表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/35

第1話 世界に星が落ちた。


 カタカタカタ……。

 

 「先輩っ。相変わらずタイピング速いっすねー!!」


 後輩の渡貫わたぬきはそう言いながら、大量のガムを口に放り込んだ。


 俺は時計を見た。

 午前10時だ。


 (アップデートまで、あと2時間か)


 ここは、オンラインゲーム「Under The Shining Stars Online(略名:UTSSO)」の運営会社だ。今日は大型アップデート当日で、フロア中はいつになく騒がしい。


 俺はその運営チームで、バグとプレイヤーを相手にしている。


 「おい、渡貫。サービス開始までに休憩とっとこうぜ」


 すると、部長が出てきて、社員に怒鳴り散らした。


 (やべぇな。アップデート前はいつもこうだ。早く休憩に入らないと)

  

 「おい。早くしないと置いていくぞ。部長につかまっても知らんからな」


 俺の言葉を聞くと、渡貫はマウスで何か操作し、机の下からゴソゴソとブーツを引っ張り出した。


 「ち、ちょっと伊織いおり先輩っ。これチャックが引っかかって……。待ってくださいよぉ」


 渡貫はタタタッと駆けると、俺の横に並んだ。


 彼女、渡貫 彩巴(わたぬき いろは)は、職場の後輩でネトゲガチ勢だ。

  

 渡貫は小さい。

 横に並ぶと、俺の肩にすっぽり隠れてしまう。


 「どうしました?」


 渡貫は髪をかき上げた。

 サラサラな髪が、滑り落ちる。


 レンズの厚いメガネのせいで、正直、顔立ちはぼやけて見える。それでも、隠れ美人っぽい雰囲気はあるのだが。


 「やたらこだわりが強いし、なによりも性格がな……」 


 「ん。先輩、何か言いましたか?」


 「お前って、絶対にメガネ外さないよな」


 「ふふっ。聞いちゃいます? これ外しちゃうと、男共が土下座しちゃうんです」


 「……目つき悪いとか?」


 「ひっどーい。魅力でですぅ」


 男は苦手だという噂だが、何故か俺には懐いてくる。渡貫が腕を組んできた。


 「お前なぁ。男は勘違いするから、そういうのやめろよ」


 「ウチ、男の子の友達いないし、そもそも勘違いする相手が存在しないです」


 そう言って、渡貫は笑った。

 そのまま俺の顔を見つめてくる。


 「先輩っ、今やってるBLゲームでガチの攻略対象が落ちないんですが、どうしたらいいですか?」


 はぁ……。


 俺だって、普通にデートしたり、ちゃんと恋愛できる相手を選びたい。


 なにせ初彼女だからな。

 厳選したい。


 いくら話しやすくても、渡貫だけはナイ。


 仕事目線でみれば、週末自社ゲーム漬けなのは悪くない。


 「渡貫。お前の生活ってゲームばっかりだよな?」


 「そういう先輩だってゲーム会社で働いてるし。仕事中だってゲームに入って監視したり、運営コマンドでトラブル解決したり。それこそ公私混同でゲーム漬けじゃないですか?」


 「確かに違いない」


 「戻ったら、ビルダーでログインチェックするけど、準備はできてる?」


 「任せてください! 新規アイテムのIDとか、既に頭に入ってますから」


 渡貫はそう言うと胸を張った。


 エレベーターホールで待っていると、何人かの社員が非常階段を駆け降りてきた。


 アップデート当日とはいえ、少し殺気だちすぎじゃないか?


 渡貫は時計を見た。


 「先輩、エレベーター遅すぎませんか?」


 「渡貫、来月からGMだったよな。入社2年で優秀だよ。メンターとしては誇らしいぜ」


 渡貫のことは、新人の頃から俺が指導してきた。


 すると、渡貫は俺の左肩を人差し指でつついた。


 「伊織いおり先輩だって、その歳でヘッドGMでしょ? チームのトップじゃないですか。すごすぎっ」


 「いや、完全に運でしょ……。前任者が出社拒否になっただけだし」


 「そうかなぁ。教え方うまいし、優しいし。ウチ、もし先輩みたいな人がお兄ちゃんだったら……」


 これは、ワンチャンあるのか?


 「もしかして、もし、俺がお前を好きとか言ったらワンチャンあったり……?」


 渡貫は満面の笑みになって、舌をペロッと出した。


 「うーん。ウチ的には、ワンチャン……ないですっ!! って、キャッ……」


 俺は、突き飛ばされた渡貫の肩を支えた。

 

 柔らかい肩。

 良い匂いがする。


 「大丈夫か? それよりもこれ……」


 階段の方を覗くと、人が溢れかえり、騒然としていた。


 「やべぇぞ」

 そう叫びながら、数名が全速力で階段を駆け降りて行った。


 「火事か?」


 「あ、でもここ30階ですよ?」


 火事なら、自力で地上まで降りるのは絶望的だ。人の濁流の中、渡貫を連れて行くのは厳しいだろう。


 それなら、屋上の方が遥かに近い。



 俺は渡貫の手を握った。


 人混みを掻き分け、流れの上流に向かう。

 屋上に続くドアが開いていて、真っ赤な光が差し込んでいる。


 光?

 今日は曇りだぞ。


 それにあの色。


 手に力を入れた。

 渡貫の手の甲が湿っている。


 屋上に出ると、空に巨大な雲が渦を巻いていて。その中を、溶けたマグマのように赤い光が尾を引いて流れていた。


 まるで、太陽が一つ増えたみたいだ。



 「先輩っ。あの星……」


 「いや、今は昼だぞ! 星なんて」


 渡貫は空を指差した。


 「だって、あれ。あれ……あの赤いの、こっちに向かって一直線……」


 ゴゴゴ。

 凄まじい轟音で、俺は空に視線を戻した。


 流れ星の中で一際大きな一つが、こっちに向かって一直線に落ちてきていた。


 それはホントに一直線に……。

 みるみる大きくなって、すぐに月よりも大きくなって……。


 え?

 落ちる?


 脳裏に今朝のニュースがよぎった。


 「今日は1000年に一度の大流星群が接近します。世界各地で世紀の天体ショーが観測されると思われ、政府見解によれば危険はなく……」


 ——危険は、ないはずだろ?


 「渡貫っ!!」

 俺は渡貫を抱きしめた。


 耳を裂くような轟音で、世界がひしゃげる。

 肌のすぐ外側まで、焼けた鉄を押し当てられたみたいな熱が迫ってきた。


 渡貫が俺に抱きついてきた。

 嵐のような風にあおられて、髪を押さえようとする。すると、渡貫の手からメガネが抜けて、空中に放り出された。


 こいつ、こんな顔だったんだ。

 思った通りじゃん……。


 渡貫が叫んだ。

 抱きつく腕に力が入る。


 「先輩っ! ウチ、先輩のこと、ス……」


 鉄が焼けるような匂いがして、左腕から渡貫の感触がなくなった。


 俺はその言葉の続きを聞くことができなかった。


 ——もし、神様というものが本当にいて、何か一つだけ願いを叶えてくれるのなら。


 俺は、もう一度、渡貫に出会って、言葉の続きを聞きたい。



 だが。


 轟音と灼熱に包まれ。

 世界は壊滅的な被害を受けた。



 ——どこからか声が聞こえる。

 「レイピアの名の下に命ずる。死神よ、その大鎌をとめよ……」



 これは俺と渡貫が、異界の地でまた出会い。

 長い長い旅に出る物語だ。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