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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第30話 祝福のティアラ

「――公開クリーニングを始めさせていただきます!」


 私の高らかな宣言にホールは奇妙な静寂に包まれた。嘲笑とも困惑ともつかない視線が、私の一挙手一投足に注がれる。


 イザベラ公爵夫人は、扇で口元を隠し、「愚かな娘め」とその瞳で語っていた。

 けれど、私は気にしない。目の前には、料理で言えば特Aランクの汚れが、私の腕を試そうと待ち構えているのだから。


「ふむふむ…」


 私はまず、持参した携帯用ルーペを取り出し、ティアラをじっくりと観察した。


「なるほど。これはまず、アルカリ性の特製溶液で表面の皮脂や埃の混合汚れを分解。次に、酸性の液体で金属部分の頑固な酸化を中和し、最後に粒子が均一な中性の研磨剤で磨き上げるのが定石ですわね」


 私のあまりにも専門的すぎる独り言に貴族たちがざわめく。


 私は構わず、持参した小さなボウルに数種類の液体を調合し始めると、柔らかな山羊の毛で作られたブラシにそれを浸し、優しくティアラを洗い始めた。


 シャリ、シャリ……と、心地よい音が響く。 


 私の手から放たれる淡い光――浄化の力が調合液に溶け込んでいく。

 ブラシがティアラの表面を撫でるたびに、黒ずんだ汚れが物理的に剥がれ落ちると同時に、ティアラにまとわりついていた禍々しいオーラが、まるで朝霧のように、すぅっと消えていく。


「おお…!」

「黒い靄が…消えていくぞ!」


 最初は遠巻きに見ていた貴族たちから、驚きの声が上がり始めた。


「なんてことだ、宝石が……輝き始めた!」

「祈りも、聖句も唱えていない……!だが、これはまさしく奇跡だ!」


 会場の空気は、嘲笑から驚愕、そして感嘆へと劇的に変わっていった。イザベラ公爵夫人の顔から余裕の笑みが消える。

 洗浄を終えた私は仕上げの工程に入る。粒子がダイヤモンドのように細かいという、秘蔵の研磨粉をセーム革につけ、金属部分と宝石を、一つ一つ、愛情を込めて丁寧に磨き上げていく。


キュッ、キュッ…。


 私が磨くたびに、ティアラは失われた輝きを次々と取り戻していく。

 黒ずんだ銀は月光のような清らかな輝きを放ち、濁っていた宝石は、内側から光が溢れ出すかのように虹色の煌めきを放ち始めた。


そして、ついに。


「はい、できましたわ!」


 私は完全に生まれ変わったティアラを誇らしげに両手で掲げた。

 禍々しい呪いのオーラは完全に消え失せ、ティアラは、まばゆいばかりの神聖な光を放つ「祝福のティアラ」へと変貌を遂げていた。

 その清らかな光はホール全体を優しく照らし、人々の心まで、温かく軽くしていくようだった。


「『祝福のティアラ』、本日、リニューアルオープンです!」


 私の満面の笑みでの決め台詞に、一瞬の静寂の後、ホールは万雷の拍手に包まれた。


「そ、そんな……馬鹿な……!あの呪いが…浄化された、だと……!?」


 目の前の光景が信じられず、イザベラ公爵夫人が震えながら後ずさる。

 彼女の完敗は、誰の目にも明らかだった。


 その時、カイ様が静かに私の隣へと進み出て、その腕で私の肩を誇らしげに抱いた。そして、ホール中の貴族たちに向かって、堂々と宣言する。


「これが、我が辺境伯領が誇る聖女、アリシアだ。彼女の力は、どんな呪いも、どんな汚れも、輝きへと変える」


 カイ様の最大級の賛辞。


「カイ様、ありがとうございます!」


 私は自分のお掃除の腕前を褒めてもらえたことが嬉しくて、最高の笑顔でカイ様を見上げた。私たちの王都デビューは、最も私たちらしい形で、この上ない大成功を収めたのだった。

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