6 隠された子供?
「離れにどなたか住んでいらっしゃるの? そういえば、公爵様が『既に跡継ぎがいるから子供はいらない』とおっしゃったけれど、そのお子様と会わせていただいていないわ。今すぐご挨拶に行かなければ……私、子供は大好きですのよ」
「えぇっと……奥様、それはいけません。……坊ちゃんには誰も会えないです」
庭師が慌てた様子で、困ったように私を止めた。
「え? どういう意味なの? 誰も会えない? 私は公子の継母ですよ? 血は繋がっていなくとも母になろうと思っていますのに。子供は妹や弟がいたので慣れていますわよ?」
私は首を傾げる。
「それは……わっしの口からは言えません」
庭師は目をそらし、さらに小さく続けた。
「あぁ、そうだ! き、急な仕事を思い出しました。……それでは奥様、わっしはこれで……」
歯切れの悪い言葉を残して、庭師は慌ててその場を去っていった。私はその後、庭園ですれ違った侍女やメイドたちにも公子のことを尋ねてみたけれど、皆一様に口をつぐんだ。
――いったい、何を隠しているの?
こっそり離れに近づいて、外から窓越しに中を覗くと、幼い子がひとりで放置されているのが見えた。乳母や侍女の姿はどこにもなく、部屋は乱雑で掃除がまったく行き届いていない。
――どうしてひとりぼっちにさせておくの? 床にはうっすらと埃が積もり、着ている服も……いつ着替えさせたのかもわからないほど薄汚れているわ。幼い子供をこんなところにいさせてはだめよ!
私はすぐに離れの正面玄関に回り、その部屋のドアを開けようと試みたが、鍵がかかっていてびくともしない。やむを得ず屋敷に戻り、執事にこの状況を説明し理由を求めた。
「アベラール様は危険なので近づいてはなりません」
「なにが危険なの? このままあの子を放置しておくほうが、よほど危険だわ。私がお世話をします。あの子がキーリー公爵家の公子なのでしょう? あんなところにひとりで閉じ込めるなんて……酷すぎますわ」
「奥様、これには事情がございます。実は、お坊ちゃんは人間嫌いなのです。前の奥様が非常に激しい気性の方で、お坊ちゃんに対して心無い言動を繰り返していました。そのため、母親のヒステリックな怒鳴り声や支配的な態度を深く覚えていて、人を寄せ付けようとしません」
だからって、放置するように閉じ込めるなんてあり得ない。私はその子が可哀想でたまらなくなってしまう。
「そうなのですか? でしたら、私がお世話をしますわ」
私は執事に無理を言って鍵を渡してもらい、その部屋に向かうことにした。彼は侍女たちとしぶしぶ後に続いた。侍女たちには公子の着替えを持たせた。これも私が必要だと思ったからだ。場合によっては、入浴もさせるべきだろう。
離れまで来て、彼の部屋のドアをノックして声をかける。
「アベラール様。私はあなたのお父様の妻になったジャネットと申します。あなたと仲良くなりたくて、来たのよ。入ってもいいかしら?」
返事はない。ただし、ドアをそっと開けようとしたその時、部屋の中から可愛らしい声が聞こえた。けれど、その声はひどく怯えていた。
「こ、こないで。ぼく、ひとりがいい」
「そんなこと言わないで。怖くないわ、少し一緒にいてもいいかしら?」
そう言いながら、そっと距離を縮めていったその瞬間、突然火魔法が発動した。火の玉が私に向かって次々と飛んでくる。到底このような幼い子供が放つ火魔法とは思えないほどの威力だった。
「奥様っ、危険です! お坊ちゃんは火魔法を使います! 公爵様の血を継いで、その魔力は膨大なのです。お心が乱れると、こうなってしまうんです……今まで、お世話もろくにできなかったのはそのせいです」
……この子……心が乱れて、魔力が暴走しているだけなのね。
なんとか落ち着かせなくては……私を怖がる必要はないってことをわかってほしいわ。