今日の俺、ちょっと可愛くない?
※本作は、『俺たちは、壊れた世界の余白を埋めている。』の非公式短編集です。
本編において非BLで描かれている、鷹宮ルカと芹原ナオの関係性を、“感情の供養”という形で綴っています。
恋愛描写はありませんが、衝突・依存・距離の歪みなど、人によっては特別な温度に感じられる場合があります。
ご理解のうえ、解釈は各自にお任せいたします。
「……ちょっと、動くな」
ナオの声が、すぐ後ろから落ちてくる。
ルカはソファの背にもたれて、
肩まで伸びた髪を、だらしなく垂らしたままうとうとしていた。
「なに……物理的に?感情的に?」
「黙ってろ」
「……え、ほんとになに?なに始まんの?」
ナオは無言で、ルカの髪を指ですくった。
細いゴムが、器用にその手の中で引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと待って……結ぶの?俺の髪?」
「邪魔だろ。ずっと顔にかかってるし。どうせ後で文句言う」
「え、やば、今“世話焼き系彼女”みたいな台詞じゃなかった?」
「首、動かすな」
「ごめんごめん、ちょっとときめいた」
ナオの指が、ルカの襟足をなぞるようにまとめていく。
手際は妙に慣れていて、それが余計にルカの胸に何かを突き刺した。
「……もしかして、昔からやってた?あ、元カノ?」
「…妹がいたからな。たまに頼まれてた。……お前の髪、やわらかいな」
「え、何それ、今の言い方……っぽくない?それっぽくない??」
「黙ってろって」
最後に、ゆるめのハーフアップが形作られる。
飾りっ気のない、でも妙に整った形。
「……はい、できた。動いていい」
「うわ、マジで結んだじゃん……鏡、鏡……」
「写真撮った。後で送る」
「うわぁ、やっば……なんか知らねぇけど、俺、今すごい可愛くなってない!?」
「……うるさい」
ルカが立ち上がろうとしたとき、
ナオの手が、ごく自然に彼の髪を撫でた。
「……あんま他人に、見せんなよ」
「え?」
「なんでもない。崩れたら、また俺がやるから」
「………………は??」
「聞こえなかったフリでいい」
「ナオ……お前、優しすぎない?結婚する??」
「黙ってろ」
そう呟く声が、小さく跳ねた。