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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第7話 聖女様、井戸を磨く

 屋敷中がピカピカになり、私の心も晴れやか。

 そんなある朝、カイ様から新たなミッションが下された。


「アリシア。君の力を、今度は領都の民のために貸してほしい」


 カイ様はいつものように涼やかな顔で、しかしその瞳には確かな信頼の色を浮かべて私に告げた。聞けば、領都の中央広場にある井戸が、近年ずっと淀んだままで、住民たちが困っているらしい。

 瘴気の影響で水が濁り、飲むのにも洗濯するのにも一苦労なのだとか。


「井戸…井戸でございますか!なんと素晴らしい響きでしょう!」


 私の目は、キラリと輝いたに違いない。

 井戸。あの石造りのノスタルジックなフォルム。長年蓄積されたであろう水垢や苔、底に溜まったヘドロ。

 想像しただけで、お掃除魂が燃え上がる。


「危険が伴うかもしれん。護衛の騎士をつけよう」

「カイ様、ありがとうございます!汚れたりしないよう、細心の注意を払いますわ!」

「いや、そうではなくてだな…」


 カイ様の心配を、いつものように盛大に勘違いしつつ、私は数名の騎士様に護衛されながら意気揚々と中央広場へと向かった。


 広場に着くと、遠巻きにこちらを眺める領民の人々の視線を感じる。無理もない。追放されてきた元・王子妃候補の貴族令嬢が、突然お掃除道具を持って現れたのだから。その視線は好奇心というより、訝しむような色が濃かった。


 でも、そんなことは気にしない。

 私の目の前には、今日の主役である立派な石造りの井戸が鎮座しているのだから。


「うわぁ……。これは……手応えがありそうですね…!」


 井戸の縁は黒ずみ、苔がびっしりとこびりついている。中を覗き込むと水面はどんよりと濁り、淀んだ匂いがした。最高のコンディションだ。


 私は早速、バケツに水を汲んでもらい、持参した柄の長い特製のブラシで井戸の内壁を磨き始めた。騎士の方々は「何かあればすぐに!」と井戸の周りを固めているけれど、私にとってここは戦場であり、聖域。誰にも邪魔はさせない。


ゴシゴシ、ゴシゴシ……。


 私の「浄化」スキルを乗せたブラシが石の表面を滑るたびに、黒ずみがみるみるうちに剥がれ落ち、生まれたままの美しい乳白色の石肌が現れる。私の周りだけ、空気が澄んでいくのが自分でも分かった。



 二時間後。

 井戸は、まるで新品のように生まれ変わっていた。


「さぁ、どうぞ!お水を汲んでみてくださいな!」


 私が笑顔で言うと、おそるおそる一人の女性が代表して水を汲み上げた。釣瓶から桶に注がれた水は、先程までの濁りが嘘のように、キラキラと太陽の光を反射して輝いている。


「……水が、透き通ってる」


 誰かが、ぽつりと呟いた。


「本当だ!」

「匂いもしないぞ!」


 ざわめきが広がる中、一番近くにいた小さな男の子が、その水をパシャパシャと手ですくって飲んだ。


「おいしい!なんだか、体がポカポカする!」


 その言葉が合図だったかのように人々は次々と井戸に集まり、その水の清らかさに歓声を上げた。枯れかけていた広場の花壇の花が、心なしか元気を取り戻しているように見える。


 そんな喧騒の中で囁き声が聞こえ始めた。


「あの方、一体何者なんだ…?」

「汚れた井戸を、磨いただけ清めたぞ…」

「まるで、奇跡だ…」


 そして、誰かが言ったのだ。


「もしかして、浄化の力を持つ、聖女様なんじゃないだろうか…?」


 その言葉は、あっという間に広場全体に広がっていった。

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