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お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます  作者: 咲月ねむと


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第19話 交渉のテーブル

 視察二日目の朝は、気まずい沈黙と共に始まった。

 昨夜の屈辱がよほど堪えたのか、エドワード王子とリリア嬢は目の下にうっすらと隈を作り、不機嫌さを隠そうともしない。

 しかし、彼らの前に並べられた朝食は、そんな不機嫌さを吹き飛ばすほどの魅力を放っていた。艶やかに輝く白いパン、黄金色の卵料理、そして、湯気の立つスープからは、豊潤な野菜の香りが立ち上る。


「……うまい」


 一口食べた王子が、思わずといったように呟いた。辺境の食材だけで作られたとは思えない、滋味深く、体に活力がみなぎってくるような食事。 

 それら全てが、アリシアという「聖女」がもたらした奇跡の産物であることを、彼らは認めざるを得なかった。


 朝食後、一行は再び応接室のテーブルに着いた。昨日の癇癪が嘘のように、エドワード王子は神妙な顔つきをしている。カイ様が完全に場の主導権を握っていた。


「聖銀について、改めてご説明しよう」


 カイ様は堂々と切り出した。


「かの鉱脈は、アリシア嬢の『浄化』の力なくしては発見しえなかったもの。よって、その所有権は、このアイスバーグ領に帰属する。無論、国民として王家への献上を怠るつもりはない。だが、その量、時期、価格については、こちらで決定させていただく」


 そのあまりにも強気な宣言に、視察団の役人たちがざわめく。しかし、カイ様の有無を言わせぬ態度に誰も反論はできない。


 交渉が少しばかり白熱しかけた、その時だった。


「皆様、新しい紅茶をお淹れしましたわ」

 

 侍女として控えていた私が、にこやかにティーカップを配り始める。


「特に王子様には、こちらのカップを。こちらは最新作でして、茶渋などのステイン汚れが付着しにくいよう、わたくしが特殊なコーティングを施しましたの。お口をつける部分の衛生も、これで完璧ですわ!」


 私の専門的すぎる解説に、エドワード王子はまたしても言葉を失い、ぐっと眉間に皺を寄せた。 

 

 カイ様は、そんな私を見て、面白そうに口の端を微かに吊り上げる。私のこの行動が、結果的に相手のペースを乱し、交渉を有利に進めるための最高の援護射撃になっているのだろう。


 結局、その日の交渉は、カイ様の一方的な勝利で幕を閉じた。

 面白くないのは、リリア嬢だった。交渉の場で何の活躍もできず、ただ美しいアリシアがカイ様に庇護される姿を見せつけられただけ。彼女のプライドは、ひどく傷ついているようだった。



 その日の午後。

 私が一人で中庭に続く廊下を磨いていると、背後から高い声がかけられた。


「……あなた、少しよろしいかしら」


 リリア嬢だった。彼女は、今までとは打って変わって、どこか心配そうな、同情するような表情を浮かべている。


「カイ辺境伯もひどいお方よね。あなたを利用するだけ利用して……。本当は、エドワード王子、あなたのことを今でも、とても気にかけていらっしゃるのよ」

「えっ?王子様が?」


 思いがけない言葉に、私はきょとんとする。


「そうよ。あなたを追放したことを本当は後悔していらっしゃるの。でも、今さら素直になれないだけ……。だから、あなたと二人きりで、少しだけお話がしたいそうなの」


 リリア嬢は、扇で口元を隠しながら蠱惑的に囁いた。


「西の塔で、お待ちになっているわ。さぁ、行ってさしあげて」


 西の塔。そこは、屋敷の中でもあまり使われていない古い塔だ。


(王子様が、わたくしと二人きりで……?まあ、なんてことでしょう!)


 私の頭の中では、一つの結論が導き出されていた。


(きっと、王城のお掃除に関する、極秘のご相談があるに違いないわ!わたくしのプロの技が、ついに王宮にまで必要とされる時が来たのね!)


「分かりましたわ!すぐに向かいます!」


 私はリリア嬢ににこやかにお礼を言うと、愛用の『ピヨちゃん』を手に意気揚々と西の塔へと向かった。

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