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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第34話 王妃様の憂鬱

 北塔から発見された初代王妃アリア様の肖像画は、王宮に大きな波紋を広げた。

 忘れられていた建国の母君の美しいお姿は、修復された後、王城で最も人目につく大廊下に飾られることになった。


 国王陛下やエドワード王子は、偉大な祖先の功績に再び光を当てたとして、私とお掃除部隊の働きを大いに称賛してくださった。

 しかし、全ての人が、この発見を喜んでいるわけではなかった。


「アリシア嬢、王妃様がお呼びです」


 その日、私を呼びに来た侍女の顔は、どこか強張っていた。

 案内されたのは、王妃様の私室。豪華絢爛という言葉をそのまま形にしたような、贅沢な調度品で埋め尽くされた部屋だった。


「あなたがアリシアですわね」


 長椅子に腰かけた王妃様は、値踏みするような冷たい視線を私に向けた。祝賀会で私を陥れようとした、イザベラ公爵夫人の後援者。彼女が、私を快く思っていないのは明らかだった。


「初代王妃様の肖像画、見事な働きでしたわね。……まさか、忘れられた初代王妃の権威を笠に着て、この王宮での自分の地位を確立しようなんて、考えているわけではありませんでしょう?」


 チクリ、と刺のある言葉。それは、私を試すための、牽制の言葉だったのだろう。

 しかし、私の耳には、全く違う意味で届いていた。


(まぁ!『初代王妃様のように、あなたも王宮のために働きなさい』という、王妃様流の、なんと奥ゆかしい激励のお言葉でしょう!)


 そして私は、この部屋に入った瞬間から、ずっと気になっていたことを、善意100%で口にした。


「王妃様!そのようなお気遣い、痛み入ります!わたくし、初代王妃様をお手本に、この王宮をピカピカにしてみせますわ!」


 私が胸を張ると王妃様は一瞬、眉をひそめた。


「そして、王妃様!大変申し上げにくいのですが、このお部屋、少々、物の配置が悪うございます!」

「…なんですって?」

「これだけ素晴らしい調度品があるのに、気の流れが滞っておりますわ!窓からの風通しを良くし、家具の裏に溜まった埃を払うだけで、王妃様のお心も、きっと晴れやかになりますことよ!」


 私のあまりにも純粋で、そしてあまりにも的を射た指摘に王妃様の完璧な微笑みが、ピシリと凍り付いたのが分かった。


 私は、さらに畳みかける。


「ああ、そちらの美しいネックレス!素晴らしい宝石ですけれど、銀の留め具が少し曇っておりますわね!銀製品は、皮脂や汗が付着したまま放置しますと、すぐに硫化してしまいますの。よろしければ、わたくしの特製磨き粉で、今すぐ新品同様の輝きに…」

「ま、待ちなさい!」


 私がスカートのポケットから携帯用お掃除セットを取り出そうとした瞬間、王妃様が、ついに悲鳴のような声で私を制止した。

 悪意も、権謀術数も、この私には一切通用しない。

 どんな嫌味も、私にかかれば、お掃除に関するアドバイスか、あるいは、お掃除のご依頼へと変換されてしまうのだから。


 王妃様は、その整った顔に、怒りとも、困惑ともつかない複雑な表情を浮かべていた。彼女が今まで築き上げてきた、貴族社会における会話のルールが、私の前では全く役に立たない。


「では、善は急げと申します!セーラさんを呼んで、まずはこちらの天蓋付きベッドの天蓋から、お洗濯を始めましょう!」

「だ、誰か!誰か、この娘を止めなさい!」


 私の暴走に王妃様はついに冷静さを失った。

 しかし、その瞳の奥に、ほんの少しだけ、困惑を通り越した「興味」の色が灯ったのを、私は見逃さなかった。

 この王宮で最も手ごわいと言われた王妃様の鉄壁の心の汚れ。

 そのガンコな汚れも、私の「浄化」の前では、少しずつ、溶け始めているのかもしれない。

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