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外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


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第8話 投獄神レイピア

 

 ふと窓の外を見た。


 アークが剣の稽古をしていた。食後の運動だろう。この家では、戦士は魔法職よりも良い適性だと思う。


 だから、イーファが黒騎士で安心した。


 

 さて、次は俺の番だ。


 俺もイーファと同じようにイシュタルに抱きしめられた。すると、ムニュっとしたものが背中に当たった。


 ほほぅ。これは……。

 極楽極楽。

 


 ……っと、せっかくの機会だ。

 集中せねば。


 俺もイシュタルに続いて輪唱を始める。すると、魔法陣に光が巡り始めた。心なしか、さっきよりも光の点滅が速い気がする。


 イシュタルが頷いた。


 「おおっ。これは……」


 イリアは不思議そうに首を傾げた。


 「イシュ、何か異変が?」  


 イシュタルはまた本を開いた。


 「光の循環速度が異常に速い。正直、規格外。循環速度は、マナ量や魔術の発動速度に比例するのよ。だからこれは……」


 これはチート覚醒きたか!?

 期待にドキドキが止まらない。


 しばらくすると、魔法陣に光が集まって何かの形になった。俺には違いが分からないが、イシュタルなら分かるのだろう。


 俺が見上げると、イシュタルは言った。


 「この聖印は、医神レイピアね……」


 医神?

 お医者さんの神様?


 もしかして、非戦闘系か?


 「ボク、魔法を使えるってこと?」 

 俺の質問にイシュタルは小さく頷いた。

 

 両親とも戦士の家系なのだ。

 魔法クラスだっただけでも、上出来なのではないか?


 きっとみんな喜んでくれる。

 「ねえ、お母さま」


 俺の声に、イリアは目を伏せた。


 俺の予想に反して、誰も喜んでくれない。

 むしろ、残念そうに見える。


 どういうことだろう。


 「……医神って?」

 俺の質問にイシュタルが答えてくれた。


 「回復魔法を与えてくれる神様ね」


 「それって、ヒーラー?」

 転生前、俺のプライベートキャラはヒーラーだった。やり方次第では、思いっきり前線に出れるクラスではないか。


 イシュタルは俺の頭を撫でると続けた。


 「イオも私がインフェルノス•アクアティクスを使うの見てたでしょ? 構えて詠唱して発動……実戦であんな余裕あるのかな。見せ物としては良いけれど、ちょっと時間がかかり過ぎると思わない?」


 なるほど。そういうことか。

 俺はイシュタルが言わんとしている事を理解した。


 「うん。1分くらいかかったよね」


 「そうなの。回復魔法も同じなのよ」

 

 「でも、それまで前衛さんに守ってもらったらいいじゃん」


 イシュタルは首を横に振った。


 「回復魔法は、前衛を助けるためのものでしょ?」


 「あっ」

 俺はようやく気づいた。


 例えば、仲間がモンスターに潰されて瀕死だとする。俺は回復魔法を使う。そこから1分もかかっていたら?


 「魔法が遅くて役立たずとか?」


 俺がそう言うとイシュタルは頷いた。

 慎重に、言葉を選んでくれているようだ。


 「うん。回復職は人気がないの。医神レイピアが出ても、農民とか商人になる人がほとんどかな」



 それって……。

 回復職は一般の村人以下ということか?


 っていうか、「レイピアが出ても」って、明らかに外れクジ扱いだ。


 「じゃあ、レイピアってどんな神様なの? きっとすごいエピソードとか」


 そうだ。黒騎士の例もある。

 魂を揺さぶるエピソードさえあれば、俺は頑張れる。


 イシュは、また本をめくり始めた。

 すぐには見つからなかったらしく、全ページを数往復してから、首を傾げて栞紐を挟んだ。


 「医神レイピアは、大神オルディスを怒らせて、投獄されていたみたい。なんでもオルディスのお尻を刺したとか」


 「……」


 もしかして、それがレイピアの由来?



 「わぁぁぁ!」

 家の外からは、アークの叫び声が聞こえてくる。



 ま、仕方ないか。

 マナ量の話はどうなったんだろう?

 

 「あの、イシュちゃん。さっきのマナ量って?」


 イシュタルは俺を抱きしめた。

 胸がますます強く押し付けられる。


 「魔力の循環速度はマナの量に比例するの。だから、イオのマナ量は極端に多いと思う。正直、人族の限界に近い値。それと魔法の発動速度もね」


 だが、さっきの話だと、魔法が発動するのは詠唱の後だ。そもそも詠唱時間がネックなのだから、発動が速くても意味がないのでは?


 「わかった、イシュちゃん。要は、回復職はカスってこと?」


 イシュタルは、眉のあたりをポリポリと掻いた。


 「うーん。あまり直接的な表現は……ね?」

 

 それって要するに。

 全肯定だ。



 そういえばウチの会社のゲーム、Under The Shining Stars Online(略名:UTSSO)でも回復職は微妙だった。HP吸収防具が低レベルから手に入ったり、ポーションが高性能すぎたりして、回復職は存在価値皆無のカス扱いだった。



 ……でも、まぁ。

 カス職でも、魔法クラスには変わらないし。


 俺は左腕を撫でた。

 大切な人が、燃え尽きる感覚。


 自分が無力で無価値だと突きつけられる。

 ああいうのはもうイヤだ。


 だから、悪くない。

 いっそのこと、村から出ずに開業したっていい。


 前向きに考えようじゃないか。



 ——このときの俺はまだ知らなかった。

 医神レイピアが“投獄された本当の理由”を。

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