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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第一章 アイドルはファンのみんなが恋人です

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17話 再会

 物販のたびに思い出した、初めて来てくれたファンのこと。

 大学に合格したら来てくれる、そう信じ続けて半年。一方的に交わした約束はずっと守って頑張ってきた。


 「私は素敵なアイドルになる!」



 年が明け1月も後半になるとライブが来る度にドキドキした。大学の合格発表が始まった。ネットのニュースや雑誌広告がそれを教えてくれる。でも、先週は来なかった。今週も来てくれなかった、来週こそはもしかして―― そんなことが繰り返された。どこを受験するのか聞いておけばよかった。もちろん個人情報は聞いちゃいけないって分かってる。だけど知っていたらこんなに何度もドキドキとガッカリを繰り返さずに済んだのに――


 アイドルの眞名は誰にでも笑顔で、誰にでも精一杯のファンサをしてきた。会場のお客さんみんなに最高の笑顔を届けて楽しんで貰いたかった。誰を特別とか誰にだけいっぱいとか、そんなことはしていない。だけど、たった一回会っただけの、たったひとりのファンのことが頭からなかなか離れてくれない。


 2月は長かった。毎週期待して毎週打ちのめされた。物販で「合格しました」というファンも来てくれた。全力でおめでとうって祝福した。彼らの喜ぶ笑顔は眩しかった。初めて会うファンであってもその吉報は自分のことのように嬉しくなった。でも、その後にまた思い出す。たっくんは来ない。3月に入っても現れなかった。私立大学の合格発表はほとんど終わりなのだ言う。眞名は焦った。次こそは、次もし来なかったら、もしかしてダメだったの? それとも私が捨てられた?



 私のこと忘れてるんだったらそれでいい、合格していてくれたらそれでいい――



 眞名は自分に言い聞かせた。たっくんが幸せならそれでいい。そう思おうとした―― でも分からない。やっぱり来てくれないと合格したのか分からない。焦っても焦ってもどうしようもないのに。どうしてこんなことを思ってしまうのだろう……


(ああ、私がもっと有名で、TVにも出てる誰でも知ってるアイドルだったら絶対忘れないでいてくれるだろうに――)


 でも、そう思ってもすぐに考え直す。


(ううん。きっとどんなに有名なアイドルだって待つことしか出来ないんだ)




 そして3月も3週目に差し掛かったある日。


「カモミーユ、いっくよーーーっ」

「「「「おーーっ」」」」


 円陣を組んで声を合わせて。

 そうして、元気いっぱいステージに飛び出した眞名はすぐに見つけた。


「あっ!!」


 小さな声が漏れる。

 眞名お決まりの立ち位置の反対側、前から数えて3列目に彼はいた。

 白いペンライトを手に眞名を真っ直ぐに見ていた。SEが終わり最初の曲が始まる。泣いちゃいけない、絶対に。私はアイドル! 素敵なアイドル! 約束したはず! 最高のパフォーマンスで応えなきゃ!


 嬉しかった。


 今まで頑張ってきた全てが報われた気がした。

 心にずっと刺さっていた小さな小さなトゲが取れ、そこから大きな喜びがマグマのように噴き出した。

 大袈裟に思うかも知れない。今や眞名には1000人を越えるフォロワーがいて、眞名推しさんもたくさんいる。それでも泣きそうなくらいに嬉しかった。アイドルになって本当によかった。


 走って跳んで回って歌って、両手を挙げて手拍子打って後方の人にも手を振って――

 体の中から楽しさが湧いてきた。見ている人たちも盛り上がってくれて、それがまた私の、そしてメンバーの気持ちを高揚させて、最高のループが出来上がった。


 彼にもレスを送った。

 ちょっと恥ずかしかったけど、いつものように思いっきりバシッ! としたつもり。

 だけど反応はなかった。表情まではよく分からなかったけれど、リズムに合わせて手に持った白いペンライトをずっと振ってくれている。


 ちゃんと届いたのかな? 届いているのかな?


 2曲目も3曲目も最後の曲も、彼はずっと私を見てくれていた。

 レスへの反応はないけれど、ちょっとだけ自信を持ってもいいのかな。

 ライブ、楽しんでくれてるのかな?

 前髪が乱れてきたけど大丈夫かな?

 リボン解けたりしていないかな?


 私のことどう思ってくれてるのかな……




 そうして待ちに待った物販の時間。

 彼は眞名の列に並んでくれていた。


「たっくんさん! 来てくれたんですねっ!」


 眞名の笑顔が弾ける。


「僕のこと覚えていてくれたんですか?」

「当たり前じゃないですか!」


 即答。

 眞名に来てくれた初めての人、そして眞名に出来た初めてのファンなのだ、忘れる筈がない。


「忘れずに来てくれたんですね! 私のこと覚えていてくれたんですね!」

「当たり前じゃないですか!」


 これまた即答を返した拓海と一緒に顔を見合わせ笑い合う。


「ありがとう。おかげで合格しました」

「やったっ! おめでとうございますっ!」


 全開の笑顔を向けられて、拓海は頭に手をやった。

 チェキのポーズはありきたりなピースサイン。でも嬉し過ぎて笑顔が崩れてしまっていた。


「ありがとう。全部眞名さんのおかげです。合格しなくちゃ会えないって思ったら頑張れちゃった」

「私は何もしてませんよ!」


「そんなこと…… ほら、このお守りチェキの御利益もあったし。試験会場まで持って行ったんですよ!」

「ホントに?」


「嘘なんか言いません! だから約束通り会いに来ました。あ、ペンライトも買いました。でも、振りとかよく分かんなくて適当で、ごめんなさい」

「白色のペンライト、嬉しかったです! だからすぐに見つけちゃった!」


「目が合ったのは気のせいじゃなかったんだ」

「爆レス飛ばしたつもりですけど?」


「なんかこう、格好よかったです。ダンスがとっても綺麗で、声が伸びやかに通って、笑顔が素敵で、たくさんのファンに楽しさを振りまいてるのが分かって、ずっと目が離せませんでした。あの時約束してくれたとおりに……」

「えっ?」


「初めての時も素敵でしたけど、もっともっと素敵になってました」

「私は約束、守れましたか?」


「ええとっても。とっても伝わってきました。きっといっぱい頑張ったんですね」

「うれ……し……」


「……あの、眞名さん?」

「…………」


「あの、えっと、ええ~っ!」




 眞名の涙腺(るいせん)はここで決壊した。


 突然崩れ落ちた少女の前でオロオロするだけの拓海。

 周囲も異変に気がついて、なんだなんだと野次馬が集まり、泣いてるぞ泣かせたぞとヒソヒソ声がどんどん大きくなって、プロデューサーまで飛んできた――



「いや僕は何も…… え、ええ~っ!」



 これがカモミーユ界隈に語り継がれる「ひめ号泣事件」の一部始終である。


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