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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第25話 王都への招待状

 カイ様と婚約者になってからというもの、私の毎日は幸せで満ち溢れていた。

 今まで以上に優しく、そして甘くなった。執務の合間に私のためだけにお茶を淹れてくれたり、庭の花を摘んできてくれたり。その度に、私の心は温かい気持ちでいっぱいになるのだった。


 最近は、辺境伯夫人としての教育も始まった。


「いいか、アリシア。これが、我が領地の歳入と歳出を示した帳簿だ。この数字の動きを読めるようになれば……」

「はい、カイ様!承知いたしました!」

私は、きりりと表情を引き締める。

「つまり、帳簿に誤って付着してしまったインクのシミを、紙を傷めずに完璧に除去する方法や、羊皮紙の長期保存に適した湿度管理について学べ、ということですね!お任せください!」

「…………」


 私の完璧な解釈に、カイ様はしばらく黙った後、「…まぁ、それも大事なことだ」と優しい目で笑ってくれた。


 そんな穏やかな日々が続いていたある日、一羽の鷲が王都からの手紙を運んできた。

 それは、私とカイ様の婚約に対する、国王陛下からのお祝いの言葉が綴られた、大変名誉な手紙だった。


 しかし最後は、こう締めくくられていた。


『――つきましては、近々開かれる建国記念の祝賀会にて、未来の辺境伯夫人となられる『聖女』アリシア嬢を、王侯貴族一同にお披露目いただきたい。これは、王命である』


「……やはり、こう来たか」


 手紙を読んだカイ様の顔から、表情が消えた。表向きは祝福と招待。しかし、その実態は、聖女と聖銀を手に入れた辺境伯に対する、王家の牽制と、アリシアという存在を王家の管理下に置こうとする明確な意思表示だった。


 カイ様は、私を王都の権力渦巻く巣窟へ連れて行くことに深く葛藤しているようだった。一人、執務室で地図を眺め、思い悩む時間が増えた。


(カイ様、王都へ行くべきか、悩んでいらっしゃるのね…)


 そのお気持ち、痛いほど分かるわ!


 私は淹れたてのハーブティーを手に執務室の扉をノックした。


「カイ様。悩んでいらっしゃるのですね」

「……アリシア。すまない、心配をかけた」

「いいえ!そのお悩み、わたくしにお任せください!」


 私はカイ様の目の前にドンッとハーブティーを置いた。


「王城の汚れは、一筋縄ではいかないと聞いております。わたくし一人で行くよりも、カイ様という最高の監督がいてくださった方が、作業効率が上がるのは間違いありませんわ!ですから、カイ様も一緒に行きましょう、王都へ!」


 そう。カイ様は、王城のガンコな汚れをどう攻略すべきか、その戦略に悩んでいらっしゃったのだ。


「そして、エドワード王子との約束も果たさなくてはなりません。『王城をピカピカにする』という、あの日交わした、お掃除のプロとしての約束を!」


 私のどこまでも前向きで、そしてどこまでも勘違いしている言葉に、カイ様は一瞬、きょとんと目を丸くした。そして、次の瞬間、全ての迷いが吹っ切れたかのように、力強く、そして穏やかに微笑んだ。


「…そうだな。君の言う通りだ」


 カイ様は立ち上がると、私の手を優しく取った。


「行こう、アリシア。二人でだ。君が私の隣で、そのハタキを振るってくれるのなら、王城だろうと竜の巣だろうと何も怖いものはない」


 こうして私たちの王都行きは決定した。


 旅立ちの日まで残された時間は少ない。


 カイ様は、屈強な護衛騎士を選抜し、王都の貴族たちの情報を集め、政治という名の戦に備えていた。


 一方、私は。


「王城の謁見の間にある大理石の床には、イタリア産の最高級カルナバ蝋を…。大書庫に眠る古書のカビ対策には、アルコールとハーブを独自に調合したこのスプレーを…。それから、エドワード様の埃アレルギー対策に、静電気を除去する特殊なハタキも必要ね…!」


 山のようなお掃除道具を前に、私はブツブツと呟きながら、来るべき大掃除に備え、完璧な装備を整えていた。

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