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タンドリアにて

 タンドリア、砂漠の小国家。

 かつてシグマ帝国の侵略で滅亡に瀕し、エリシオンの傘下に加わることで生き延びた国である。

 その宮廷から、物語は始まる。


 宮廷は、砂岩で築かれた伝統的な建築で、威厳を放っていた。

 その中、円形の会議室。

 そこは、彫刻が施された柱と、色鮮やかなタペストリーに囲まれている。

 見上げれば陽光がステンドグラスを通って、床に虹色の模様を描く。


 部屋の中央では、空色の髪の女が政府高官たちと向き合っていた。

 エリシオンの代表、セレーナ・エクリプスである。

 隣には護衛のネビュラが控え、鋭い目を走らせている。


 豊穣の女神のようなセレーナと、白い民族衣装の高官との間で、喧々諤々の議論が繰り広げられていた。

 空色の髪が肩に流れ、豊かな胸を包む白いローブが彼女の気高さを際立たせる。

 だが、高官たちの声は不安と苛立ちに満ちていた。


「ノヴァ・ドミニオンが新型機だと!? 我々の知らぬ間に、こんな脅威を放置していたのか!」


 年配の高官が拳をテーブルに叩きつけ、顔を紅潮させる。

 別の高官が声を荒げた。


「シグマ帝国も動きを活発化させている! タンドリアの防衛はどうなるんだ、エリシオンは約束を守れるのか!?」


 セレーナは凛とした表情を崩さず、落ち着いた声で応じる。


「皆さん、冷静になってください。エリシオンはすでに食料、補給物資、貴重なプラズマリアクター、そしてイノセント三機をタンドリアに送っています。ノヴァの新型機についても、プロメテウス隊が交戦し、詳細なデータを収集済みです。対応は進めています」


 だが、高官の一人が食い下がる。


「それで十分だと? 新型機がタンドリアに攻めてきたらどうする! 追加の支援を今すぐ約束しろ!」


 セレーナの内心に一瞬の動揺が走る。

 エリシオンの予算はすでにカツカツで、独断で追加支援を決定する権限はない。

 代表だけど、ないのだ。

 彼女は微笑みを浮かべ、巧みに話をそらす。


「追加支援については、本国と協議の上、迅速に対応を検討します。まずはプロメテウス隊の戦果を信じ、タンドリアの防衛体制を強化しましょう。次の会議で具体案を提示します」


 高官たちが渋々頷く中、セレーナは会議を締め、部屋を後にした。


~~~


「ふぅ……」


 廊下に出ると、セレーナの肩から力が抜ける。

 空色の髪を軽くかき上げ、ため息をつく。

 傀儡でしかない自分が、どこまでやれるのか……。

 だが、すぐに表情を引き締め、次の仕事へ向かう。


「ネビュラ。次の予定は?」

「はい、タンドリアの基地で、現地視察の予定です」

「では、急ぎましょう」


 二人は速足で軍事基地へと向かう。


 ゴトン、ゴトン、ゴトン……。

 移動中の装甲車内で、セレーナは隣に座るネビュラと軽く言葉を交わす。

 黒い髪と物静かな雰囲気のネビュラは、セレーナの不安を見透かすように穏やかに言った。


「セレーナ様、会議では立派でした。高官たちをうまく抑えましたよ」


 その言葉に、セレーナは苦笑する。


「抑えただけよ、ネビュラ。予算も権限もないのに、期待だけは高まる。本当に私がエリシオンの代表でいいのかしら……見かけがいいだけの傀儡なのに」

「見かけではありません。セレーナ様は努力家で、国民の信頼を勝ち取っています。政治家として有能だから選ばれたんです。私にはわかります」


 ネビュラは静かに首を振った。

 セレーナはネビュラの言葉に、小さく微笑む。


「ありがとう、ネビュラ。貴女がいてくれてよかった」


 と、そんなことを話していると、窓の外にボルンが並んでいるのが見えた。

 装甲車がタンドリアの軍事基地に到着したのだ。


 装甲車から降りると、砂の匂いと暑い風が頬を撫でた。

 ロナウ基地は砂漠の端に位置し、コンクリートの壁と監視塔が厳めしい雰囲気を漂わせている。

 金属の軋む音。

 オイルの匂い。


 遠くを見ると、損傷したイノセントが整備士たちによって搬送されていくのが見えた


 と、軍人たちが不安げな表情でセレーナを迎え入れた。


「セレーナ代表閣下、ノヴァの新型機の噂は本当ですか? このイノセントで勝てるのか……?」


 若い兵士の声に、セレーナは凛とした笑顔で応じる。


「本当です。だが、プロメテウス隊は新型機を撃退しました。皆さんのイノセントも、立派に戦えます。整備を急ぎ、次の戦いに備えてください。私たちは必ずタンドリアを守ります」


 軍人たちの表情がわずかに和らいだ。

 その後、セレーナは基地内を回り、兵士たちを励まして回った。

 明るい言葉を内心の重圧を押し隠す。


((現場の皆が命を懸けているのに、私が弱音を吐くわけにはいかない……))


 その一方で、イノセントを運ぶメカニックたちは、意気揚々としていた。


「みろよこのステータス! ボルンとは違うのだよボルンとは!」

「ダメージがひどいが……フレームは無事だから直せるな」

「これさえあれば何も怖くねぇぜ!」


 旧型機な上、中古のボルンでやりくりしていた軍人からすれば、イノセントは夢の新兵器。

 機動性、武装、反応速度、操作性、装甲、どれもボルンを上回る。

 と、パイロットらしき女がセレーナの元に駆け寄ってきて、お辞儀をした。

 巨乳の女パイロットは赤毛を揺らし、感謝を告げる。


「ありがとうございます。これほどの機体があれば、タンドリアは守られます」

「い、いえ……当然の支援です」


 不安げな軍人ばかりを相手にしてきたセレーナにとって、これほど素直な感謝は初めてで、思わずしどろもどろになる。

 だが、そんなことは知らぬ女はセレーナの手を取り、ブンブンと振って来た。


「エリシオンの支援のおかげで、街が守られたんです。本当に、ありがとうございます……!」

「は、はい……」


((こんな……感謝されることもあるのね。私も、もっと頑張らないと))


