第3話 シャインスター村の小さな家族。
パイ生活をしていたら、あっという間に3ヶ月が過ぎた。すると、金髪美女の言っている事が、なんとなく理解できるようになった。
金髪美女は俺の母親で、名前をイリアと言うらしい。また、草原でチャンバラをしていたヤンチャな2人は、俺の父親のアレンと兄のアークと言うらしい。
そして、毎日毎日、俺の邪魔をしてくるコイツは、俺と同い年の妹で、名前はイーファと言う。
本当に小憎たらしい。
段々と手足が自由に動くようになってきたので、今度、蹴飛ばしてやろうと思う。
イーファのパッツン前髪とクリクリの目をみる度に、なんだか無性に腹が立つのだ。
前世の因縁でもあるのだろうか。
っていうか、向こうもやたらに俺を意識して嫌がらせをしてくる。これはもう、逆相思相愛といってもいいだろう。
それからしばらくすると、段々とこの世界のことが分かってきた。
「アレン様。ありがとうございます。これで隣村のやつらも、しばらくは邪魔してこないと思います」
どこかの農夫がやってきて、アレンに頭を下げた。アレンは照れくさそうに、手を振っている。
ここはどこかの片田舎で、父のアレンは、よく人々の仲裁をしたり、工事の指示をしている。
そして、この村の名前は『シャインスター』という。
アレンのファミリーネームと同じだ。
1人だが使用人もいる。
白髪の男性で、古くからこの家で働いているらしい。
おそらく、アレンは領主のような立場なのだろう。
アレンは栗色の髪に茶色の瞳をした青年だ。見た目からすると、年齢は二十代半ばだろう。
生まれ変わる前の俺と変わらない年齢なのに、家族を養って領地を守って……すごいと思う。
ここでの暮らしは質素だ。
いつも聞こえるのは、誰かの話し声と楽器の音くらい。
今はそこに、パチパチと暖炉の音が混ざっている。
アレンはあんな優男のくせに、ちゃんとリーダーをしているらしく、みんな、何をするにもアレンに許可をとる。
これから夕食の時間だ。
俺とイーファはまだ食べられないが、一応、背もたれのある長椅子に座らせてくれる。
俺はイリアに抱き抱えられた。
イーファはアレンに抱かれている。
使用人が料理を運んでくると、コンソメのような匂いがした。
ここでの食事はシンプルで、スープとパンと一品あれば良い方だ。
歯が生えても、俺はこれじゃ満腹になれないかも知れない。
食事は木の器だが、テーブルの真ん中には、白い陶器に入れられたスープが置かれた。
アレンとイリアと使用人は、目を閉じる。
感謝の言葉を捧げるのだ。
「女神ルークス様。この日の糧に感謝します」
そして、食事が始まった。
「それでね、アレン。隣村のスイムさんがね……」
「それはそれは。今度、わたしからも礼を言わないとな。ところでアーク。剣の稽古はどうだ?」
俺は見ているだけだが、アレンたちは、食べながら今日の出来事を話している。
食事は質素だが、ローソクの火に照らされた部屋はあたたかく、笑いが絶えない。
俺は授乳されて一度眠り、目を覚ましても、アレンたちはまだ食事をしていた。
俺は、向こうでは1人での食事が多かったからな。なんていうか、時間をかけて、家族で食卓を囲むここでの生活は……少し羨ましい。
俺も早く、乳以外のものを摂取できるようになりたいものだ。
それから半年後。
俺はハイハイができるようになった。
家の中を這い回ると、どこもかしこも木だ。
この家は、木と金具だけで作られているらしい。
窓からは外の風景が見えてはいるが、景色が歪んで見える。ガラスが歪んでいるらしい。
「あーあーあー!」
振り返るとイーファがいた。
なぜか、俺がどこにいっても、ハイハイでついてくる。
イーファは俺の左肩をツンツンとすると、ニヘラと笑った。
おいおい、イーファよ。
よだれが垂れているぞ?
レディーとして、それはダメだろ。
「あっ、おっ」
しかし、注意したいのに話せない。
べちょ。
「キャッキャ」
イーファに、よだれをなすりつけられた。
コイツ、マジか。
勘弁してくれよ。
夜になって暗くなった。
電気スタンドはなく、夜は炎だけが頼りだ。
この星の文明レベルは、日本よりかなり遅れているようだ。
人々の外見は人間そのものだ。西洋人のように見える。建物や食器などのデザインもヨーロッパ調。
違う惑星に起きた偶然にしては、出来すぎている。
もしかするとここは、別の星ではなくて、別の世界……異世界なのかもしれない。




