シグマ帝国、侵入作戦!
タンドリアから北、シグマ帝国の国境付近にて。
荒涼とした岩石地帯の上空を、一席の輸送艦が静かに滑るように飛行していた。
エリシオンが誇る高速輸送艦『ヘルメス』だ。
粒子推進機の低いうなりが機体を包み、ステルス機能がレーダーからその姿を隠す。
ヘルメスは小型だが機動力に優れ、プラズマリアクター搭載機を世界各地へ運ぶ重要な役割を担う。
しかし、武装は機銃とリニアキャノンのみと貧弱で、戦闘には不向きだ。
さて、視点はヘルメスの操縦席へと移る。
狭い操縦室には、剣呑な雰囲気が漂っていた。
右の操縦席には黒髪に眼鏡の内気な少女、シホが座り、繊細な手つきでヘルメスを操る。
彼女のイノセントが格納庫に控えているが、今は操舵手に徹している。
尚、格納庫には、シホのイノセントの横に、ゲイル・タイガーの新型『ダフネ・ザ・フェニックス』が鎮座している。
さて、操縦室の後部座席に座るのは菊花・メックロードと、ゲイル・タイガー。
菊花は橙色の髪をお団子にまとめ、額にゴーグル、ツナギの胸元からは巨乳の谷間覗いている。
関西弁の口調は普段は軽快だが、今は重い沈黙に押し潰されそうだった。
チラリと横目でゲイルを眺める菊花。
その胸には、複雑な感情が渦巻いていた。
((ゲイル……あんたを散々に殴って、糾弾して。けど、冷静に考えたら、ウチがあんたを責める資格なんてあらへん))
菊花の故郷『レザイト』は、かつてシグマ帝国に滅ぼされた。
家族も友人も失い、少女の心には、深い傷が刻まれている。
だから、シグマ出身のゲイルがエリシオンに保護されたとき、菊花は怒りに任せて彼を殴り、罵倒した。
だが、ゲイルは祖国に裏切られ、仲間も故郷も失った。
その事実が、菊花の憎しみを鈍らせ、複雑な思いに変えていた。
菊花は、自分が作ったブレイズや整備した兵器が、シグマの兵士を数え切れないほど殺してきたことを知っている。
その中には、ゲイルの友人や知人もいたことだろう。
「……なぁ」
ふと、菊花は口を開く。
その声は低く、普段の軽快さはない。
「ゲイル。ウチに恨みはないんか?」
「恨み?」
「ウチが作った兵器で、あんたの国の人間、めっちゃ殺してきたやろ。中には、あんたの友達だっておったかもしれん」
ゲイルは窓の外の岩石地帯を見つめ、静かに首を振った。
その声は落ち着いているが、低く、重い。
「……恨みはない」
「ない……?」
「あぁ。奴らは軍人で、戦場に出た以上、死ぬ覚悟はできてた。俺も同じだ」
その言葉に、菊花はゲイルの横顔を見つめる。
ゲイルの表情には、故郷を失った痛み、仲間を失った悲しみ、そしてそれでも戦い続ける覚悟が混在していた。
((……アンタも、ウチと同じように悩んでるんやな))
菊花は気づく。
ゲイルもまた、戦争の非情さと向き合いながら、己の生き様を貫こうとしているのだ。
と、シホが操舵席から小さく声を上げる。
「前方にシグマの哨戒ドローン反応。ステルスで回避しますけど、準備お願いします」
「了解」
ゲイルは頷き、席を立とうとする。
同時に、計器類を一瞥し、ステルスシステムが完璧に作動していることを確認。
だが───
彼の本能が鋭く警鐘を鳴らす。
戦場で磨かれた感覚が、危険の接近を捉えたのだ!
「――!」
直後───
対空ミサイルが、ヘルメスの船体を掠めた。
ズドォオンッ!!
激震が操縦室を揺らす!
「おわぁあ!?」
驚きの声を上げる菊花。
シホは操縦桿を握り締め、衝撃に耐える。
甲高く響き渡る警報音、モニターに映るのは対空ミサイルの警告!
ゲイルの脳裏に、記憶が閃く。
((この地域の警備担当は───アイツか。腕のいい男だ))
ゲイルは知っている。
ヤツが……ステルスを掻い潜る策を持っていることを!
「貸せ! 俺が動かす!」
ゲイルは即座に立ち上がり、シホを強引に押しのけて操縦席に滑り込む。
むにゅ♡
その拍子に、彼の手がシホの大きな胸に触れた。
シホは顔を真っ赤にして、小さく悲鳴を上げる。
「ひっ、ゲ、ゲイルさん!?」
だが、ゲイルは無視し、操縦桿を握る。
モニターに映るのは、次の対空ミサイルが迫る映像。
「甘い!」
ゲイルは冷静にヘルメスを回転させ、リパルサーリフトを微調整。
フォオオオーン!
船体が急旋回し、ミサイルがかろうじて外れた!
