表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/102

新兵器、リベルタ&ダフネ登場!

 エリシオン本国の片隅にある、工業区域。

 陽光がエリシオンのコマンドスーツ製造工場を照らし、銀色の外壁が鈍く輝いていた。

 広い格納庫の中央には、最新鋭の技術が息づく二機の新型コマンドスーツが静かに佇んでいる。


 白い装甲に覆われた鳥のようなシルエットの『リベルタ・ザ・ターミガン』

 炎を思わせる紅白の装甲が鋭い輝きを放つ『ダフネ・ザ・フェニックス』。

 どちらもプラズマリアクターの鼓動が低く響き、解放のときを待っていた。

 空気は金属とオゾンの匂いに満ち、整備士たちの足音がコンクリートの床に軽く反響する。


 そんな場所に足を踏み入れた人影が三つ。

 烈火、兎歌、そしてゲイルである。


「なるほどなぁ……」


 烈火・シュナイダーは腕を組み、ダフネを見上げていた。

 見ていると、ブレイズの炎とは似て非なる配色。しずかで、それでいて力強い。

 隣では、兎歌・ハーニッシュがリベルタの白い装甲に手を触れ、桜色の瞳をキラキラと輝かせていた。

 白い指先が装甲を撫でるたび、微かな光沢が陽光に反射する。


「……」


 少し離れた場所では、ゲイル・タイガーが無言で二機を見つめていた。

 格納庫の人工照明に冷たく映える金髪に、赤いまなざし。

 その鋭い目は、どこか疑念と好奇心が入り混じった光を宿している。


「へぇ、これが兎歌の新機体か。白くてデカい鳥って感じだな。プラズマリアクターの出力、すげぇことになってんじゃねぇの?」


 烈火が軽い口調で言うと、兎歌が振り返り、頬を膨らませた。


「烈火、鳥って言わないでよ! リベルタだよ、リ・ベ・ル・タ! すっごくカッコいいんだから!」

「へいへい、わかったよ。で、こいつで何すんだ? 武装アタッチメントは多そうだけど、また支援か?」


 烈火の言葉に、兎歌が少しだけ顔を赤らめ、モジモジと指を絡ませる。


「う、うん……それもあるけど、ほら、合体できるんだよ! 烈火と一緒に戦うとき、もっと強くなれるんだから!」

「合体ねぇ……そりゃ面白そうだな!」


 烈火は笑い、目を細めた。

 ゲイルは二人の会話を横目で見ながら、無言で機体を観察している。

 と、その視線が入り口に向けられる。


「───来たか」


 視線の先、格納庫の入り口に、銀髪をポニーテールにまとめた青年が立っていた。

 物腰は柔らかく、しかしどこか鋭い眼光を湛えている。

 エリシオンの作戦参謀、ギンだ。

 ギンは軽い足取りで三人に向かい、口元に穏やかな笑みを浮かべる。


「お久しぶり、烈火、兎歌。そして、初めまして。キミがゲイル・タイガーだね」

「ああ。そういう貴方は───」

「オレはギン。この国の技術顧問と作戦参謀をやってるよ」


 ギンが右手を差し出すと、ゲイルは一瞬だけ躊躇しつつも、しっかりとした握手を返した。

 二人の手が結ばれ、視線が交錯する。


「ゲイル・タイガーだ。エリシオンの重要人物が、敵国の人間の前に姿を現すとは……どういうつもりだ?」


 ゲイルの声は低く、鋭い。

 まるで刃のように空気を切り裂く。

 その様子に烈火は眉を上げ、兎歌はハッと息を飲んだ。

 だが、ギンは動じず、むしろ笑みを深める。


「敵国、ね。だが、キミがその祖国に裏切られた人間だということは、よく知ってる。だからこうやって会いに来たのさ」

「……ッ」


 ゲイルの瞳が一瞬、鋭く光る。

 脳裏に蘇るのは、あの戦場の炎だ。

 シグマ帝国の核ミサイルが死をもたらしたこと。

 ドレッドが自らを盾にしてゲイルを守り、焼け落ちた姿。

 ルシアが放射線に侵され、苦しみながら息絶えた瞬間。


「裏切り……か」


 ゲイルの拳が、無意識に握り締められる。


「あぁ……確かに、シグマは俺を切り捨てた。だが、だからといってエリシオンを信用すると思うか?」


 ギンの笑みがわずかに鋭さを帯びる。


「信用する必要はないよ、ゲイル。オレがキミに与えるのは、復讐の力だ。シグマに立ち向かうための、圧倒的な力」


 ギンがダフネを指した。

 紅白の装甲が、まるで炎のように陽光を跳ね返す。

 ダフネの姿を見上げるゲイル。

 プラズマリアクターの低いうなりが、格納庫を小さく震わせていた。


