第2話 渡貫ともう一度。
——俺は、もう一度、渡貫に出会って、言葉の続きを聞きたい。
ドクンドクン。
鼓動が響く。
ここはどこだろう。
真っ暗で液体の中で揺られている。
どこからか声が聞こえる。
「あなたぁ、この子の名前は何がいいかなぁ?」
俺は……まだ人になっていない。
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「ほぎゃ……」
背中がひんやりして、緑の匂いがする。
目覚めると、俺は、どこかの草原にいた。
「バブバブバ……」
この通り、言葉が話せない。
手を見ると、小さい。
赤子の手だ。
とりあえず、立ち上がってみるか。
んっ。
立てない……。
身体が重い。
手はかろうじて動くが、足には力が入らない。
左腕に残る渡貫の感触。
これは夢だろうか。
話せないし立てないし、暇だ。
できる事が、鼻をほじることしかない。
ほじほじ……。
「わぁぁぁー!!」
どこからか叫び声が聞こえてきた。
遠くで、大男と子供が棒を振り回してチャンバラしている。年の頃からすると、親子なのだろう。
ん。
持っているのは剣か?
よく見ると、アイツら革の鎧を着て剣を振り回しているじゃないか。
(おいおい。親子してコスプレガチ勢かよ……はずかしい)
ぎゅるるる。
腹が減った。
すごく減った。
今すぐ栄養補給しないと死んでしまいそうだ。
とりあえず、周囲の人間に腹ペコアピールをせねば。俺は口を開けた。
「ほぎゃぁぁぁ!」
おいおい、俺よ。
これではまるで、赤子の泣き声ではないか。
もういい大人なのに恥ずかしい。
すると、俺は誰かに抱き抱えられた。
見上げると、金髪碧眼の女性だった。
息を飲むほど美しい。
即ハリウッドデビュー出来そうなほどだ。
その女性は、俺を優しく抱き上げると、胸元をはだけて片方の胸を丸出しにした。乳首がどんどん近づいてくる。
すると、俺の唇は、意に反してエアチュパチュパを始めた。
(ち、ちょっと。これ、……吸っていいの?)
乳首がちょんちょんと頬にふれ、甘い良い匂いがする。
(じ、じゃあ遠慮なく。あーん……)
俺が口を大きく開けて、乳首に吸い付く寸前。
むぎゅっ。
左肩を何かの手に押された。
おい!
俺の至福のご褒美タイムを邪魔するなよっ!!
押された方向を見ると、赤ん坊が居た。
金髪の前髪をパッツンにして、クリクリ青い目の赤ん坊。赤ん坊は、俺と目が合うとニヤリとした。
俺が、気を取り直して、もう一度吸いつこうとすると、また隣の赤ん坊にペチペチと頭を叩かれた。
赤ん坊は、キャッキャと笑った。
こ、このクソガキっ。
わざと邪魔してる……。
お前は鼻でもホジっとけ!!
すると、片乳の美女は、クソガキを抱き抱えて微笑むと、何か言った。
「イーファ。●△Ω……β□。イーファ」
意味が分からない。
聞いた事がない言語だ。
ここはどこかの辺境か?
いや、おっぱいの人は金髪だし……西洋圏でも、こんな場所は聞いたことがない。
だとしたら、ここは地球じゃないのか?
美女の言葉は分からない。
だけれど、名前を呼ぶ響きなのは分かった。
どうやら、あのクソガキの名前は、イーファと言うようだ。




