休日ショッピング
「……おいナオ、俺、やっぱ帰っていい?」
「逃げるな。」
ルカの足が、入口で止まる。
目の前にはセレクトショップ。
小洒落たガラス張りの外観に、洒落た服が並んでるのも、
その隣で腕組みしてるナオの態度も、すべてが気に食わない。
「そもそも服なんか着れてりゃいいだろ。中身が良けりゃ。」
「…中身が良けりゃ、なぁ…。」
「……傷ついたわ今。」
言いながらも、ルカはしぶしぶ店内に入る。
ナオは後ろから押すようにしてついていく。
「俺が付き合ってやるって言わなかったら、いつまで経ってもボロいパーカーだったろ。」
「“ボロ”言うな、“味”だ。」
「出汁でも染みてんのか。」
「ナオ、今日はやたら辛辣だな?」
「へそ曲げんな。」
――それでも、店員の冷たい視線やキラキラした空間に圧されながら、
ルカは一着、また一着と服を手に取っていく。
「……なぁ。これ、ナオに似合いそうじゃね?」
「そうじゃない。」
「でも見てると、お前に着せたくなるんだよなー。俺の趣味ってやつ?」
「間に合ってるから、戻しとけ。」
ふてくされたように、ルカはTシャツをラックに戻す。
だが、すぐにまた別の服を手に取って、鏡の前で合わせてみる。
ナオは少し離れてそれを眺めていたが、ふと小さく言った。
「……それは、似合ってる。」
「ん?今なんか言った?」
「聞こえてるだろ。買えばいい。」
ルカは一瞬だけ驚いたような顔をして、それから笑う。
「……へぇ。ナオに褒められると、なんか変な感じだな。背中ムズムズする。」
「…言われ慣れてんだろ?」
「そりゃ女には?でもお前に言われると、なんかこう、素直に信じちゃうんだよなー。」
「……はぁ。」
「ナオは口悪いけど、嘘はつかないからな。」
ナオは何も言わない。
ルカは買うことにした服を抱えて、レジへ向かう。
「お前の“似合ってる”って、多分一番信用できる。」
ぼそっとこぼすその声に、ナオはなぜか喉元が少し熱くなるのを感じた。
それを誤魔化すように、目線を逸らす。
「……どうせまた着倒してボロくするんだろ。」
「まぁ、服も本望だろ。」
「バカだな、ほんと。」
店を出たルカは、袋をひと振りして、にやりと笑う。
「なぁナオ、今度はお前の服も見に来ようぜ。」
「間に合ってる。」
「遠慮すんなって。俺が選んでやるからさ。」
「……調子に乗りそうだな…。」
「ふわふわもこもこのルームウェアとか選ばねぇからさ。」
「選んだら殴るかもしんねぇ。」
「俺の服選んでくれた人の言葉とは思えねぇな!」
喧嘩とも、会話ともつかない言葉を投げ合いながら、
ルカとナオは夕暮れの街に溶けていった。
いつも通りで、でもほんの少し、変わった空気をまといながら。