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外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


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第5話 若き魔術師イシュタル。

 ウチ?


 俺が知る限り、こっちの……グレイック語の一人称に『ウチ』なんてものは無い。



 「ごめんくださーい」


 誰かがドアの外で叫んだ。


 「あ、叔母さんが来たわよ。ほら、2人とも。お出迎え」


 イリアは、そう言いながらドアに向かった。俺とイーファもその後に付いていく。



 ギギギ。


 ぶ厚いドアを開けると、小柄な女性が立っていた。


 「お久しぶりです」


 玄関に立っていたのは、まだ若い女性……少女だった。


 「イシュタル、久しぶりね」


 イリアの言葉にイーファは叫んだ。


 「叔母さんなのに若い!」


 たしかに、目の前にいる少女は、16〜17歳に見える。黒髪に切長の二重で、若くてキラキラしている。


 「えーっ、魔法使いさんは、お婆ちゃんだと思ったのに……」

 イーファはそういうと口を尖らせた。


 我が愚妹が、初対面の人にとんでもなく失礼なことを言っているが、俺も心の中で頷いていた。


 イシュタルは少しだけ上半身をかがめると、笑顔になった。


 「あなたたちが、イオくんとイーファちゃん? 姉さんから話は聞いてるわ」

 

 「立ち話もなんだし、中に入って」

 イリアがドアを閉めた。



 ドンッ。


 イシュタルは両手で持っていた革のスーツケースを床に置いた。


 背中に背負っていた細長い布袋を壁に立てかけ、ローブの留め金を外した。


 「あの、ローブって古ぼけてたりしないんですか?」


 俺の質問にイシュタルは微笑んだ。


 「古ぼけ? そんなじゃないですよ。このコートは魔術大学の指定のものですし、中身も制服です」


 そう言いながら、イシュタルがコートの前を開くと、中はワイシャツにプリーツスカートだった。シャツは真っ白でスカートのヒダはくっきりだ。


 どうみても、日本でいうところの『女子高生』にしか見えない。


 「あの、すごく若いから」


 すると、イリアが頭を撫でてくれた。


 「イシュは16歳よ。わたしのお父さまが再婚してできた妹なの」


 なるほど。


 イリアはイシュタルを食堂に案内すると、紅茶を淹れてくれた。


 「イシュ、久しぶりね。学校の方はどう?」


 イシュタルは、木のカップを一口すすると、大きく息を吐いた。


 「卒論は大変だったけれど、なんとか水属性魔術の学位をとれましたよ。卒業後は講師として、そのまま魔術大学に残れることになったんです!」


 魔術大学? しかも講師?

 むしろ、女子高生かと思った。


 イシュタルは立ち上がってぺこりとお辞儀をすると、さっき壁に立てかけた荷物を手に取った。


 「これ、わたしの博士号取得のお祝いにって、アレン義兄さんが送ってくださったんです」


 イシュタルが布袋を外すと、杖だった。


 杖は彼女の背丈ほどの長さで、アーチ型の先端に浮かんだ青い水晶玉が勢いよく回っていた。


 反重力……?

 あの水晶玉、明らかに重力を無視している。


 俺の胸は高鳴った。


 「……それがね、姉さん。担当のおじいちゃん先生が、わたしの胸ばっかり見てきて」


 イリアは杖に驚く様子はなく、普通に話を続けている。


 え。あの杖って、この世界では普通なのか?


 イーファの方を見ると、言葉もなく親指をしゃぶっていた。驚きのあまりベビー返りか。


 そうだよな。

 俺だって、指をしゃぶってしまいそうだ。

 

 「なにはともあれ、おめでとう。16歳で卒業なんて、本当にすごいわ」

 イリアの言葉に、イシュタルは再びお辞儀をした。


 16歳で大学卒業とは。

 いわゆる飛び級だろ?


 この叔母はどんだけ優秀なんだよ。


 これは……魔法にも期待できそうだ。


 イリアとイシュタルの積もる話は終わらない。


 そのうち、イリアが再びお湯を沸かして、アップルパイを切り分けはじめた。


 俺はお兄さんだからな。

 積もる話の邪魔なんて、野暮なことはしないさ。


 それから一時間後。

 2人はまだ楽しそうに話している。


 紅茶は何杯お代わりしたかも分からない。

 イーファはとっくに飽きてどこかに行ってしまった。


 ウズウズする。若いせいだろうか。

 この体は、じっとしていることが苦手だ。


 そろそろ、魔法とやらを披露して欲しい。


 すると、イリアが俺にウィンクした。

 何かを察してくれたらしい。


 イリアは口に手を添えて叫んだ。

 「イーファ、そろそろ戻っておいで!」


 良かった。

 そろそろ魔法が見れそうだ。


 だが、イシュタルは、それに気づく様子はない。


 「それで、あの。この杖に義兄さんからのメモが添えてあって、今度、お食事でもって。わたし、どう答えていいか分からなくて」


 ドンッ。


 イリアはテーブルを叩くと、椅子に深く座った。


 「えっ。アレンのやつ。最近、真面目だと思って油断してたわ」

 イリアの声が怖い。

 

 アレンめ。

 勘弁してくれよ。


 これじゃ、魔法が見れないどころか、勢い余って一家離散しそうなんだが。


 もうこれ以上は待てない。

 待ったらシャインスター家は解散になりかねない。


 こうなったら、無理矢理にでも。

 イシュタルにやる気を出させてやるっ!


 俺はテーブルの下に潜ると、イシュタルの前に移動した。目の前にはイシュタルの白い太ももが見える。


 ふふっ。魔法使いと言えども、テーブルの下までは見えまい。


 イーファを泣かせた必殺スカート下ろしで、強制的にやる気を出させてやる!!


 俺は両手を伸ばした。


 すると、イシュタルの声が聞こえた。


 「……転倒ルベリクス


 その言葉の終わると同時に、俺の足元に小さな魔法陣のようなものが現れた。


 床が氷のようにツルツルになり、俺はツツーッとテーブルの外に滑り出てしまった。


 イシュタルと目が合った。


 口はニコーッと笑っているが、目は怖い。

 これ、絶対に怒ってる。


 それにしても、何? 今の。

 もしかして、……魔法?


 魔法って、なんていうか。

 ——意外に地味なのか?

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