「ダフネ・ザ・フェニックス。キミのために調整された機体だ。荷電粒子ランチャーとガトリングガンを備えた専用バックパックとの連携を前提に設計されている」

「……ほぅ」

「一般兵では扱えないほどの機体だが……シグマ最強のパイロットだったキミなら、使いこなせるはずだ」

「なるほど、口がうまいな」


 ゲイルの唇が、わずかに歪む。

 冷たい笑みだ。


「復讐の道具か。面白い提案だ。だが……」


 ゲイルの視線がギンを貫く。


「なぜ俺をそこまで買う? 俺がエリシオンを裏切る可能性は考えないのか?」


 ギンの目が、ゲイルを真っ直ぐに捉えた。

 そこにあるのは、揺るぎない確信。


「キミは義理を無視するような人間じゃない。烈火に助けられた恩がある」

「恩、か……」

「砂漠で倒れたキミを、ブレイズが運び出したときのことを覚えているだろう? その恩を裏切るような男なら、そもそもここにはいない」


 ゲイルの表情が、ほんの一瞬だけ揺れる。

 紅く燃えるブレイズが、灼熱の砂漠で自らを手に乗せ、ヘルメスへと運んだ、あの光景。

 確かに、あの瞬間がなければ、ゲイルは今ここに立っていない。


「……そうだな」


 ゲイルは目を閉じ、笑う。

 再び目を開いたとき、その視線の先には、烈火と兎歌が立っていた。


 一方、烈火はリベルタに近づき、装甲を叩いて豪快に笑う。


「おい、兎歌、このデカい鳥、合体できるって、具体的にどうなってんだ?」


 その言葉に兎歌は目を輝かせ、リベルタの装甲を愛おしげに撫でる。


「あのね、リベルタはブレイズのバックパックになるの! 合体すると、プラズマリアクターの出力がもっと安定して、烈火の覚醒の負担も減らせるんだから!」

「覚醒の負担、ねぇ……」


 烈火の声が一瞬、低くなる。

 脳内にザリザリと記憶が走った。

 あの燃える街での戦い。

 ───怒りに突き動かされ、ブレイズが限界を超えて咆哮した、覚醒したのだ。

 敵の精鋭を蹴散らし、街を救った。だが、その代償として烈火は倒れた。

 兎歌の泣き顔を思い出すと、胸の奥で炎がくすぶる。


 ギンが烈火に歩み寄り、静かに言う。


「リベルタの設計は、キミの覚醒を支えるためのものだ」

「支える……?」

「機体が合体することで、アニムスキャナ―の負荷を半減し、キミの力を最大限に引き出す。もう二度と、あのときのようには倒れさせない」

「……」


 ギンは静かに、それでもしっかりと語る

 その姿に対し、烈火は笑みを浮かべて答えた。

 

「はんっ、倒れるのが怖くて戦えるかよ。……ま、負担が減るのはありがてぇかな」

「……ダメだよ、烈火。ムチャしないで」


 兎歌は烈火の手をそっと握り、桜色の瞳を潤ませた。

 照れくさそうに頭を掻き、兎歌の手を軽く握り返す烈火。


「わあーったよ、心配性だな、兎歌は」

「心配なんだよ、ムチャするから……」


 その様子を、ゲイルが静かに見つめていた。

 かつての敵が、今、仲間として同じ場所に立つ。

 シグマへの復讐、エリシオンへの恩義、そしてこの新型機体……。

 ダフネの赤と金の装甲が、炎じみて輝いている。ゲイルはそこに、力が眠っているのを感じていた。


「……さて」


 ギンは三人を見回すと、穏やかだが力強い声で言った。


「これから先、シグマ帝国や東武連邦だけでなく、ノヴァ・ドミニオンの脅威も迫ってくる。イノセント・オリジンが奪われた今、技術的優位は消え、正面からの戦いになる」


 そこでギンは一拍開け、両手を広げた。


「ここから先を戦い抜くためには、キミたちの力が必要だ。準備はできているかい?」


 その言葉に烈火は拳を握り、牙を剥いて笑った。

 兎歌も大きく頷き、声を弾ませる。


「はん! どこの誰でもかまわねぇ、まとめて鉄くずにしてやる!」

「わたしも戦うよ! 絶対、負けないから!」


 ゲイルは一歩踏み出し、ダフネの装甲に手を置く。

 掌へと伝わる冷たい感触、そしてプラズマリアクターの鼓動が微かに響いてきた。


「俺の目的は一つだ。仲間の敵を討つ。そのためなら、何でもしよう」


 格納庫に、三人の決意が響き合う。

 三人に呼応するように低く唸りを上げるリベルタとダフネ。

 陽光が二機を照らし、戦いの新たな火蓋が、静かに切られようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