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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第一章 アイドルはファンのみんなが恋人です

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16話 大阪の夜空

 ライブ会場の喧噪(けんそう)とは打って変わって夜の公園はしんとしていた。

 オレンジの街灯が静かに佇む遊具たちを薄く浮かび上がらせる。

 眞名はブランコへ歩きかけ、思い直してベンチへ向かった。


 たっくんがさくらさんのところへ行ったことはちっとも怒ってない。だってヲタクさんたちにはヲタクさんたちの世界があって、ライブに来たらチェキ撮らずには帰れないのかも知れない。私たちとお喋りするのがライブより楽しみだって言ってくれる人もいる。それなのに私の物販に来るなって言ってしまった……


 

 眞名の脳裏に彼女の面影が蘇る。



 美妃さんはわたしとチェキを撮ってくれた。たっくんが連れてきた男のお友達は冬華とチェキを撮っていた。だったらたっくんだけ何もせずただ待ってろだなんて言える訳がない。言っちゃいけない。だって私はアイドルだもん。


 でも、だけど、どうして――


 冗談めかしていたけれど、彼女はたっくんに好意を寄せていた。

 そこに疑う余地はなかった。


 わたしはアイドル。

 みんなが笑顔になれるように、みんなの願いが叶うように全力で応援する。

 そう決めた。


 だから美妃さんの想いも精一杯応援した。

 それは、きっと正しい。

 だけど、胸が苦しい――

 割り切らなくちゃいけないのに!



 ひめちゃん推してるよ!

 ひめちゃんが一推しだよ!

 ひめちゃん単推しだよ!

 激推しだよ!

 神推しだよ!

 鬼推しだよ!


 どれが一番かよく分からないけれど、嬉しい言葉をいっぱい投げてくれるヲタクさんもいる。だけどその人が他のメンバーに同じことを言ってたって仕方がないと思っている。ヲタクさんは縛れない。わたしはいつも最高の笑顔で応えるだけ。ヲタクさんだってきっとその時その時で本気なんだって思ってる。だってアイドルはみんな可愛いしみんな魅力的で、みんな一生懸命頑張ってる。アイドルを選ぶのはお客さん。私は見てくれる人、来てくれる人ひとりひとりに精一杯を届けるだけ。それがわたしの理想のアイドル。だから美妃さんにも精一杯を届けた。



 なのに。

 なのにどうして!



 本当は自分でもわかってる。


 私を一番だって言ってくれたヲタクさんが他のアイドルにも一番だって言ってたら、少しだけ、ほんの少しだけ心が悲しいことを。


 美妃さんへのエールだって心からの、100%のエールじゃなかったことを。


 私は完璧じゃない。

 完璧なアイドルなんかじゃない……



 涙を拭うとスマホを取り出した。時間はさっきから全然進んでない。楽しいライブだと時間はあっという間に飛んでいくけれど―― おっと危ない、今日のライブのお礼報告をまだしてなかったな! 眞名は慣れた指使いでスマホを扱う。ライブの前にたくさん自撮りしておいたから写真には困らない。おはようからおやすみまでポストしていいねを返してヲタクさんの動向をチェックして…… アイドルって意外と長時間労働。ついでに言うと肉体労働。いやまじレッスンハードでいつも筋肉痛なんだから。炎天下でも歌って踊って化粧が流れても絶対笑顔で、雪が降ってもセーターもマフラーもないのに長いことニコニコ笑顔で頑張って、いやほんと寒いんだから震えてるんだから鳥肌立ってるんだから―― 可愛い衣装で着飾って好きに歌って適当に踊ってニコニコしてチヤホヤされる甘いあまーいお仕事だと思ったら大間違い! ホントに大変なんだから! こんな仕事好きじゃないと務まらない。でも好きだから頑張れる。そう私はアイドルするのが大好き。だってとっても楽しいんだもの。可愛い衣装着せて貰って歌って踊ってスポットライトをいっぱい浴びてたくさんの声援に手を振って優しいヲタクさんがチヤホヤしてくれて!



 ライブのお礼を送信すると眞名は何気に夜空を見上げた。



 大阪の空は星が少ない。しかし、眼を凝らしてよく見ると漆黒の中にもたくさんのキラ星たちが力いっぱい輝いている。私の姿、どれだけの人に見つかっているのかな?


 星の光が(にじ)んでいく。

 いいことばっかりだったはずなのに――


 スマホが小さく着信音を鳴らす。さっきのポストへレスが付き始めたのだろう。

 普段は時間を決めて一気に見る眞名だけど今日はすぐに画面に見入った。


 いつもリプ返してくれる優しいヲタクさんたち。みんな眞名に甘くて優しい。「今日も可愛かったよ」「メチャ綺麗!」「スタイル抜群モデルみたい」「美人のひめしか勝たん」「可愛いひめちゃん今日もおやすみ」…… 皆さん本当にありがとう。私はとても幸せです。それがお世辞交じりだと分かっていても私はとても嬉しいのです。こんな私に時間を割いてくれて毎日相手をしてくれて――


 ミキさんって人からも反応が来ている。「ありがとう。とても楽しかったです」って。きっと今日来てくれたあの美妃さんだ――

 あっ、たっくんからも来た。



  冬華ちゃんと仲いいんだね!!



「あれ、見られてたんだ!」


 眞名は自然と笑顔をこぼした。


 たっくんは可愛いってあんまり言ってくれない。美人だとか綺麗だとかも言ってくれない。笑顔が似合ってるとか髪型変えて可愛いとか、そう言う褒め方はしてくれるけど、可愛い可愛い愛してる! ってそんな連打はしてくれない。その代わり、気がついて欲しいことはいつもちゃんと見つけてくれる。新曲の振り付けカッコイイねとか、メンバーと抱き合うところがキュンだったとか、途中フリ間違えてもリカバリー天才だとか、歌詞改変して突っ切る度胸が大好きだとか…… 全然褒めてない気もするけど、ともかく私を見ていてくれる、ちゃんと私だけを見てくれている。私のポンコツぶりにも全部気が付いてくれる。だから嬉しい――


「だけど今日は私のところへ来てくれなかった……」


 大きくひとつ深呼吸。

 無数の頑張る星たちを見上げる。


 そんな眞名の脳裏には、たっくんとの再会の想い出が蘇ってきた――

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