俺と推し様と年越しと
会社の忘年会にて、FlowerBase大集合。そこで語られる息吹から来斗への想い。
「今年も一年早かったねー」
「年々早くなる気がする、忙しさも増すし」
「ほんとそれ」
毎年、年末最終日に事務所で忘年会が開催される。事務所の一番広い会場に社員も所属タレントも大集合、ステージでは今年活躍した社員が表彰される豪華な立食パーティーだ。
「僕達歌番組の収録あるから、終わったらすぐ出発だって言われました~」
そう言う夏樹の隣で愁がこくりとうなずいた。
けれど、エマージェンシー過ぎて息吹は首にあごがくっつくのではないかというくらい下げた顔を上げられずにいる。
(え?なんで?なんで僕、愁君と横並びに歩いてるの?)
息吹にしては珍しく冷静でいられなくなっている。
それもそのはず。推しである愁が手の届く範囲にいるのだから。
「息吹君、どうしたの?手が震えてるし、汗もすごいよ。もしかして体調悪い?」
ひょこっと息吹を覗き込んだ来斗は、まだ気づいていない。
会場へと続く通路を愁・夏樹が歩いていると、会議室から出て来たばかりの息吹・来斗と出くわした。
夏樹から「4人で一緒に行こうか!」と誘われ、今こうした状況になっている。
夏樹を挟んではいるものの、息吹はさっきからひどく緊張をしている。
「息吹君は何日ぶりに家から出たの?とってもインドアなんだよね」
「……たぶん、一カ月半ぶりくらい、です」
愁を視界に入れないよう気をつけながら、夏樹に失礼にならないように息吹は顔を上げた。
「えー、そんなに外でなくてどうやって生活してるの?買い物とかは?」
「買い物は、ネットで……」
軽やかでかわいく質問する夏樹であるが、本心では”お前マジでそんなに外出てねーのかよ!?ウケる!”と興味津々である。
「夏樹、息吹君にいきなりそんなこと聞くなんて失礼」
その瞬間、そっと注意した愁のお姿が目に入ってしまい、息吹は頭から噴火しそうで、思わず来斗と繋いだ手が力んでしまった。
「息吹君」
息吹はハッとしたが、遅かった。
スンッと真顔の来斗が顔を近づけて来た。
「今、愁に、ドキドキしたでしょ?」
「…………………」
そっと息吹が目をそらしたのが、なによりの返事だった。
「来斗、近いから」
愁がそんな息吹と来斗をひっぺがした。
社内と言ってもFlowerBaseに関わるスタッフ以外に素は隠している。もちろん来斗が息吹と付き合っていることも極秘中の極秘だ。
それを考慮して愁は二人を引き離した──わけではない。
(受けに嫉妬をあらわにしめす美形攻め……推せる!!)
愁は愁で嫉妬する攻め・来斗の様子をしかと確かめるために引き離しただけだ。
「愁……お前は俺と一緒に行こう!」
愁の肩を勇ましく抱いた来斗は、そのまま愁と会場にずかずかと歩いていく。
(そんな、推しカプを見る貴重な機会がぁ~~~)
そんなこと思っているだなんて微塵も感じさせないクールな表情を愁はしていた。
一方の息吹は、来斗と愁の後ろ姿に、少しだけほっとしていた。
「あんたさぁ、よく来斗とずっと一緒にいられるよな」
「え?」
後ろから声をかけられて、息吹は振り返った。
いつもはどこをとっても”かわいい”しか見せない夏樹が、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「二人はタイプも全然違うし、来斗は大変でしょ?お守りから解放されたいなって思うときはないの?」
にこやかな笑みを見せつつ、夏樹は毒を吐いた。
そしてそれがわからない息吹でもない。
「……来斗といるのは、すごく大変」
「そうだよね。いつも息吹君息吹君って言って、重荷でしょ?」
どういう理由かはわからない。けれど息吹には”来斗はとても大変だ”と、そう言わせようとしているのがわかった。
だから、本心で言った。
「でも、来斗といるとすごく楽だから」
ぽそりと、息吹はつぶやいた。
「今、反対のこと言ってるってわかってる?」
