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ハズレ女神と最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


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第42話 ゴブリンの英雄

 

 「キキキッ(ゴブリン族の英雄よ……)」


 ゴブリンシャーマンは祭壇の上に乗ると、両手をあげて何かを唱え始めた。


 俺は生贄不足で何もできないと思っていた。

 もしかすると、復活の儀式ができるのか?


 「キキッ(我が血肉を喰らいて……)」


 シャーマンの周りに黒い煙のようなものが集まっている。あれは魔物を組成する……魔素だ。


 やはり、儀式は可能らしい。

 鼓動が早くなり、全身から汗が吹き出す。



 ヤバい。

 ヤバい。

 ヤバい。


 手に負えないものが出現する予感しかしない。



 「アイシャ、シャーマンを阻止しろっ!!」


 俺の言葉が終わる前に、アイシャは走り出した。


 アイシャは脇腹から背中に右手をのばし、尻の上にクロスして差された短剣の柄に手をかける。シャーマンに向かって跳ねると同時に、鞘から短剣を引き抜いた。


 「アサシネイッッ……」


 アイシャが叫ぶと同時に、シャーマンが黒い煙に包まれた。異様な魔素が渦巻きながら上にのびていく。


 俺は直感した。

 もう遅い。手遅れだ。


 ヤバい。

 アイシャが魔素に巻き込まれてしまう。


 「アイシャ、戻れっ!!」


 アイシャは咄嗟に刃を止め、左腕を支点にしてバク転した。直後、シャーマンの周りの魔素が竜巻になった。


 俺の判断が遅かった。

 アイシャの身体の一部が竜巻に巻き込まれたように見えた。


 回復しないと。


 「汝の身体は神の為に戦い、汝の心はいまだ一度の敗戦も知らず…… 彼は人の世の真理にて、人知らぬ世の不浄の摂理なり……」


 俺はヒールの詠唱を続けながら、牢屋の方に駆けた。


 赤毛の少女を保護して、一刻も早くこの場から離脱しないと。


 あの魔素の量……。


 英雄も所詮はゴブリンだと思って侮っていた。とんだ思い違いだ。あれは危険すぎる。

 

 逃げるのが最善だ。


 赤毛の少女のもとに駆け寄ると、サイファの聖印が入った鎖で手足を繋がれていた。


 (これは神具か? どんな効果がある? まぁ、そのまま連れていけばいい。解除は後回しだ)


 俺は無言で少女の手をとって立たせると、少女は腰上までの赤毛を揺らして言った。


 「わらわは、ルナ……ルナ•ドラコラル。下賤の民よ。礼を言うぞ。そなたの名は」


 ドラコラル?  

 どこかで聞いたことがあるような。

 

 燃えるように波打つ赤い髪。

 強い意志を感じさせる青い瞳。


 たしか、設定資料集に……。

 いや、詮索は後回しだ。


 俺はルナの腰を抱えると、そのまま肩に担いだ。


 「自分は名乗らぬとは、ぶ、無礼者めぇぇ!! わらわを下ろせっ!!」


 ルナは騒いで暴れたが無視した。


 答えると詠唱が中断されてしまう。


 (それにあなた、下ろしても鎖で歩けないでしょ……)



 祭壇の方を見ると、倒れたアイシャをリリスが抱き起こしていた。アイシャの周りは血の海になっている。


 次の瞬間、俺の息は止まった。


 アイシャの右膝と右前腕から先が失くなっていた。だが、まだ意識はあるようだった。


 (ヒールが間に合いそうだ。よかった)


 俺は詠唱を続ける。

 

 「医神レイピアの名の下に。汝、不敗の決意に再び立つ力を与えん。……ディオス(神の)ヒール(癒し)!!」


 「キキキッ!!(我を喰らえ。英雄。そして、殺せ。殺せ。殺せ)」


 俺の詠唱が完成すると同時に、シャーマンも叫んだ。


 アイシャの手足に光が集まり、欠損部位がどんどん復元されていく。数秒でアイシャが歩けるようになると、2人はこちらに向かって走り出した。


 アイシャとリリスの背後では、魔素の竜巻からシャーマンが放り出された。シャーマンは既に死んでいて、亡骸は干からびたミイラのようになっていた。


 シャーマンは、自らを最後の生贄にしたらしい。


 ゴブリンの巣穴は複雑だが、今きた道を戻れば大丈夫だ。俺達が通路に差し掛かったとき、前から何かの鳴き声が聞こえた。


 「キキキッ!!」


 ゴブリンどもだ。

 足音からすると、かなりの数だ。


 まだ距離はあるが、異変に気付き、俺達を探し回っているのだろう。


 (くそっ、巣穴の外にいたゴブリンどもが戻ってきたか)


 「どうする?」


 そう尋ねるリリスは不安そうな顔をしている。


 狭い通路でゴブリンの群れに遭遇するのは危険すぎる。身体が小さいゴブリンの方が、圧倒的に有利だ。


 「退路を断たれた。ここから逃げるのは無理そうだ。他の出口を探……」



 ガガッ。


 背後から岩が落ちるような音がして、俺達は祭壇に振り返った。


 すると、祭壇があった場所に巨大なゴブリンが立っていた。緑の肌に筋肉質で太い手足。右手にはロングソードを持っていて、体長は6メートル近くありそうだ。あのトロールよりもデカい。


 あれが英雄……ゴブリンヒーローか。

 

 ——万事休す。

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