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砂漠の町、タンドリア

「……当てる」


 烈火が回避した先に、粒子弾が正確に飛来。

 ズドォオン!


「甘ぇ!」


 だが、ブレイズは寸前でリベルタと分離!

 粒子弾は2機の隙間をすり抜ける!

 リエンの瞳が見開かれた。


「分離……!?」


 次の瞬間、ブレイズとリベルタは、空中で再び合体。

 ジョイントが接続され、赤と白の装甲が一つになる。


 フォオオオーン───

 リパルサーリフトが唸り、合体したブレイズがソラリスへと迫る。

 粒子ブレードを突き出すブレイズ。狙うはソラリスの脇にあるメインケーブル!


 だが、その刹那、残るファランクスが割り込んできた。

 ブレードを身代わりに受け───斬!


 ファランクスは一撃で爆散。炎と黒煙が戦場を覆う。

 通信に響くのは、セラピナの冷たい声。


『潮時ね、リエン。撤退なさい』

「……はい」


 リエンは無感情に応じる。

 ファランクスの爆散する炎に紛れ、ソラリスはリパルサーリフトを全開にした。

 砂塵を巻き上げて撤退していくソラリス。

 同時に、残るファランクスも後退し、戦場から姿を消した。


 シュオオオオ───。

 煙が晴れたとき、既に敵部隊はかなりの距離まで逃げていて、立っているのはブレイズだけだった。


「はぁ……はぁ……」


 烈火は肩で息をし、額の汗を拭った。

 頭が痛い。

 覚醒の反動が脳を蝕んでいるのだ。


 が、その半分は兎歌が受け止めてくれている。そうでなければ、烈火の脳が焼ききれていただろう。

 通信パネル越しに、兎歌の慌てた声が響いてきた。


『烈火、大丈夫!? 怪我してないよね!?』


 烈火は苦笑し、操縦桿を握り直す。


『へっ、この程度、大したことねぇよ』

『もう! でも……敵、逃げちゃったね』


 烈火の視線が、ソラリスが消えた砂漠の彼方に向けられる。

 少し考え、烈火は首を振った。


「いや……輸送ルートから離れすぎると危ねぇ。追撃は止めておこう」

『そう、だね……』


 覚醒したブレイズの性能なら、今からでも追いかけ、殲滅できるかもしれない。

 しかし、目的は殲滅ではなく、この輸送ルートに敵を近づけさせないことなのだ。


 それに、高出力の合体形態で戦ったため、肉体的にも、精神的にも消耗している。

 これは殺し合いなのだ。疲労状態でのミスが死に直結することを、烈火はよく知っていた。


「やれやれ……」


 つぶやきが砂漠に溶ける。

 ノヴァ・ドミニオンの脅威は去ったが、その影は依然として色濃く残っていた。


 ブレイズの全身を包む赤黒いオーラが消え、重低音が鎮まる。

 だが、リベルタのコックピットでは、兎歌もまた、苦痛に襲われていた。

 動くと激痛が走る。

 思わず顔を歪め背中を丸めてうずくまる兎歌。


「く、ぅ……ッ」


 覚醒したブレイズは、プラズマリアクターの出力を極限まで引き出し、人間の身体では耐え難い負荷をかける。

 それは、烈火のような超人なら耐えられるのだが、兎歌の華奢な身体には過酷すぎるのだ。


 骨にひびが入ったかのような鋭い痛みが全身を走り、兎歌は思わず、悲鳴を上げそうになる。

 だが───


「んぐ……ッ!」


 咄嗟に自分の腕を噛み、声を押し殺した。

 桜色の瞳が潤み、額に汗が光る。


 ((烈火はヒーローだから、わたしが悲鳴を上げたらきっと心配して助けてくれる))


 でも、だからこそ、知られてはいけない。


((烈火に負担をかけたくない……!))


