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シグマ大帝VSゲイル・タイガー

 操縦室では、すさまじいGにシホと菊花が振り回されていた。

 シホは巨乳を窓に押し付けるように壁際に張り付き、菊花は天井に転がり落ちる。


「ヒィー! ゲイル、死ぬって!」

「もうムチャクチャや! ウチ、こんなん耐えられへん!」


 だが、ゲイルは意に介さない。

 ヘルメスは上下逆さのまま縦に回転し、機銃をバラまきながらグレネードを迎撃。

 ドガガガガ! 爆発が周囲を包む!


 そんな中、ヘルメスはドルガンの頭上へと一気に上昇していく。


「隙だらけだ!」


 頭上から、機銃をエネルギータンクに浴びせかける!

 ズドォオン! 二機目のドルガンが爆散。

 黒煙が岩石地帯に広がる。


『何ぃー!?』


 三機目は逃げようと、リパルサーリフトを全開にする。

 だが、ゲイルは冷静にリニアキャノンの照準を合わせた。


「これで三つ」

『うわぁああーッ!』


 ズドォオン! 重金属弾がドルガンの背中に直撃。

 機体が炎に包まれる。


「……」


 ゲイルの視線は、落下していくコックピットボールに固定されていた。

 シグマのコマンドスーツは、撃墜されるとパイロットを保護するボールが射出される設計だ。

 ……いや、エリシオンも東武連邦も同じボールを使っているのだが。


 爆発の中、ボールが地面に転がるのを見て、ゲイルは大きく息を吐いた。


「どうにか……殺さずに済んだ」

「ゲ、ゲイルさん、すごい……! 敵、全部やっつけました!」


 やや物憂げなゲイルに対し、興奮したような声のシホ。

 と、菊花が天井から這うように降り、ゴーグルをた。


「はぁ、はぁ……ウチ、死ぬかと思ったわ! ゲイル、アンタ、ほんまに人間か!?」

「……」


 ゲイルは無言で操縦桿を握り、ヘルメスを岩陰へと着陸させる。

 粒子推進機が静かに停止し、船体は岩山の影に隠れた。


「モニターに新たな敵反応は……ないですね」

「そのようだな」


 ゲイルの視線は、遠くシグマの領土に向けられる。

 かつての仲間を撃破した。その事実に、胸をよぎる複雑な感情。

 だが、ゲイルはそれを振り払い、二人に語った。


「シホ、機体の状態を確認。菊花、ダフネのリアクターを再チェックしろ。まだ安全圏じゃない」

「は、はい……!」

「了解……!」


 二人の少女が頷き、それぞれの役割に戻る。

 ヘルメスは岩陰で息を潜め、次の行動を待つ。

 シグマの国境付近、戦場の緊張はなおも続いていた。


〜〜〜


 さて、ここで視点はシグマ帝国の中心、アヴァルシアへと移る。

 アヴァルシア。堅牢にして豪華な、帝国の首都。

 夕焼けの空に、いくつもの大型建築が並ぶ。


 その心臓部に、シグマ大帝の王宮がそびえ建っていた。

 中東の風情ある壮麗な建築は、砂岩と大理石で築かれたアーチとドームが西日に輝き、金色の装飾が権力の威厳を誇示する。

 尖塔が夕暮れの空を突き、色鮮やかなモザイクタイルが壁を彩る。


 庭園にはヤシの木と噴水が涼やかな音を響かせ、絹の旗が風に揺れる。

 王宮の中では、政治家や貴族たちが豪奢な衣装で集い、権謀術数の会話が低く響く。


 だが、

 その喧騒を切り裂くように、一人の男が現れた。


「……随分と、久しい景色だ」


 ゲイル・タイガーは、コマンドロボのハッチを開け、王宮の広場に降り立った。

 金髪が風に揺れ、鋭い目元に決意が宿る。


 カッカッカッ。

 ゲイルは躊躇いなく広場を渡り、王宮の入り口へと歩いていく。

 と、警備兵たちが、銃を構えて近づいてきた。


「何者だ! 許可なく王宮に――」


 だが、ゲイルの顔を一目見て、兵士たちの動きが止まる。


「あ、貴方は……!」

「お、おいマズいぞ!」

「本物だ! 本物の英雄だ!」


「「「し……失礼しましたーッ!!」」」


 彼らは即座に敬礼し、かしこまる。

 シグマ帝国のトップエース、ゲイル・タイガー。

 その名は、帝国の兵士なら誰もが知る伝説だ。


 だが、彼らは知らない。

 帝国がゲイルを裏切り、抹殺を企てたこと。

 そして、ゲイルが今、復讐の炎を胸に、この地に立っていることを。


「急ぎだ、通せ!」


 ゲイルの声は低く、威圧感に満ちている。

 警備兵たちは顔を見合わせ、慌てて道を開ける。


「ど、どうぞお通りください!」

「ご苦労様です!!」


 トップエースの歩みを止めたと知れば、処罰は免れない。

 彼らの怯えた視線を背に、ゲイルは速足で王宮内へ進む。


 カツカツカツ……。

 ゲイルは王宮の内部を歩いていた。

 その視界には、豪華なシャンデリアと絨毯が敷かれた廊下が続く。

 壁には帝国の栄光を讃える壁画が描かれ、衛兵たちが直立不動で立つ。

 ゲイルの足音が大理石の床に響く。


((急がねば。まだ祖国は俺の裏切りを隠しているが、情報が広がるのは時間の問題だ。バレればこの作戦は失敗……強行作戦に移行せざるを得ない))


