決着、または終焉
砂嵐が咆哮する戦場で、烈火・シュナイダーの愛機、ブレイズ・ザ・ビーストと、ゲイル・タイガーの愛機、バーキッシュが、目にも止まらぬ速さで激突していた。
赤黒いオーラをまとうブレイズと、金色に輝くバーキッシュの刃が交差し、火花が散る。
「そこだ!」
ブレイズのE粒子ブレードが横薙ぎに振るわれるが、ゲイルはバーキッシュをしゃがませ、頭部が吹き飛んだ位置を刃がかすめる。
「甘い!」
カウンターでバーキッシュの超振動ブレードが振り上げられる。
だが、ブレイズは勢いのままに蹴りを繰り出し、剣を側面から弾いた!
衝撃で両者が一瞬離れるが、すぐに再び激突。
ブレードが火花を散らし、つばぜり合いとなる。
「食らえ!」
「食らうか!」
バーキッシュの左手がブレイズの装甲を殴りつけるが、同時刻、ブレイズの肩の機銃がバーキッシュの左肩を粉砕!
金色の装甲が火花を散らし、破片が砂嵐に舞う。
「うぉおおお!」
「貴様ァああああ!」
烈火の咆哮とゲイルの冷徹な叫びが交錯し、戦場は神聖かつ悲惨な殺し合いの舞台と化していた。
シャオ、ドレッド、ルシア……残る三機のパイロットたちは、二人の戦いに見惚れることしかできない。
神々の戦いのように壮絶で、しかし人間の業を映し出す悲惨な光景。
ルナの鉤爪はギガローダーを牽制するが、その目は烈火のブレイズに奪われる。
ドレッドは右腕を失ったギガローダーでシールドを構え、ルシアは動かぬウィンディアのコックピットで息を呑んでいた。
だが、その壮絶な戦いは永遠には続かなかった。
突如、各機のコックピットに、初めて聞く甲高いアラートが鳴り響く。
電子音声が、無機質にパイロットたちに告げる、聞きなれぬ言葉
『警告:核兵器反応を検知。直ちに退避を推奨』
「「「「「……は?」」」」」
その瞬間、全員の心が一つになった。
ブレイズ、バーキッシュ、ルナ、ギガローダー、ウィンディア───すべての機体が一瞬動きを止める。
と、ゲイルのサブカメラに、ヴァーミリオンからの通信が割り込んできた。
震えながら響くのは、副官ノレアの声。
『隊長……どうやら我々は、切り捨てられたようです』
ゲイルはモニター越しに空を見上げた。
砂嵐の雲を突き破り、はるか遠くに白く輝く流星。
死の星───核ミサイルが、戦場へと迫っていた。
シグマ帝国の上層部は、ゲイルたちを生贄に捧げたのだ。
この場にいる全員が、同じ光を目撃していた。
ゲイルの唇が歪み、呟きがコックピットに漏れる。
「人間は、処刑台の列の後ろに並ぶためなら、仲間をも差し出す。……だが、これほどか! これが我が国の末路か!」
ゲイルは思わず声を荒げ、コンソールを殴りつけた。
烈火のブレイズは赤黒いオーラをまとい、左腕に兎歌のコックピットボールを抱えたまま立ち尽くす。
戦場は、壮絶な殺し合いから、迫りくる死の運命へと舞台を変えていた。
キィイイ───ン。
戦場を覆う砂嵐の中、核ミサイルは白い流星となり、空を切り裂く。
烈火、シャオ、兎歌の三人は、迫りくる死の脅威に直面していた。
リリエルのコックピットボールの中で、兎歌は瞬時に思考を巡らせる。
桜色の瞳が、恐怖に開かれ、小さく震えた。
「なんてことを……!」
兎歌の脳内に、核兵器にまつわる知識が流れ出す。
この100年で、戦場を装甲兵器が支配するようになった。
それらの兵器を確実に仕留めるため、現代の核は、金属すら砕く爆風を放つようになったのだ。
食らえばコマンドスーツの装甲でも、ひとたまりもない。
ならば、対抗策は一つしかない───リリエルの残骸からバリアパックを取り出し、ブレイズの覚醒による大出力でバリアを展開することだ!
