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外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


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第29話 並行詠唱。

 リリスの後ろには、カリンも控えていた。

 カリンも黒いメイド服を着ている。

 

 「え、お前も戦闘できるの?」


 すると、カリンは頬を膨らませた。


 「できますし!! って、イオさまだって鹿の時に見てたじゃないですかっ。魔法だって、初級までつかえるんですよーだっ」


 カリンは遠距離攻撃を得意とするアーチャーだが、初級だが風と雷の精霊魔法を使うこともできる。戦闘も魔法もこなせるのだから、実は、かなり優秀なのだろう。


 「ふぅーん。ま、足手纏いになるなよ?」


 俺の言葉に、カリンは更に頬を膨らませた。


 「同じ初級魔法のイオさまには言われたくありませんっ!!」


 ……ごもっとも。


 って、最近、中級魔法も一つ覚えたんだがな。

 俺も少しはカッコつけたいし、しばらくは内緒にしておこう。



 リリスは雑談を制止すると、言葉を続けた。


 「今回の目標は、エマと他数名の捕虜の確保。必要であれば、審問官を制圧しても構いません」 


 アイシャと独断で行くつもりだったのに、なんだか大事おおごとになってしまった。

 

 「え。でも、エマはただの町娘ですよ。リリス様がそこまでする義理はないのでは」


 リリスは即座に答えた。


 「だって、イオの大切な人なんでしょ? わたしと違って、自主的に自分から石鹸をあげたようですし」


 なんだかトゲがあるな。


 リリスは続けた。


 「それに、エマ嬢は我がシャルロットの領民です。それがわたしの許可もなしに、冤罪で他の領地に連れ去られたのです。看過できるハズがありません」


 領外?


 リリスは既にエマの居場所を把握しているらしい。その上で、神官たちにシャルロット伯爵家のスタンスを示すということか。


 だが、そんなことをして、この家は大丈夫なのか? 神の敵にされて討伐されかねないぞ。


 この家の戦闘メイドの仕事は防衛だけではない。領地で問題があれば、秘密裏に動いている。シャルロット家の領地であれば、ある程度の警察権も認められているが、審問官の施設があるのは領地の外だ。警察権は行使できない。

 

 バレずにやらなければならない。


 すると、イビルが部屋に入ってきた。

 彼女は諜報専門のメイドだ。イビルは資料を片手に話を始めた。


 「エマ嬢が拉致されているのは、カーラル村にあるイオさまが収監されていた施設と同一と確認されています。現地には他にも数名の囚人がおり、それらの解放も今回のミッションの目的となります。現場の管理者は、ゲウス•ラッサル主任審問官……」


 あのチョビ髭は、ゲウスというのか。

 

 アイツにやられた分は、キッチリ落とし前をつけさせてやる。

 

 作戦の決行は、同日の夜になった。


 俺らは闇夜に乗じて、カーラル村に侵入した。今は、すでに審問施設のある寺院から百メートルほどのところにいる。アイシャもカリンも戦闘用のメイド服だ。


 俺の、しかもさして知らない町娘のために、カリンやアイシャを危険に巻き込んでしまった。


 背中に下着が貼り付いて冷たい。冷や汗か。


 「2人ともゴメンな。巻き込んでしまって」


 それは、半ば俺の独り言だったが、アイシャは無視せずに答えてくれた。


 「いえ。シャルロット家のメイドは、皆、サイファの神官に何かしらの因縁があります。ですので……」



 「だまって」


 カリンは雑談を制止すると、双眼鏡を下ろした。今日のカリンは一味違う。いつもの甘々な雰囲気はない。


 カリンは言葉を続けた。

 

 「見張りは3人、……あれは信者ですね。あれくらいであれば、わたし1人で無力化できます。2人は、わたしの初撃にタイミングを合わせて突入してください」


 アイシャは右耳のイヤリングに触れた。


 このイヤリングは通信機器で、回数制限はあるが、対になるイヤリングを持っている者に音声を届けることができる。


 訓練で使うような代物ではないので、実物を見るのは初めてだが。



 カリンは左手で弓を構えて、右手で弦を引いた。右手を軽く顎に触れる位置に構え、左手の押す力と右手の引く力を均等にする。


 俺とアイシャが駆けると、背後からフッと蝋燭を吹き消すような音がした。次の瞬間、見張りの3人が同時に倒れた。3人の体には雷光が纏わりついている。


 矢尻に雷の魔法を付与したのか。

 カリンの弓を実戦でみるのは初めてだけれど、かなりの攻撃力だ。


 

 建物の中に突入すると、中には誰もいなかった。アイシャは姿勢を低くすると、右手で短剣を構えながら周囲を見渡した。


 「イオさま、誰もいません。囚われた者達はどこに……」


 中の構造は、イヤというほど知っている。


 「地下だ」


 サイファ象を動かすと、階段が現れた。


 「イオさま。地下から人の声がします」


 廊下を走りながら、中の様子を横目に確認する。数名が牢屋に捕えられていた。

 

 呻き声が聞こえ、牢の中からは悪臭が漂っている。


 (相変わらずだが、ひどいな)


 中には骨折して、骨が飛び出している者もいた。しかし、その中に、エマはいなかった。


 (ごめんな、みんな。すぐに戻るから。エマは審問室か?)