 兎歌は必死に痛みを堪え、通信パネルに視線を向ける。

 烈火が不思議そうにパネルを見つめているのに気づき、彼女は咄嗟にパイロットスーツの前を緩めた。


 ファスナーが解かれると、豊かな胸が飛び出す。

 ブレイズのパネルには、大きなおっぱいが大きく映し出されているはず。

 兎歌は強調するように身体をねじり、無理やり明るい声を出した。


『烈火、大きなおっぱい、好きでしょ? 頑張るあなたにご褒美♡』


 その声に烈火の目が見開かれ、理性と性欲がぶつかり合うような表情が浮かぶ。


『なんだよ、挑発してんのか? この……!』

『えへへ、でも、烈火になら、見られてもいいから、さ』


 そんなことを言いながら、兎歌は内心で安堵した。


((なんとか、誤魔化せたかな))


 彼女の痛みを隠すための演技は、烈火の注意を逸らすことに成功した。

 烈火は照れ隠しに頭を掻き、通信でぼやく。


『ったく、戦場で何やってんだ、お前……』


 兎歌は小さく笑い、身体の痛みを押し隠して続ける。


『ふふ、烈火の元気な顔が見れてよかったよ! また一緒に戦おうね!』


 リベルタとブレイズは勢い良く飛び上がり、砂漠を後にする。

 兎歌はコックピットで一人、そっと腕を押さえ、痛みに耐えながら桜色の髪を揺らす。

 烈火を守るため、彼女は自分の限界を押し切っていた。


「大丈夫。わたしは、烈火と一緒に戦えてる。戦えてるから……」


〜〜〜


 一方、砂漠の国、『タンドリア』にて。

 基地の滑走路には熱砂をはらんだ風が吹き抜け、陽光がジリジリと肌を焼く。


 そんな中、マティアス・クロイツァー率いる輸送部隊は、戦闘空母『エピメテウス』と合流していた。

 黒い装甲に覆われたエピメテウスは、プロメテウスと同型の未来的なシルエットを誇り、砂漠の陽光に鈍く輝く。


「なんとか、たどり着けたな」


 マティアスは滑走路の向こうに広がる街の風景へと、目を向けた。

 街の大通りは、砂に覆われた低い建物と、救援物資を求める人々の喧騒で活気づいている。


 視線を走らせると、エピメテウスの格納庫から、食料や医療品などの救援物資が降ろされのが見えた。

 そして、空いたスペースには、傷だらけのストラウスが格納されていく。


 マティアスは愛機を見送り、埃まみれの顔を拭った。


((輸送車両のプラズマリアクターは無事。タンドリアに届いた。任務は成功だな。だが……))


 マティアスの脳裏に、戦闘の光景がよみがえる。

 ノヴァ・ドミニオンの脅威……特にイノセント・ソラリスとリエンの存在が、頭から離れない。


 と、近づいてくる人影、頼れる仲間、ギゼラ・シュトルムだ。

 金髪に紫のパイロットスーツ、昔の飛行士のような

 ギゼラは軽快な足取りで近づき、笑顔で手を挙げる。


「よぉ、マティアス! 無事みたいだねぇ!」


 パァン!

 マティアスは疲れた笑みを浮かべ、ギゼラとハイタッチを交わす。


「ギゼラ、援護感謝だ。エピメテウスのおかげで帰りが楽になる」

「へへ、そりゃよかった!」



 ギゼラはニヤリと笑って続けた。


「けど、聞いたよ。ノヴァの新型とやり合ったんだって? どんな感じだったんだい?」

「……うむ」


 マティアスの視線が一瞬、遠くに彷徨う。

 強化されていたソラリス、ファランクスの非人間的な連携、そして粒子兵器……。


「手強い。ノヴァの技術力は予想以上だ。次はもっと準備が必要になる」


 その言葉に、ギゼラは肩をすくめ、格納庫の奥を指した。


「あとで詳しい話を聞きたいね。ま、とりあえず報告が先決かね」

「そうだな」


 マティアスは小さく頷き、エピメテウスに乗り込んだ。

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