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17 ちょっぴりさびしいけれど……

 最近の旦那様は朝食を一緒に召し上がるようになった。


「朝から息子と妻の顔を見るのも悪くないと思ってな。果物やミルクぐらいなら、俺でも食べられる。朝はあまり食欲がないんだがな」


 父親らしい愛情が育ってきたみたい。これまでは、ご自分が両親の愛を受けられずに生きてきたから、子供に対する思いも希薄だったと思う。けれど、最近はしっかりとアベラールの瞳を見て話し、私にも気をつかってくださる。公爵とアベラールとの会話も増えて、アベラールはとても嬉しそうだ。


 朝から和やかにほほえむ両親と朝食をとれたら、子供にとっては楽しい一日の始まりだと思う。だって、私もそうだったから。父様と母様のお互いを思いやる会話、優しい口調は、幼い私にとってはあたりまえのものだった。周りに愛があふれていると気持ちに余裕が生まれ、自分も優しくなれて他人への思いやりもうまれる。だからアベラールにもそんないい環境を与えてあげたい。


「公爵様。今日も私たちと朝食を召し上がってくださって嬉しいですわ。こうやって家族でおいしい物を朝からいただけるのも、公爵様が領地経営と騎士団で日々がんばっていらっしゃるからですわね。アベラール様、お父様はとても立派な方なのよ」

「はい……おとーしゃまはりっぱ……ぼく、おとーしゃまみたいになりたい」

「うふふ。もちろんなれますとも!」

「あぁ、アベラールは俺よりもずっと立派になりそうだ。そういえば……すぐ近くの大きな湖に、まだアベラールもジャネットも行ったことがないだろう? ボートもあって、散歩にはもってこいだ。今度の公休日に行くか?」

「もちろんですわ! 私はサンドイッチでもつくりますわね。楽しみだわ。ね、アベラール様!」

「うん!」


 あぁ、なんて素敵な朝かしら。

 公爵がアベラールを湖に連れて行ってくださる、とおっしゃった。

 屋敷の離れにずっと閉じ込められていたから、アベラールは公爵家の敷地の外には出たことがない。


 でも、これからは家族そろって湖にも行ける――これこそ家族の休日だわ。


 公爵が騎士団本館に向かう際に、わたしたちは庭園にまで出てお見送りをした。

「行ってらっしゃいませ。お仕事、がんばってくださいね。今日は暑くなりそうですので、適度に飲み物をとってくださいませ。夕食はさっぱりとした味付けのものを、料理長にお願いしておきますわ」

「あぁ、ありがとう……では、行ってくる」


 公爵の顔がいやに赤い。まだ朝だからそこまで暑くないはずだけど……? 


「おとーしゃま。かお、あかいよ」

「あぁ。気のせいだ」

「そうかなぁ。おとーしゃま、いつもとちがう。あっ、ジャネがきょうもきれいだからでしょ? ジャネはいつもきれいなんだよ」

「ちがっ、違うぞ。俺は別にジャネットのことは……なんとも……思ってない。おとなをからかってはいけない」

 公爵はますます真っ赤な顔になって、魔導高速馬車に乗り王都の騎士団本館へと向かった。


「ふぅーー。わかっていたけど、あんなふうに言われると、ちょっぴりさびしい気持ちになるわね。『ジャネットのことは、なんとも思ってない』か。……女性としては好きになれない、という意味かな。もっと、母様に美しく生んでもらったら良かったかしら?」


 小さくつぶやきながら、ホールに掛けられた大きな鏡をじっと見つめた。

 ダークブラウンの髪と瞳。息を呑むような美しさではないけれど、私はこの母様によく似た優しい顔立ちが自分でも好きだ。


「ふふっ。これで充分だわ。だって、これが私だもの! 公爵様に女として好かれなくても、家族として仲良くなれれば、それでいいのよ」

 にっこり笑うと、鏡の私もやわらかい笑みを浮かべた。


 お気に入りの顔、これが私!

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