夏樹の問いに息吹はうなずいた。
「来斗といるのは、本当に大変。だって来斗は、本当にわからない。わがままで、自分勝手で、理不尽の塊。理解しようと思ったときもあったけど、無理。だってわからないんだ。なんでだろうとか、どうしてだろうとか、そんなこと考えても無駄だってわかった。理解できない。だから一緒にいると、とても楽。なんでだろうとか、どうしてだろうとか考えないで、来斗の隣で、僕は一番僕でいられる」
視線の先の来斗を、息吹は愛し気な目でみつめた。
そんな息吹を、夏樹は怪訝な目で凝視した。
「………………息吹君も相当変わってるね」
「そう?」
夏樹はへっと吐き捨てるように笑った。
「普通そういう人からは距離を置こうとするよ」
「置こうとしても、来斗は離れないから」
「ノロケ?」
「……違う、と思う」
ぼそぼそとしゃべりながら、息吹は夏樹の隣に並んで会場に向かった。
「俺にはわかんねーわ」
「それで、いいと思う」
「あ"?」
夏樹が見下ろすと、少しだけ息吹は笑っていた。
「来斗と僕のことは、僕達二人がわかっていればいいと、僕は思うから」
息吹に、今度こそ夏樹は"はぁ~?"の顔を見せてから、大笑いしだした。
そんな夏樹に息吹は目を丸くした。
「俺、そういうの嫌いじゃないんだよね~」
ふふーん♪とそう言ってから、夏樹はいつもの”かわいい”を装備して、会場へと入っていった。
多分、夏樹はどういうつもりで息吹が来斗の隣にいるのか確かめたかったのだろう。
夏樹が来斗と愁の隣に並ぶと、息吹にはそこだけが一段と輝いているように見えた。
(来斗は、僕から離れない。そして僕も、来斗から離れられない)
それは誰よりも一番、息吹がわかっていること。
会場の一番奥の壁際で、そっと会場の様子を、来斗の様子を息吹は見守っていた。
「息吹君!」
社長の挨拶、会長の挨拶が終わり、ビンゴ大会が始まると群がっていた人たちに詫びを入れつつ、来斗が息吹のもとに駆け寄って来た。
「……よくここにいるってわかったね」
ライトの光ですら届いていない暗がりに息吹は潜んでいた。
「なにいってるの?俺が息吹君のいるところがわからないわけないでしょ?」
不思議そうな顔をした来斗は、あーんと息吹にエビの刺さったフォークを向けた。
普段なら「誰かに見られてるかもしれないから」と断る息吹だったが、今日は雰囲気にのまれているところもあったのだろう。パクリとフォークに食らいついた。
「もう一個食べる?」
「ううん、大丈夫」
デレデレとしつつも、今日の来斗はどこかピリッとしている。
そのまま二人並んで、少しだけなにか食べながら、ビンゴ大会の様子を見、閉会の挨拶を聞いていた。
「息吹君、今年もありがとう。俺、息吹君のおかげですごくいい1年だったよ」
来斗は、いつもの少年のような笑みを浮かべていた。
そんな来斗に、息吹も想いを伝えたくなった。だっていつも伝えてもらってばかりだから、本当はもっと自分からも伝えたいって思っていた。
「……来斗」
「ん?」
息吹がこそこそ話でもするように口元に手をやると、なになに?と来斗は、息吹の方へと耳を寄せた。
『それではみなさん、よいお年をー!』
「来年も、大好きだよ」
ちょうど司会の締めくくりの挨拶と被ってしまった。
けれど、来斗のその大きく目を見開いて赤面した顔を見れば、聞こえていないわけがない。
「い、息吹君、今……」
でも、ここでなにかを聞く勇気はまだ持ち合わせていない。
だから、
「よいお年」
同じく耳まで赤く染まった息吹は、苦し紛れに言った。
「……っよいお年をー!!!」
そんな息吹の気持ちもわかってしまった来斗のその年の瀬の挨拶は、会場中に響き渡るほどの脅威の声量で、思わず二人して破顔して笑った。
来年もきっといい1年になることを願って。
※最終話です。ここまで読んでいただきありがとうございました!いいね!・ブクマも嬉しかったです。よいお年をお迎えください!来年もよろしくお願いします!




