素顔は、俺だけ
ナオがシャツの袖を捲り、ネクタイを緩める。
任務帰りのルクシオンの一室。
静かに漂う汗と煙草の匂いのなか、ルカはソファに寝そべったまま、目を細めた。
「……お前、やっぱ脱いだ方が綺麗だよな」
その一言に、ナオの手が止まる。
「……なにが言いたい」
「いや、褒めてんのにそんな顔すんなよ。
“着てる時は威圧感、脱げば色気”ってやつ?──最高じゃん」
「叩き斬るぞ」
「はいはい、それ。すぐそう言う。……でもさ」
ルカは身体を起こし、ソファの背にもたれたままナオを見上げる。
「お前が脱ぐの、俺以外の前じゃ見せんなよ?」
ナオがぴくりと眉を動かす。
「意味がわかんねぇ」
「“仕事中の顔”は誰でも見れる。でも、“素肌”は俺だけ──
……そう思いたいだけ。ダメ?」
沈黙。ナオは無言でシャツのボタンを留め直した。
「……勝手にしろ」
「照れてんの?」
「うるさい」
「ねぇ、“ダーリン”?」
ナオの背中が一瞬、止まった。
「──斬る時は、目を合わせてね。ダーリン」
ルカは口元だけで笑った。
「へぇ、言ったな」
「最期に視界いっぱいのお前。最高じゃん」
「なら──」
ナオがゆっくりと振り向き、じっとルカを見据える。
「俺の首を締めるのは、お前だな。ハニー」
ルカはその目を、ひとときも逸らさずに受け止めた。
「……任せとけ」