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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第32話 結成!王宮お掃除特殊部隊

 国王陛下から『完全清掃許可証』という、最高の栄誉を賜った翌日。


 私は早速、王城の書庫から巨大な見取り図を借り受け、作戦司令室と化した離宮のテーブルに広げていた。


「東棟は石造りだから湿気が溜まりやすいわね…。カビ対策が最優先事項だわ」

「来客の多い南棟の廊下は、人の往来で付着する皮脂汚れと、外部から持ち込まれる砂埃の混合汚れね。これは多段階の清掃が必要よ」

「そして問題は北塔……。『幽霊が出る』という噂があるけれど、これはきっと、長年蓄積された埃が原因で起こる静電気か、カビによる幻覚作用に違いないわ!」


 見取り図にペンで書き込みを入れながら、ブツブツと呟く私の姿は、まるで城攻めの策を練る軍師のようだったらしい。


「……アリシア。君が辺境ではなく、この国の中枢にいれば、今頃は宰相にでもなっていたかもしれんな」


 呆れと感心が半分ずつ混じった声で、カイ様が私の肩を抱いた。その隣では、エドワード王子が、


「彼女に国を任せたら、法律より先に、まず国民の掃除当番が制定されそうだ…」


 と、遠い目をして呟いていた。


 しかし、この広大な王城を私一人で完璧に磨き上げるのは不可能だ。

 優秀な兵、すなわち協力者が必要不可欠。そう考えていた矢先、頼もしい味方が現れた。


「アリシア様!ぜひ、わたくしにもお手伝いさせてください!」


 一番に名乗りを上げてくれたのは、すっかり私の信奉者となった侍女のセーラさんだった。

 そして、彼女の言葉に続くように王宮に仕える他のメイドや庭師、馬番といった使用人たちが次々と集まってきたのだ。


「聖女様のお掃除術を、我々にもお教えください!」

「日々の掃除に行き詰まっておりました!どうか、ご指導を!」


 彼らの瞳は真剣な輝きに満ちている。

 こうして私を隊長とする、精鋭部隊『王宮お掃除特殊部隊』が、ここに結成されたのだった。


「皆の者、聞いてください!」


 集まってくれた隊員たちを前に、私は高らかに告げた。


「我々の初任務は、この王城における最難関の一つ!『王宮大厨房』の完全浄化であります!」


 その言葉に隊員たちから「おお…!」とどよめきが起こる。大厨房は、日々の調理で蓄積された、100年モノと噂される油汚れと煤に覆われた、誰もが掃除を諦めた魔窟なのだ。

 現場に到着すると、料理人たちは「どうせ無駄だ」と諦めの表情を浮かべている。


 特に頑固者で知られる料理長は、腕を組んで「聖女様のお遊びに付き合ってはおれん」と、そっぽを向いていた。

 けれど、私は臆さない。


「隊員の皆さん、油汚れは酸性!これにアルカリ性の洗剤を吹きかけることで、化学的に中和し、汚れを浮き上がらせます!さぁ、始めましょう!」


 私の号令一下、お掃除部隊は一斉に作業を開始した。私の的確な指示と隊員たちの熱意、そして私の「浄化」の力が合わさり、奇跡が起こり始める。

 真っ黒だった換気扇は銀色の輝きを取り戻し、滑りそうだった床はキュッキュッと音を立て、淀んでいた空気は、まるで焼きたてのパンのように美味しく清浄なものへと変わっていった。



 数時間後。

 大厨房は、まるで新築のように、その隅々までが輝いていた。


「な…、なんということだ…!俺の厨房が…俺の城が、光り輝いている…!」


 頑固者の料理長が、その場にへなへなと座り込み、子供のように声を上げて泣いていた。そして涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、私に向かって深々と頭を下げたのだ。


「聖女様……いや、アリシア隊長ッ!この厨房で、生涯最高の料理を作ってみせますぞ!」


 その言葉に、お掃除部隊の隊員たちも自分たちの手で成し遂げた奇跡に、大きな歓声を上げた。

 私の浄化は、王宮で働く人々の心にまで、温かい光を灯し始めていた。

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