覚醒、バーキッシュの真の力
一方、烈火のブレイズは、左腕にリリエルのコックピットボールを抱えていた。
赤黒いオーラが機体から迸り、砂嵐を押しのける。
烈火の目は絶望と怒りに燃え、粒子ブレードがバーキッシュを追い詰めていく。
ゲイルはサブカメラの不鮮明な映像を頼りに戦うが、ブレイズの速度と火力に圧倒されていた。
「ぐおぉお……!!」
~~~
その頃、リリエルのコックピットボールの中、兎歌は精神世界に沈んでいた。
真っ暗な空間に、椅子が二つ。
一つに兎歌が座り、もう一つにマティアスが座っている。
彼は穏やかな笑みを浮かべ、語りかける。
『生き残る秘訣は簡単だ。目を閉じず、よく見ることだ』
『ロボットと言えど、中の相手が人間である以上ミスはする。その瞬間を見逃さなければ勝ち残れるのだ』
『いいかい。目を閉じてはいけないよ。チャンスを見逃す』
「……」
マティアスは微笑み、姿を消した。
景色が切り替わり、市街地のカフェテラスに変わる。
反対の椅子にはギゼラが座り、豪快に笑う。
『一回負けたくらいでクヨクヨするんじゃないよ! 人間、生きてりゃいろんなことがあるもんだ』
『だけどねぇ。生きてれば、案外何とかなるもんさ』
『アタシだって、いろいろあったけど、生きてるからねぇ』
「……」
ギゼラは笑い、姿を消した。
再び景色が切り替わる。
今度は油臭い格納庫だ。
橙色のお団子ヘアに巨乳のツナギ、プロメテウス隊のメカニック、菊花が座っている。
菊花は関西弁で力強く言った。
『ええか。自分の機体はな。ウチらメカニックが丹精込めてできとるんや』
『それが何もできんなんてこと、あらへん』
『たとえ機体のほとんどが壊れたとしてもや。諦めたらアカンで!』
「……」
景色が艦橋に変わり、プロメテウスの艦長、レゴンが座っている。
やせぎすの中年男は、情けない笑みを浮かべながら語った。
『見ての通り、私は無能だ。テストの点が良くても、現場ではそんなもの、何の役にも立たなかった』
『だけど、そんな私でもやれることはあるのだ。君のような若さのある人間ならなおさらやれることがあるはずだ』
『君には若さも、あふれんばかりの才能も、強い心も、なんでもあるはずだ。できないはずはないだろう』
「……」
最後に景色が再び変わり、椅子には烈火が座っている。
背を向けており、顔が見えない。
兎歌の胸が締め付けられるが、少女はそっと手を伸ばす。
「あ……」
現実に帰還した兎歌は、涙を拭い、深呼吸した。
コックピットボールの薄暗い空間で、彼女の桜色の瞳に新たな決意が宿る。
「ありがと……みんな」
仲間たちの言葉が、兎歌の心を奮い立たせていた。
「待ってて、烈火。わたしが、烈火のことを守るから」
兎歌は通信機に手を伸ばすが、依然として応答はない。
それでも、あきらめるな。
呼びかけ続けろ!
砂嵐が戦場を覆う中、兎歌は目を閉じ、幼なじみへと心で呼びかける。
通信機は爆発の衝撃で焼き付き、ノイズしか流さない。
だが、その声は、ネクスターの力で烈火の心に直接響くのだ!
「烈火……わたしはここにいるよ」
兎歌の意識が、精神の糸をたぐるように烈火へと伸びていく。
桜色の瞳は涙で潤み、だが決意に燃えている。
「ずっと、ずっと、烈火の隣にいるから。お願い……泣かないで。わたしは、いなくならないから」
「……?」
ブレイズ・ザ・ビーストのコックピットで、烈火は一人のはずだった。
赤黒いオーラが機体を包み、烈火の目は絶望と怒りに燃えている。
だが、突然、誰かが自分を抱きしめるような温かな錯覚に包まれた。
烈火の動きが一瞬止まる。
「兎歌……?」
「うん。ここにいるよ。ちゃんと、ここにいるから」
独り言に返事が返ってきた。
通信機はノイズを吐き出すだけなのに、兎歌の声が確かに聞こえるのだ。
ネクスターの力――心と心を繋ぐ、説明できない絆が、烈火の意識を揺さぶっていた。
「兎歌……」
烈火の目が閉じられ、彼は精神世界へと潜っていく。
烈火の精神世界は、生命からは程遠い灰色の地獄だった。
赤黒い空の下、死の気配が漂う。
足元には両親の死体が横たわり、フラッシュバックするのは孤児院で過ごした日々の記憶。
死に分かれた少女の亡魂が烈火を見つめ、冷たい風が吹き抜ける。
そして、その先に───兎歌の死体が横たわっていた
「いやだ……!」
烈火の心が叫んだ。
だが、視界が揺らぎ、死体の幻は煙のように消える。
代わりに、兎歌がそこに立っていた。
桜色の髪が風に揺れ、彼女の笑顔が烈火を包む。
「兎歌……お前、生きてるんだな……!」
