第37話 怪しい村の長
「……ボクは、ずっと君を知ってるよ。今、言えるのはこれだけ」
きっと、言えない事情があるのだろう。
話題を変えないと。
こほん。
俺は違う質問をした。
「タンパとか言ってプレゼントしてくれた杖。あれ、盗品じゃないですか!!」
レイピアは、また視線をそらした。
「そ、そ、そんなことはないぞ。あれは、そうだ。その昔に、ボクがサイファから借金のカタで取り上げたものなんだよ」
っていうか、どう考えても、マイナー神のレイピアの方が貧乏そうだし。
それを言うなら『取り上げられた』の間違いだろう。
「んで、杖の効果は何ですか?」
レイピアは手を頭の後ろで組むと、口笛をふいた。
「ぴゅーぴゅー。すっごい効果だよ。うん」
こいつ。
さては、効果のこと知らないな。
「まぁ、どうせそんなことだろうと思っていたので、もういいです。それで今日は何かの用事ですか?」
レイピアは口を尖らせた。
「用がなかったら、電話しちゃダメなの……?」
(倦怠期の彼女みたいだ。うざっ……)
「いや、アナタ。電話じゃなくて、いま現に夢に乱入してるでしょ」
「イオって他人行儀ぃ……」
なにやらウザ絡みされてるんだが。
この人、酔ってるのか?
レイピアはコホンと咳払いをすると、言葉を続けた。
「ま、なにはともあれ。汝にアドバイスじゃ。これから汝は頼み事をされるであろう。例え、ムカつくジジイの頼みであっても、むげに扱わないように……」
「それってどういう……」
断るなってこと?
それとも、無碍に扱わなければ、断ってもいいのか? 曖昧で分からない。
意識がぼやける。
レイピアの声。
「……それが君の運命を変える。ところでさ、さっきのボクの姿、怖かった? 目とか」
少しだけ不安そうだ。
「綺麗でした」
この言葉、ちゃんと聞こえたかな。
********
……寝ちゃってたみたいだ。
(レイピアめ。相変わらず、意味不明すぎる)
ヒヒンッ。
馬のいななきで馬車が止まった。
御者の声が聞こえる。
アイシャが言った。
「暗くなってきたので、今日はここまでにしましょう。ちょうど集落がありましたので、今夜は野宿せずにすみそうです」
馬車から降りる。
ヒュンッ。
風が冷たい。
そこは小さな集落の入り口だった。
すると、すぐに長と思われる老人が出てきた。白髪で小柄なお爺さんだ。俺と視線が合うと揉み手でお辞儀をしてきた。
お爺さんの左右には、体格の良い男たちが控えている。腕を組んでいる。
威圧的な雰囲気で、息子には見えない。
孫も連れていない。
「よくいらっしゃってくださいました。サイファ教の司祭様ですか? ……それで、本日はどのようなご用で?」
長は、俺の杖をチラチラと見ている。
(しまった。偽装させるの忘れてた)
サイファの司祭のフリをすれば、きっと好待遇だろうけれど……。俺はサイファ神の教義を全然知らない。
司祭のフリをするには無理がある。
「あ、いや。サイファ教じゃないんです。おれはレイピア様の神官でして。えと……そう、要は冒険者です」
(冒険者。良い響きだ)
ちっ。
長は舌打ちした。
露骨に面倒そうな顔をしている。
「紛らわしい杖なんて持ちおって。サイファの司祭かと思ったじゃろ。邪教の司祭め。さぁ、帰った帰った」
(邪教じゃないし!! ムカつくジジイだ)
長は追い払うように手を振った。
長の傍に控えていた男たちが、こっちに近づいてくる。
俺は身構えた。
しかし、その直後、長はリリスとアイシャの方を見つめた。舐めるような視線。男たちに何か指示すると、払う手を止めた。
そして、小さく頷いてから言葉を続けた。
「……おぬしら、今夜は宿なしじゃろ? ちょっと頼み事を聞いてくれぬか? 宿も提供するし、報酬も支払う。なぁに、冒険者なら誰にでもできる簡単な頼みじゃよ……」
『ジジイの頼みであっても、むげに扱わないように』
——俺はレイピアの言葉を思い出した。
話だけでも聞いてみるか。