「烈火! コンテナを開けて! バリアパックが入ってる!」
兎歌の声が、ネクスターの力で烈火の心に直接響く。
ブレイズのコックピット内で、烈火は即座に応答した。
「分かった!」
ブレイズの右腕がリリエルの残骸に伸び、コンテナを引き出す。
黒焦げになった巨大なコンテナを引き寄せると、ふたを引きちぎる。
「おっしゃ!」
幸運にも、コンテナとその中身は無事だった。
ブレイズがバリアパックを背負うと、淡い光が機体を包みこんだ。
「動いてくれよ……!」
キィイ───ン。
バリアパックが起動し、ブレイズのプラズマリアクターと同期。
赤黒いオーラに淡い光が混じる。
兎歌はコックピットボールの中で、機体のAIに命令を飛ばした。
「落下地点計算! 集落とヘルメスを庇える角度出して!」
『計算中……最適位置:現在地より北西12度、距離300メートル。バリア展開推奨』
兎歌の叫びに冷静に答えるAI、ハミット。
その声を聴き、烈火はブレイズを動かし、指定された位置へと急いだ。
ルナもブレイズの後ろに続く。
コックピット内のシャオの声には動揺が滲んでいた。
『何がどうなってんだよ、コレ……!』
『俺にも分かんねぇよ!』
烈火の声は苛立ちと焦りに満ちている。
兎歌の声が、シャオの心にも響いた。
「シャオ! 絶対に後ろから離れないでね!」
『お、おう……!』
ルナは滑るように機体を走らせ、ブレイズの背後にぴたりと付けた。
黒狼じみた機体が砂塵を巻き上げる。
上空からは、核ミサイルの白い光が、刻一刻と近づいていた。
一方、シグマの三本槍、ゲイル、ドレッド、ルシアは、絶望的な状況に立たされていた。
「ぐ……ッ!」
ゲイルの愛機、バーキッシュは、リミット解除の代償を払い、右腕がボロリと落ち、膝をつく。
ガシャン……ッ。
金色の輝きは薄れ、機体のフレームが軋む。
『ゲイル隊長!』
ドレッドのギガローダーが、右半分が焼け付いた状態で駆け寄ってくる。
ガンブレードを失い、シールドだけを構えた巨体が、バーキッシュに肩を貸した。
少し離れた位置から、ルシアのウィンディアがヨロヨロと近づいてくる。
スラスターは全損、装甲は剥がれ、機体は動くのがやっとだ。
ゲイルはバーキッシュのコックピットで、頭痛と戦いながら天を仰いだ。
核ミサイルの白い流星が、砂嵐の雲を突き破って飛んでくる。
シグマ上層部の裏切り――彼らを生贄に捧げた事実が、ゲイルの胸を冷たく刺した。
しかも、三機ともダメージが重く、核の光から逃れる余裕はないのだ。
「これが……我が国の末路か……」
ゲイルの呟きが、コックピットの静寂に溶ける。
バーキッシュのサブカメラが、ブレイズとルナの動きを辛うじて捉えていた。
烈火たちのバリアパックの準備が、遠くで淡い光を放つ。
だが、ゲイルたちにはもはや打つ手がなかった。
飛翔
落下
閃光
轟音
一瞬遅れて、爆風
白い光が戦場を飲み込み、核ミサイルの爆風が砂漠を蹂躙した。
砂嵐すら吹き飛ばす衝撃波が、コマンドスーツの装甲を叩き、機体を無慈悲に吹き飛ばす。
砂漠に存在する、すべての機体が、死の光に晒された。
………
……
…