返すって、夜には
※本作は、『俺たちは、壊れた世界の余白を埋めている。』の非公式短編集です。
本編において非BLで描かれている、鷹宮ルカと芹原ナオの関係性を、“感情の供養”という形で綴っています。
恋愛描写はありませんが、衝突・依存・距離の歪みなど、人によっては特別な温度に感じられる場合があります。
ご理解のうえ、解釈は各自にお任せいたします。
「……ナオ、なあ、なんでそれ俺の着てんの?」
「……サイズ感がちょうどよかった」
「いや、だから……それ俺のなんだけど?」
「…お前だってやるだろ」
ルカがじりじりと近づいてくる。
ナオの首元には、ルカのネクタイがゆるく巻かれていた。
「……返して?」
「いやだ」
「だってそれ俺のお気に入り」
「お前の気に入ってるネクタイが俺の首にある。それでいい」
「…え、なにそれ、言い方エロくねぇ?」
「エロくない。お前が勝手に想像してるだけだ」
ルカは不服そうに顔をしかめて、
ナオの胸元のネクタイに手をかけた。
「ふーん…取り返すぞ。俺のだもん」
「やめろ、締まる」
「じゃあ外せ」
「やだ」
「お前さぁ……なら、逆に締めるぞ?」
「……締めろよ。ギリギリのとこまで」
「……ほーん」
不毛なにらみ合いが数秒続いたあと、
ルカはふっと笑って、ネクタイから手を離した。
「今日は許す」
「……たまには、いいだろ」
「……まじでずるいな、お前」
ナオは無言でネクタイを指でなぞった。
そのまま、そっと結び直して、息をつく。
「……返すって。夜には」
「今じゃないんだ?」
「もうちょっと、持ってたい」
「……しょうがねぇな、ダーリン」
今日は、少しだけ貸してやる。