表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/59

7 母親になるわ

 侍女たちは揃って声をあげ、慌てた様子で私を止めようとした。その理由に納得したものの、私は一歩も引くつもりはない。


 ――こんなことでひるんで手を引くなんて、私には考えられない。だって、私はもうキーリー公爵夫人で、あの子の母親になったのだもの!


「や、やめて。こないで。ぼく、だれもきずつけたくないのに……とめられないんだ。ぼく……こわいでしょう? みんな、ぼくをこわがるんだ」


 私は水魔法を使えるが、その魔力量は平均的な貴族より少し多い程度。それに比べ彼の魔力は膨大で、私はその差に圧倒されたけれど、なんとかしてあげたい一心で突き進む。


「アベラール様を怖いとは思わないわよ。待っててね。今、そばに行ってあげるから」


 私は火の玉を避けながら、冷静に水魔法を駆使し、アベラールに近づいていく。執事や侍女達が必死で止める声も無視を決め込んで。そして、彼を優しく抱きしめた。魔力が暴走して、壁に当たった火がカーテンや棚に燃え移っていくのを見逃すことなく、水魔法でそれらも鎮火した。


「奥様、袖口が焦げていますよ。まぁ、腕に少し火傷が……すぐに手当をいたします」

「あら、ほんとだわ。ちょっと、ヒリヒリするけどたいしたことないわ、大丈夫よ。それより、アベラール様。初めまして、私はジャネット。これから仲良くしましょうね。 」

 にっこりと微笑むと、アベラールは号泣しながら私に抱きついてきた。


 その後、キーリー公爵家のお抱え医師に腕の火傷を見てもらうと、アベラールの魔力の暴走でこれほど軽傷で済んだことに、感心していた。


「奥様には魔力耐性があるようですな。まともに坊ちゃんの火魔法の攻撃を受けて、これほどの軽傷とはあり得ませんよ」


「魔力耐性? 自分では気がつきませんでしたわ。たしかにアベラール様の魔力は膨大ですものね。この程度の火傷で済んだのは、私だからなのでしょうか? だとしたら、この体質に感謝しなければね」


「ご、ごめん……なさい。ぼく……わざとひのたま、つくったんじゃないの……」

 私は幼子を抱きしめて、もちろんわかっている、と告げた。年齢を聞いたらまだ五才になったばかりだという。


「私が来たからにはもう大丈夫。それにね、私をお母様と呼ばなくてもいいのよ。名前で呼んで。ジャネットだからジャネとかネーネでもいいわ」

「……うん。ジャネ……ってよぶ」


 お母様という言葉にピクリと肩を震わせたアベラールの様子を見て、私は思わず胸が痛んだ。やはり、実母は相当問題ありの女性だったのだろう。執事の言う通り、ヒステリックな母親の態度が、彼に深い傷を残しているのだと感じた。


 私は、どれほど自分が愛されて育ったかを思い返し、その両親に心から感謝した。あの愛情を、今度は私がアベラールに注ぐ番かもしれない……うん、きっと、そうよね。私、この公子のいい母親になろう。


 「ジャネ……そのやけど……いたい? ごめん……なさい」

 「大丈夫。すぐに治るわ。それよりアベラール様は、湯浴みをして新しいお洋服に着替えて、さっぱりしましょうね。これからは私がお世話をしてあげるわ。お部屋も掃除させなくてはね」

 「ほんとうに……? いっしょに……いてくれるの?」


 嬉しそうに抱きつくアベラールを、私はギュッと抱きしめた。子供のぬくもりって、なんてあたたかいんだろう。


 妹や弟の面倒を見ていた頃を思い出す。エッジ男爵家の侍女は一人だけ、メイドもひとりだった。私たちはなるべく自分のことは自分でするように育てられた。けっしてお金に困っていたというわけではなくて、領民に寄り添った暮らしということを心がける、というのがエッジ男爵家の家訓だったから。


 私はアベラールの湯浴みを侍女に混じって手伝い、清潔な衣服に着替えさせると、思いっきり明るい声で声をかけた。


 「さて、これからなにをしましょうか? 早速、一緒に遊びましょう!」

 「だったら、あの……ぼく、おきにいりのえほんがあるの。いっしょに……えほん……よんでくれる?」

 「もちろんよ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