爆発の衝撃波が艦体を揺らす。
「なんやこれ!? ステルス効いてへんのか!?」
「効いてる! だが、相手はそれを読んでいる!」
ゲイルの声は鋭い。
即座に計器を一瞥し、敵のミサイルの誘導パターンを瞬時に分析。
そして、菊花に向かって有無を言わせぬ口調で叫ぶ。
「菊花! 格納庫へ行ってダフネとイノセントを固定しろ! 今すぐだ!」
「わ、わかった!」
菊花はその迫力に気圧され、コクコクと頷いた。
そのまま操縦室を飛び出し、格納庫へ走る。
「はっ、はっ、は……っ」
ヘルメスの通路を走りながら、ダフネとイノセントが揺れ動くのを想像し、冷や汗が背を伝う。
格納庫に飛び込むと、素早く固定クランプを確認。
見上げるとダフネの赤と白の装甲が光り、その隣には青白いイノセントが佇んでいる。
今回の作戦の、全兵力だ。
菊花は通信で叫んだ。
『ゲイル、機体固定完了! 好きに動かしてええで!』
『了解!』
ゲイルはその通信を聞き、操縦桿を強く握った。
その瞬間、モニターに映ったのは多数のミサイル!
シグマの追撃部隊が、ヘルメスを捕捉し、飽和攻撃を仕掛けてきたのだ。
ゲイルの目が鋭さを増す。
「甘く見るなよ。操舵とはこうするのだ!」
ゲイルは操縦桿を押し込み、ヘルメスを急上昇させた。
フォオオオーン! 粒子推進機が咆哮し、船体が空を切り裂く。
垂直上昇するヘルメス。
それを追尾してくる無数のミサイル!
だが、ゲイルは冷静に次の手を打つ。
「ここだ」
高度を一気に上げ、ミサイルを誘導した瞬間、リパルサーリフトを完全にカット。
グンッ! ヘルメスは急落下し、慣性でミサイルを振り切る。
突然の急降下にミサイルは目標を見失い、遥かな空へと飛んで行き、遠くで爆発!
ズドォオン!
シホが操縦席の脇で、赤面したまま震える声で言う。
「ゲ、ゲイルさん、すごい……! でも、まだ敵が!」
「案ずるな!」
ゲイルはモニターを睨み、敵の哨戒ドローンの反応を確認する。
実力者が指揮する部隊は、執拗にヘルメスを追ってきている。
「奴め……まだ諦めんか」
ヘルメスのステルス機能は機能しているが、敵の巧みな追跡技術がその効果を薄れさせている。
と、格納庫から戻った菊花が、息を切らしながら報告してきた。
「ゲイル、機体はバッチリや! 次はどうするん!?」
「……そうだな」
ゲイルは操縦桿を握り締め、ヘルメスを低空飛行に移行させる。
岩石地帯の地形を利用し、敵のレーダーから逃れる策だ。
その視線が、モニターに映る敵影を捉えた。
「この反応は……ドルガンか!」
ゲイルはその目を見開き、敵を見据える。
視線の先に映るは飛行型コマンドスーツ『ドルガン』の群れ。
重厚で流線形の黒い装甲が、陽光に鈍く輝く。
その手にはガトリングガンとグレネード。
そんな機体が、鋭い機動音を響かせながら接近していた。
ドルガンたちは、ヘルメスを追うように岩山の上を飛ぶ。
ならば───
「岩山を利用だな。低空で急旋回する、備えろ」
「へ?」
「はい?」
きょとんとした返答の二人をよそに、ゲイルは操縦桿を握った。
そして、ヘルメスを岩山に沿ってドリフトするように急旋回させる。
フォオオオーン! 粒子推進機が唸り、船体が岩肌スレスレを滑る。
「く……ッ」
格納庫の新型『ダフネ・ザ・フェニックス』をここで使う選択肢は頭にない。
新型機を軽々しく晒すのは愚か者のすることだ。
ガリッ!
急旋回すると、とがった岩が装甲を掠める。
シホが脇の席で震えながら言う。
「ゲ、ゲイルさん、敵、すぐそこに……!」
「なあ、ヘルメスって、こんなムチャな動きできんのか!?」
「できる。黙ってろ」
ゲイルの声は冷たく、一切の迷いがない。
一方、シグマの警備部隊は突然の出動命令に困惑しながらも、岩石地帯を飛び回る。
ドルガン三機の通信が、緊迫した声で交錯する。
『こちらアルファ、索敵継続! ステルス艦の反応、微弱だが捕捉!』
『こちらブラボー、敵は岩山の陰に潜んいる。挟み撃ちだ!』
『こちらチャーリー、攻撃準備完了! 出てきたら一気に叩く!』
だが、その瞬間、岩陰からヘルメスが真横に飛びてきた。
「そこだッ!」
ゲイルは操縦桿をひねり、トリガーを押し込んだ。
その動きが輸送艦を一瞬で加速させ、リニアキャノンが火を噴く。
ズドォオン!
重金属弾がドルガン一機を直撃。
『何!?』
ドルガンの装甲が粉砕され、そのままきりもみ回転し岩山へ墜落!
爆炎が岩山を揺らした。
突然のことに、シグマの兵士たちは驚きの声を上げる。
『アルファ、撃破! なんだ、あの輸送艦!?』
『反撃しろ! 挟み撃ちだ!』
ドルガン二機がガトリングガンを回転させ、乱射!
ドドドドド! 弾幕がヘルメスを襲う。
だが、
「射線が甘い!」
ゲイルは操縦桿を素早くねじ込んだ。
するとヘルメスはバレルロールじみた動きで旋回、攻撃を紙一重で躱す。
船体が急角度で傾き、岩山の隙間を縫うように飛んでいく。
操縦室では、すさまじいGにシホと菊花が振り回されていた。
シホは巨乳を窓に押し付けるように壁際に張り付き、菊花は天井に転がり落ちる。
「ヒィー! ゲイル、死ぬって!」
「もうムチャクチャや! ウチ、こんなん耐えられへん!」