 審問室に続く階段を下り切ると、アイシャに制止された。


 「イオさま。あちらを見てください」


 アイシャは視線を先に向けた。それを追うと審問室前のホールに、審問官が10名ほど控えていた。


 (え、なんで?)


 俺が知る限り、あんなに審問官が居たことはない。多くてもチョビ髭以外に2人くらいだった。


 今日は、儀式かなにかの日なのかも知れない。チッ。運が悪い。


 ここから審問官まで20メートルはある。いくらアイシャでも、接近して10名を一気に制圧するには無理がある。審問官は神聖魔法を使うし接近戦もできる。初手で決められなければ、サンドバッグになるのは、俺らの方だ。


 なにせ、おれが戦力外だからな。

 ……俺たち2人じゃ無理だ。


 捕まったら、アイシャもカリンも、どんな目に遭わされるか。それにリリスにも迷惑がかかってしまう。


 仕方ない……。


 「諦めて、日を改めるか?」


 俺のその言葉に、アイシャが答えようとした時。


 「いたい。いたいよぉ!!」

 審問室の中から女性の泣き叫ぶ声が聞こえた。 


 エマだ。


 今、まさに拷問を受けているらしい。チョビ髭の拷問は残酷だ。しかも、虜囚が痛がる程にモチベがあがるド変態だ。


 きっと今頃は、エマの叫びで大喜びだろう。


 (日を改めたら、きっとエマは……)


 すると、アイシャのイヤリングが光った。カリンからのメッセージらしいが、音声は装着者にしか聞こえない。


 イヤリングが数回(またた)くと、アイシャは何度か頷いた。


 「外には新手の審問官が現れたようです。そちらはカリンが対応中。しかし、更に増えれば、わたしたちは挟撃されるかも知れない。あまり時間はありません。イオさま……どうしますか?」


 エマを助けると言い出したのは俺だ。この先に行くかは、俺の判断次第ということか。


 「ママぁ。ママぁぁぁ……」


 エマの声だ。


 「ひょほほほほ。わたしが、あの世の母親に会わせてやろうではないか。苦痛から解放してやる慈悲深さ。ゲウスさま。殺してくれて有難うと言えっ!!」


 今度はチョビ髭声が響き渡った。


 今回の誘拐は、奴隷にする為ではない。

 疫病の責任を押し付けるための生贄だ。


 であれば、本当にアッサリ殺してしまうだろう。


 早くしないとエマが死んでしまう。


 ごめん。みんな。

 行くしかない。



 俺と目が合うと、アイシャは微笑んだ。


 「数が多い。間引きますか」


 俺が頷く。


 アイシャは背中に差した2本の鞘から短刀を抜き、飛び出した。


 走りながら詠唱を開始する。


 「色欲のネヴァよ。契約に従いて、彼の者の耳元で囁け」

 走りながらも淡々と、抑揚のない声。


 姿勢を低くして右に走る。


 左手の短刀に紫の光を付与した。

 そして、光を右手の短刀に移す。


 逆手に構え直した右の短刀。

 一番近い審問官の両目を切り裂いた。


 「抗う者に偽りの愛を……」


 さらに姿勢を低くする。

 そのまま弓なりの軌道で走る。


 審問官が武器を構えた。


 しかし、アイシャはそれよりも速い。


 ガンッ。


 振り返りざまの頬を、蹴り飛ばした。



 「抗う者に憂鬱の快楽を……」  


 アイシャは詠唱を続ける。


 蹴り飛ばされた審問官は奥の審問官を押し倒した。


 審問官が何か叫ぼうとする。



 ザシュ。


 アイシャはそれよりも速い。

 右手の短刀で口を切り裂いた。


 今度は順手に握った左手の短刀。

 その審問官の喉を下から突き刺した。


 「……眠れ、愚か者。サキュバス•スリープ(淫魔の誘眠)


 血飛沫があがる。


 同時にアイシャの魔法が完成した。

 残りの審問官は昏倒した。



 天井から血が滴ってくる。



 「チッ……1人殺したか」

 アイシャは短刀の血を振り落とすと、舌打ちした。


 10人を1人で制圧したのだから、十分にすごいと思うが、殺してしまったことが気に入らないらしい。


 そんなことない。

 俺がそう声を掛けようとすると。

 


 「おい。何かあったのか?」


 審問室の中から声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だ。


 それは、忘れもしない。

 あのチョビ髭審問官の声だった。

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