~~~


 仕事を終え、セレーナはエリシオンの輸送艇へと乗り込んだ。

 座席につくと、ネビュラがパネルを操作し、ギンと接続する。


 ブォン───ッ。

 モニターに映るギンは、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


『やあ、元気そうだね』

「そうですね。お陰様で、うまくやれています」

『そう、いいことだ』


 ギンはセレーナに一礼すると、戦闘映像の解析結果を説明し始める。


『では、本題に入ろう。ノヴァの新型は高性能だ。実際、シェンチアンやタイタンでは相手になるまい』

「そんなに強いの……!?」

『そうだ。でも、イノセントだって総合性能では負けていない。パイロットの技量に依存する部分が大きく、性能を引き出せる者が少ないだけだ』


 セレーナが不安げに眉を寄せる。


「ファランクスがイノセントを圧倒している以上、パイロットの差が問題なのね……。何か特別な訓練を受けているのかしら?」


 ギンの目が一瞬、鋭さを帯びる。


『訓練というより、強化だ。クスリ、遺伝子強化、あるいは脳干渉……まぁ、倫理的とは言い難い方法だろう。ソラリスのパイロットも『調教』の成果なのかも、ね』

「調、教……」


 セレーナの胸に冷たいものが走る。

 烈火の証言によると、オリジンは改造され、年端も行かぬ少女を乗せて戦っているという。

 少女が戦場で戦わされている現実が、彼女の心を締め付ける。

 ギンはセレーナの不安を察し、言葉を続けた。


『だが、想定した中では、悪くない状況だよ。新型機も完成したし、シグマ帝国への侵攻に成功すれば、ノヴァに注力できる。だから、それまで頼むよ』


 セレーナは深く息を吸い、頷く。


「わかったわ、ギン。私も、できる限りやってみる」

『頑張ってね』


 ギンはやわらかく微笑み、通信を切った。


「……ふぅ」


 セレーナは通信パネルを閉じ、気合を入れる。

 現場では軍人たちが身を粉にして戦っている。


((私が弱音を吐くわけにはいかない。政治家として、支えにならなくてはいけないわね))


「ところでネビュラ。次の予定は?」


 ネビュラが静かに微笑み、資料を手渡す。


「セレーナ様、次はエピメテウスと合流し、タンドリアを脱出。艦内で会議の予定です。資料はまとめておきました。準備は万全です」

「ありがとう、ネビュラ。一緒に頑張ろう」


 二人は手を取り合い、互いに力強く頷いた。


 砂漠の夜空には星が瞬き、眼下の街の明かりも、少しづつ増えている。

 上手く行っている。

 はた目には、そう見えるだろう。

 だが───


「ねぇ、ネビュラ」

「はい」


 ネビュラはキョトンとした顔で返した。

 セレーナは、ずっと疑問に思っていたことを口に出す。


「ギンは……一体、何者なの?」

「……ッ」


 薄々、不審に思っていたことを言われ、ネビュラは言葉に詰まる。


「かなり若いように見える。……というより、烈火と同じくらいの年に見える。それが秘匿されてるって、何?」

「それ、は……」


 ネビュラには答えられない。

 国の代表であるセレーナにすら、ギンの詳細は知らされていない。

 一介の護衛でしかないネビュラが知ることなど、何もないのだ。


「それなら……一つ、頼まれてくれるかしら?」


 セレーナは意を決して、その言葉を紡いだ。


「ギンが何者なのか、いつからあの場所があるのか、調べて欲しいの」

「……わかりました」

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