタを取らないでください」


 食卓にカレーを並べると、ふたりは向かい合って手を合わせた。


「んっ これ美味しいね」

「ちょっと辛すぎません?」


「僕には丁度いいよ、これくらい辛い方がんんんあいいお……」

「食べながら喋らないでください」


「んんっ、ホントに美味しいよ」

「よかった。でも私には少し辛すぎました、へへっ」


「自分で作ったのに?」

「やっぱり私ってポンコツですね」


 華のような笑顔を見せるとゴクンとひとくち水を飲んだ眞名。お茶目にペロリと舌を出す。


「だったら無理して食べなくても――」

「大丈夫です。こう見えて私、我慢強いんですよ、アイドルですから」


「アイドル、だから?」


「ええ、アイドルって我慢の連続なんですよ。雪が振るステージでもミニスカートで歌わなきゃいけないし、見た目重要だから大好きなお菓子もじっと我慢しなくちゃいけないし、この前の定期公演なんて8曲連続踊ったじゃないですか! 30分ですよ! 過酷です! ずっと笑顔でファンサしながら走り続けてるようなもんですよ! 一度やってみてください、死にますから!」


 早口でまくし立てた眞名はカレーを頬張る。そんな彼女の目の前に拓海はラッキョウを勧めた。


「辛いんだろ?」

「平気です。アイドルは我慢強いって言いましたよね。この程度の辛さなんてなんてことありません! だけど……」


「だけど?」


 眞名は俯いた。

 この程度の辛さは我慢できる。なんてことは無い。だけど我慢できないこともある……


 眞名は暫く逡巡すると、やおらテーブルに両手を着いて頭を勢いよく下げた。


「ごめんなさい!」


 ごつ!


「えっ?」


 机に強くおでこをぶつけても気にせず眞名は喋り続ける。


「やっぱりナシにしてください!」

「入ってるって入ってる! 髪の毛がカレーに入ってる!!」


「私のところへは来ないでって言ったの、やっぱりナシにしてください!」


 拓海の忠告など聞こえていないか、自慢の黒髪をカレーに泳がせながら眞名の嘆願は続く。


「お家でお話しできるのにお金払って私の所へ来るなんて馬鹿らしいかもしれません。私のワガママかも知れません。それでもやっぱり来て欲しいです。これまでのように私を推して、私の所にお話に来て欲しい! さくらさんの所に行ってもいいけど、冬華の所に行ってもいいけど、推し変なんて絶対イヤです! 今朝の言葉は取り消します! 私の所へも来てくださいっ!」


 カレーを乗せたスプーンを手に、拓海は呆然と聞くだけだった。

 頭が混乱して何をどう言葉にすればよいのか見当すらつかなかった。


「勿論それはたっくんの自由です。たっくんが決めることです。たっくんが頑張ってバイトして私のところに来てくれてるの知ってます。だけど一日一回だけでも、週に一回だけでも、月に一回だけでも、ほんとに気が向いた時だけでもいいから……」」


「わ、分かった! 分かったから顔を上げようよ!」


 こんなに焦ったのは姫号泣事件以来かも知れないな…… と拓海は思う。

 あの時は周りにたくさんギャラリーもいて頭がパニック状態になってしまった。それに比べるとまだマシかも知れない。拓海は混乱する頭の中を少しだけ整理した。


「僕だって姫とお話しできないなんてイヤだよ! ライブの楽しみがなくなっちゃった気分だったよ! だから僕からもお願いするよ、これからもずっと姫の物販に行かせて欲しい」


「本当ですか?」


 勢いよく顔を上げた眞名。その大きな瞳は既にたくさんの光を宿していた。


「勿論だよ」

「よかった!」


 ご自慢の長い黒髪からカレーを滴り落としながら、安堵した眞名の口は軽やかに動き始める。


「嬉しいです。やっぱりお兄ちゃんは最高です。次のライブは金曜日です。絶対楽しいカモミーユの定期公演ですから是非来てくださいね。あ、ペンライトも忘れずに! 誰かに貸してもいいですけど、だったら二本持ち歩いてくださいね。白いペンライトは目印になりますし、何より私が喜びます。あ、そう言えばたっくんはペンライトひとつしか持ってないですよね。だったら遠慮なくあなたの優しい妹に頼んでみてください。こう見えて私、ペンライトもちゃんと持ってるんですよ……」


 機嫌よく喋り続ける眞名、拓海はテーブルの端に置かれていたティッシュボックスに手を伸ばすと何枚かを取り、カレーが滴る眞名の髪の毛に添えた。


「……え?」

「髪の毛にカレーが」


「えっ、あっ、ええっ~!」


 事態を把握した眞名はティッシュで髪を押さえると洗面台の前に駆け込んだ。


「早く言ってください!」

「ごめん」

「……いいえ、そう言えばちゃんと言われたような気がします。聞き流してしまった私がポンコツですね、ははは……」





 その夜。

 深夜の12時。


 ジャージ姿の眞名は自分の部屋で机に座っっていた。今まではトマトの絵柄の可愛いパジャマを愛用していたのだが兄とふたり暮らしの今、いつ見られるか分からない。普段と違う出で立ちに少し戸惑いもあるけれどその内慣れるだろう……


 バックから1冊のノートを取り出す。それは自分のファンの人たちのことをメモするためのノート。特に初めましてのヲタクさんのことは絶対にメモを取るようにしていた。もちろん次に来た時にちゃんと名前を覚えておくために。




  柳川みきさん

  栗毛ロング。長身でスリムな美人さん。初めてのライブだったそう。

  たっくんと同じ大学のサークルのお友達。

  たっくんのことが 好き




 眞名はゆっくりとペンを置くと窓の外に目をやった。


 星の見えない都会の空でも大きく欠けた月だけはハッキリと見ることが出来る。

 その月が少しだけ霞んで見えるのはなぜだろう。

 眞名は大きく深呼吸をして小さく肯く。



「アイドルだもの、ちゃんと応援しなくちゃね」



 そう呟くとノートを閉じた。。




第一章  完


【あとがき】


皆さん、はじめまして! カモミ―ユの小倉眞名です。

白色担当、ちょっとぽんこつな私ですが、いつも応援してくださって本当にありがとうございます。


このお話は私たち毎日一所懸命頑張ってるアイドルと、そんな私たちを暖かく全力で応援してくれる

ファンの皆さんとの心温まるエピソードをお届けします。ぜひこれからもご愛読お願いしますね。


え? 何ですか作者さん? この物語は地下アイドルとヲタクたちのあ~んな話やこ~んな噂を

興味本位で赤裸々に綴るフィクションのようだけど案外ノンフィクションな娯楽大作になるんですって?

やめてくださいよ! それでなくても心無い言葉や投稿に悲しみが止まらないアイドルって結構多いんですから。可哀そうじゃないですか! え?所詮小説の中だ? ですって?


違います! 小説の中でも私もお兄ちゃんも、そしてそのお友達もみんな精いっぱい生きてるんですよ。

だからたくさんの方に喜んで読んでもらえるように素敵なエピソードでいっぱいにしてくださいね。

そうすればきっと読んでる皆さまも満足していただけると思うんです。


と言うわけで、これからも是非ともご愛読お願いいたします。


第二章は現在創作最中です。

次回更新、即ち次回更新ままで少しだけお時間を頂戴します。何卒ご了承お願いします。


ではでは、またライブでお会いしましょうね!

小倉眞名 でした~!!

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