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外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


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第27話 サキュバス•アサシン。


 「アイシャさーん」


 声をかけると、アイシャは振り向いた。

 艶々な銀色の後ろ髪が、遠心力でサラサラとなびく。なんともいえず色っぽい。


 「……イオさま。なんですか?」


 俺は向こうでは26歳だったから、やはりアイシャが一番、対等な異性という感じがする。


 エルフは、20歳くらいまでは人間と同じペースで成長し、そこからは成長が穏やかになるらしい。


 美味しいところ取りで羨ましい。

 

 アイシャは24歳ということだったが、見た目は20歳くらいに見える。まあ、俺には元々、女子の24歳と20歳の区別はつかないが。


 今日の用事は石鹸だ。

 もともとはアイシャにあげようと思ってコレを作ったのだ。


 俺は小走りになってみた。


 「はぁはぁ。これ……よかったら使ってください」


 「これは……? ケーキ?」


 アイシャは石鹸を手に取ると、首を傾げた。

 なにやら口をあーんと開けている。


 「食べちゃダメです!! 俺の故郷の石鹸です」


 アイシャは石鹸をスンスンした。


 「……良い香り。これ、わたしにくれるんですか?」


 「貴女のために作ったんです」


 すると、アイシャは褐色肌でも分かるほど、頬の血色が良くなった。耳がかすかに動いている。


 「嬉しい……。でも、年上だし、身分も違いますけれど……」


 え、なにやら。

 思った以上に喜ばれているぞ。


 アイシャは、視線をらして、乙女の顔になった。大人っぽい子の恥じらい顔って、格別かも。


 それにしても、カリンといい、この国の女性は石鹸がよほど大好きらしい。


 「いいに決まってるじゃないですか。貴女のために作ったんですから」


 アイシャは右手で口を押さえた。


 「はい……。じゃあ、今夜はこれで身体を清めて、イオさまを待ってます。優しくしてください……ネ」


 ん?

 この人は何を言ってるんだ?


 あ、今夜の訓練のことか?

 いつもいつも半殺しにされるし、優しくして欲しいのは、こちらの方なのだが……。


 

 使用人の仕事を終えて、空に星が出始める。


 そろそろ、アイシャとの訓練の時間だ。

 俺は着替えて中庭に向かった。


 アイシャは真っ黒な戦闘用メイド服だった。右手には短剣を持ち、背中にはクロスして2本の鞘が差されている。


 この人、木剣じゃなくて真剣持ってるよ……。


 「アイシャさん。なんだか、めっちゃ気合い入ってませんか?」


 「こほん……。今日から並行詠唱の練習です。是非とも、身につけてください。最初は、わたしが見本を示しますので、よく見ていてください」


 なんだか機嫌が悪そうだ。


 「……はい」


 おれは唾を飲み込んだ。



 アイシャは100メートルほど離れると、腰を下げて背中と水平にした。左足を下げ、右手の短剣を地面と水平にして低く構える。


 視線を少し落として、先の地面を見つめている。


 一瞬、空気が張りつめる。

 アイシャが口を開いた。


 「叫べ、わが色欲のネヴァよ。歌え、わが名はアイシャ」


 アイシャの声だ。

 空気を貫いて、ここまでハッキリ聞こえる。


 アイシャは詠唱が開始されると同時に、利き足で地面を蹴った。土埃があがる。


 「の者に星の不和を囁き……」


 低く直線的な軌道だ。


 俺が一息吸うと、


 すごい勢いでこちらに近づいてくる。アイシャの左手がピンク色の光を帯びた。


 (魔法は攻撃系か?)



 「……彼の者の月の軋轢を歌う」


 俺を囲むように複数の魔法陣が浮かび上がった。それぞれが煌めきながら逆方向に回りだす。


 アイシャは左手の光を剣に移した。


 (あの光は魔法じゃない。スキルだ)



 「跪け、痴れ者が|ルクスリア•バインド 《色欲の束縛》」 


 魔法が完成すると、魔法陣から無数の指が現れ、俺に触れた。


 (デバフ? しまっ……)



 ガガガッ。


 地面から蔦のようなものが噴出した。

 うねり、地を這い。俺に絡みついた。


 ググっと俺の四肢を地面に縛りつける。


 アイシャは短剣を回した。

 俺の喉めがけ振り下ろす。


 (やばい。よけろっ!!)


 身体が動かない。

 まるで羽交い締めにされているようだ。


 短剣の軌道はみえる。

 だが、避けられない。



 アイシャは、眉一つ動かさず、そのまま俺の首めざして刃を振り下ろした。


 しかし、刃は俺の首に触れる直前に止まった。熱を帯びた刃からはブーンという音が聞こえている。


 つーっと血が伝い落ちた。

 薄皮一枚切られたようだ。



 ……死ぬかと思った……。



 「……はぁはぁ」


 俺は何もしていないのに、息切れしていた。


 「あ、ちょっと手元がずれました」


 アイシャは無表情でペロッと舌をだした。

 いつものことながら。怖い。


 って、いやいや。

 やりすぎだからっ!!


 「死んじゃうところでしたよ……」


 アイシャは、なにやら嬉しそうだ。

 どうやらご機嫌が直ったらしい。何かのストレス発散に使われたのかな。


 「ふふっ……こんな感じです。分かりましたか?」


 並行詠唱自体は、イシュタルに見せてもらったことがあった。しかし、本物の前衛のそれは、正確さもキレも、全くの別物だった。


 俺が頷くと、アイシャはニヤリとした。



 「フフッ。短剣2本だったら、わたしはもっと速いですよ?」


 ……アイシャはアサシンだからな。



 なんでも伯爵家のメイドがアサシンでは、あまり聞こえが宜しくないとかなんとか。対外的には剣士ということになっている。


 いわゆる初見殺しだ。


 俺は転生者だし、なんとなく自分は主人公枠だと思っていた。でも、現実はメイドより全然弱いんだが。


 ま、いいか。


 そんなハードな旅に行く予定とかないし。

 いざとなったら、俺が弱い分、強い仲間を集めれば良いだけだ。


 イーファと俺の周りの人を守れるくらいの力があれば、十分だ。



 「アイシャさん。それで、並行詠唱はまずは何をやったら?」


 すると、アイシャは右手の指先で四角を描いて、左手の指先で丸を描き出した。


 (ま、まさか。あれは……)


 「まずは、2つの動作を同時にすることです。最初は簡単なことから……そのかわり、寝てる時以外は常にコレをやってください」


 あのおじーちゃんの脳トレみたいなの、マジだったらしい。イシュタルにも、同じことをやれと言われて、揶揄われてるのかと思ってた。


 だって、いつも指先でクルクルしてる人って。

 あぶないヤツでしょ。どう見ても。



 でも、イシュタルもアイシャも同じことを言うのだから、きっと、これが近道なのだろう。


 千里の道もなんとやらだ。


 俺は早速、指先をクルクルさせてみた。

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