精神世界の中で、兎歌は烈火にそっと手を伸ばした。
鈴の音を転がすような声が、烈火の心に直接響く。
「うん。生きてるよ。烈火の隣に、ずっと一緒にいるから」
烈火の目から、涙がこぼれ落ちた。
絶望と怒りが溶け、彼の心に新たな力が湧き上がる。
ブレイズの赤黒いオーラが、純粋な赤い輝きに変わっていく。
現実の戦場では、烈火のブレイズが再び動き出していた。
バーキッシュのレールガンが火を噴くが、ブレイズの粒子ブレードはそれをやすやすと弾き返す。
ゲイルはサブカメラの映像でブレイズの変化を捉え、思わず目を見開いた。
「なんだ……また気配が変わった……!?」
ゲイルはあきらめずに砲を構える。
だが、烈火のブレイズはもはや別次元の存在だった。
兎歌との絆が彼を奮い立たせ、ネクスターの力が極限まで引き出されているのだ。
ブレイズの粒子ブレードがバーキッシュに迫り、砂嵐の中で火花が散る。
兎歌はコックピットボールの中で、烈火の気配を感じ取っていた。
少女の心は、仲間たちへの信頼と、烈火を守る決意で満たされている。
「烈火……シャオ……わたし、絶対に諦めないから」
精神世界で兎歌と繋がったことで、烈火の心に新たな力が宿っていた。
まるで兎歌が烈火の手に自分の手を添えたように、温かな感触が彼を包む。
二人は心の中でうなずき合い、ブレイズのプラズマリアクターが呼応するように唸りを上げる!
「さぁて、このまま、仕留めてやろうぜ!」
ブレイズは腰を落とし、低く構える。
赤黒いオーラはそのままに、機体の動きは殺意に満ちたものから、豪快で強烈な、烈火本来の戦い方に戻っていた。
粒子ブレードが青白く輝き、砂嵐の中で静かに待つ。
ゲイルはコックピットで、不鮮明なサブカメラの映像越しにその変化を捉える。
頭痛に顔をしかめつつ、ゲイルは一度、深く息を吸い込んだ。
「様子が変わった? ……いや、今の内だ」
ゲイルの目が鋭く光る。
ガシャン!
覚悟を決め、コックピットの片隅に設置されたスイッチのカバーを拳で砕いた。
脳裏に、橙色の髪のメカニック、キュロン・スパークの忠告がよぎる。
『いいですか、ゲイル隊長。機体のリミッターを外せば、バーキッシュの性能は飛躍的に上がります。しかし、3分です。それを過ぎれば機体は瓦解し、パイロットの脳にも深刻なダメージを与えます。もちろん、一度使った時点で機体は確実に再起不能になります』
『……あぁ』
『いいですか。これは、最後の手段です』
『……わかった』
ゲイルは小さく微笑み、二段階認証の二つ目、音声認証を起動する。
「ゲイル・タイガー。リミットを解除する!」
───ビキィッ!
その瞬間、バーキッシュのフレームが金色に輝きだした。
オーバーリアクターが限界を超え、過剰なエネルギーが光となって放出される。
インスティンクツがゲイルの脳に直接干渉し、精神波が極限まで増幅される。
「が。あ……ッ!!」
頭痛が彼を襲うが、バーキッシュの性能は一気に跳ね上がる。
奇しくも、烈火のブレイズの覚醒に似た現象だった。
ブレイズは赤黒いオーラをまとい、バーキッシュは金色に輝いて突貫する。
「「おぉおおおお!」」
ゲイルはレールガンを投げ捨て、腰から超振動ブレードを抜いた。
刃が空気を切り裂き、高周波の振動が砂塵を弾く。
烈火もブレイズの右手のE粒子ブレードを青白く輝かせ、振り下ろす。
───ガキィン!
灼熱の刃が激突し、衝撃波が砂嵐を吹き飛ばした。
ブレイズの粒子ブレードとバーキッシュの超振動ブレードが火花を散らし、両者の精神波が戦場を震わせる。
交錯するのは、烈火の咆哮とゲイルの叫び。
「終わりだ、エリシオン!」
「てめぇこそ、ここで沈め!」
ルシアの愛機、ウィンディアは、爆風でほぼ全損した機体を辛うじて起こし、戦場を見守っていた。
スラスターは壊れ、装甲は剥がれ、彼女の意識も頭痛で揺らぐ。だが、ゲイルと烈火の戦いに目を奪われる。
「ゲイル様……!」
彼女の青い瞳には、尊敬と愛情、そして自らを証明したいという強い意志が宿る。
だが、撃破と引き換えにウィンディアの機体は大破。
もはや動くことすら難しい。
ルシアは手を合わせ、祈るように呟いた。
「ゲイル様……勝ってください……」
その隣、ルナ・ザ・ウルフファングとギガローダーの二機は、ただ、その光景を見つめることしかできない。
コックピット内、シャオとドレッドは操縦の手を止め、激闘に見惚れていた。
2人もバカではない。覚醒した二機の戦いの前に、自分たちなど壁の花でしかないと理解しているのだ。
「烈火……おまえ……!」
「ゲイル隊長……!」