 ゲイルの脳裏に、エリシオンの作戦参謀、ギンとの会話が蘇る。


~~~


『私が自ら、国の中枢を破壊する。

 なるほど、悪くない作戦だ。

 だが、良いのか?

 シグマとノヴァは戦争中。エリシオンからすれば、彼らが共倒れになる方が有利なはず。

 シグマを滅ぼすのは得策ではないだろう』


 ギンは小さく頷き、穏やかな笑みを浮かべた。


『もちろん、これがノヴァに利する行為であることは承知している。

 その上で、キミが仲間になるメリットが上回ると算出したまでだ。

 それとも、復讐はあきらめるかい?』


 ゲイルの目が燃えた。


『馬鹿な。

 戦いで殺される覚悟はしていても、皆、祖国に殺される覚悟などしていなかった。

 仲間の無念を晴らさずして、何が指揮官か』


ギンが静かに頷く。


『そういうこと。

 キミは遠慮なく祖国を滅ぼすといい。

 その権利があるだろうさ』


~~~


 そんな会話を思い出しながら、ゲイルは王宮の廊下を進む。

 胸の奥で、復讐の炎が燃え上がる。

 だが、その歩みが一瞬、止まった。


 通りかかったのは、王宮の食堂だ。

 スパイスの香りが漂い、調理の音が響く、懐かしい場所。

 と、カウンターの向こうから、ふくよかな食堂のおばちゃんがゲイルを見つけ、声を上げた。


「おやまあ、ゲイルちゃんじゃないかい! 久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」

「……ッ!」


 ゲイルは息をのんだ。

 目の前のおばちゃんは、ゲイルが若い頃、訓練の合間に食堂で世話になった女性だ。

 いつも笑顔で、ゲイルの好きなスパイススープを多めに盛ってくれた。

 彼女の温かい笑顔が、ゲイルの心を突き刺す。


「えらくやつれた顔してるねぇ。ちゃんと食べてるかい? ほら、ちょっと待ってな、なんか作ってやるから!」


 おばちゃんが心配そうに言う。

 だが、ゲイルは咄嗟にごまかすように答えた。


「いや、大丈夫だ。急いでいるんだ」

「そうかい? でも、ゲイルちゃん、なんか元気ないみたいだよ。ちゃんと休まなきゃダメだよ。ほら、昔みたいにスープ飲んで元気出しな!」

「……ッ」


 おばちゃんの言葉に、ゲイルの胸が締め付けられる。

 祖国を滅ぼす───

 それは、シグマ大帝や政府の中枢だけでなく、

 目の前の気のいいおばちゃん、サボりがちだが酒に詳しい掃除屋の青年、退役して事務員をしている老人……をも巻き込むことだ。


 彼らは、ゲイルを裏切った帝国の真実を知らない。

 ただ、日々を生きる普通の人々だ。


「おっと、長くなっちゃった。呼び止めて悪かったねぇ」


 おばちゃんが照れ笑いする。

 その言葉にゲイルは小さく頭を下げ、声を絞り出した。


「いや、良いのだ。達者でな」


 ゲイルは小さくお辞儀をし、食堂を後にした。



 足音が再び廊下に響くが、その歩みは一瞬前より重い。

 ゲイルの視線は前を向いているが……その胸の奥には、葛藤が渦巻いていた。


 これからゲイルは、シグマ大帝と政府の中枢を爆破する。

 復讐の計画は、すでに動き出している。

 だが、それはつまり、多くの命を巻き込むということだ。


 カツ、カツ、カツ。

 王宮の奥深くへ進むゲイルの背中を、食堂のおばちゃんが心配そうに見送っていた。


〜〜〜


 シグマ帝国の王宮、アヴァルシアの中心。

 会議室は、壮麗な中東風の装飾に彩られた広大な部屋だ。

 高い天井には金と青のモザイクが輝き、巨大なシャンデリアが燭台の光を反射する。


 中央には、黒檀と象牙でできた巨大な円卓が置かれ、豪奢な衣装に身を包んだ貴族や政治家たちが集う。

 彼らの顔には、権力の傲慢さと、どこか不安げな様子が伺える。

 逆に、不安などものともしない顔をしているのは、シグマ大帝。

 彼こそ、かつての大戦で勝利をおさめ、巨大帝国を築いた張本人である。


 そして、それを取り巻く政治家は、ゲイル・タイガーとその部下たちを裏切り、核攻撃を命じた者たち。

 この日、政治家たちは帝国の行く末を語るべく、集まっていた。


 その日程を知っているからこそ、ゲイルはやってきたのだ。


 ギギイィ……。

 ゲイルは重い扉を押し開け、会議場へと足を踏み入れた。


 鋭い目が円卓の面々を射抜く。

 同時に、突然の来客に、政治家たちは入り口を向いた。


「なんだ? 遅刻か?」

「誰か知らんが、もう少し静かにだな……」


 政治家たちは顔を見合わせ、ボソボソと話している

 だが、部屋にいた数人が、その正体に気づいた。

 驚愕に目を見開く。


「ゲイル・タイガー!? 貴様、生きていたのか!」


 貴族の一人が立ち上がり、震える声で叫ぶ。


「なに、ゲイルだと」


 シグマ大帝の冷たい目がゲイルを捉える。

 だが、その表情は動揺を隠せない。

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