表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/76

蠢くノヴァの陰謀

 砂漠の戦場から遠く離れたシグマ帝国の首都、アヴァルシア。

 重厚な石造りの会議室は、冷たい空気に包まれていた。

 分厚い扉の向こうから漏れる声はなく、室内には緊張と不信が漂う。

 円卓を囲む数人の政府高官たちの顔は、疲弊と不安に染まっていた。


 彼らの視線の先に、淡い蒼の髪を持つ美しい男が座している。

 ノヴァ・ドミニオンの使者、ウリエン・ノヴァだ。

 ウリエンの唇には、どこか信用できない笑みが浮かんでいる。

 その青い瞳は、まるで高官たちの心を覗き込むように鋭く、しかし表面上は穏やかに輝いていた。

 絹のような声で、ウリエンは言葉を紡ぐ。


「ご安心ください、皆様。これでノヴァ・ドミニオンがシグマ帝国を攻撃することはありません」


 高官の一人が、額の汗を拭いながら声を震わせる。


「ほ、本当にこれで侵略を止めるというのかね? 約束が本物だと、どうやって信じろというのだ!」


 別の高官が、拳をテーブルに叩きつけ、叫ぶ。


「もし約束が破られたら、我々は破滅だ! ノヴァ・ドミニオンの軍事力は、すでに我々の想像を超えている!」


 ウリエンは、まるで子をあやすように手を広げ、柔らかな笑みを深める。


「大丈夫ですよ、諸君。懸念材料である三本槍……ゲイル・タイガー、ルシア・ストライカー、ドレッド・ドーザーの命と引き換えに、我々は貴方たちを攻撃しないことを約束しましょう」


 その言葉に、会議室に重い沈黙が落ちる。

 高官たちの顔に、恐怖と動揺が広がっていく。

 まるで毒を塗った刃のように笑うウリエン。

 その言葉は安心を装いつつ、シグマ帝国の心臓に突き刺さる。


「三本槍の命……だと?」


 一人の高官が呟き、顔を青ざめさせた。

 ゲイルたち三人は、シグマ帝国の最強の戦力だ。

 彼らを失うことは、軍事力の大幅な低下を意味する。

 だが、ノヴァ・ドミニオンのサーペント・ガレルが街を焼き尽くす脅威を前に、選択肢は限られていた。


 ウリエンは高官たちの動揺を楽しみながら、ゆっくりと立ち上がる。

 蒼い髪が照明に映え、彼の声は甘く、しかし冷たく響いていた。


「ご決断を急いでください。ノヴァ・ドミニオンは、待つのがあまり得意ではありませんので」


 その笑みは、邪悪な光を帯びていた。

 ノヴァ・ドミニオンは、シグマの政治家たちを利用し、帝国を内側から飲み込もうとしていのだ!

 ウリエンの策略は、砂漠で戦うゲイルたちが知らぬまま、着実に進行していた。

 高官たちは互いに顔を見合わせ、恐怖と無力感に沈む。


「我々に……他に道はあるのか?」


 一人が呟き、会議室には絶望の空気が満ちた。

 ウリエンはその光景を満足げに見つめ、静かに席に戻る。

 細い指がテーブルの上で軽く叩かれ、まるで勝利の音を刻むようだった。


~~~


 一方、砂漠の戦場では、ゲイル、ルシア、ドレッドの「三本槍」がエリシオンのパイロットたち……烈火、兎歌、シャオと死闘を繰り広げていた。

 バーキッシュのレールガンが火を噴けば、ブレイズが躱し、粒子砲を撃ち返す。

 ウィンディアは爆散寸前のダメージで倒れ伏し、その眼前ではリリエルの残骸が転がっている。

 ギガローダーのガンブレードは砂塵を切り裂き、ルナの鉤爪と交錯する。


 だが、彼らは知らない。

 自分たちの命が、遠くアヴァルシアの密室で、ノヴァ・ドミニオンの策略に差し出されようとしていることを。

 砂嵐が戦場を覆い、鋼鉄の巨人の咆哮が響く。

 シグマとエリシオンの戦いは、誰も予想できない結末へと突き進んでいた。


 ぞぉ───ッ。

 砂嵐が戦場を覆う中、烈火・シュナイダーの愛機ブレイズ・ザ・ビーストに異変あり。

 炎じみた機体から放たれる赤黒いオーラが、砂漠を不気味に染める。


「やはり、あの時の……!」


 ゲイルの胸に、かつての恐怖がよぎる。

 リープランドで激突したあの時、ブレイズは同じ姿になった。

 瞬間、ルシアとドレッドは一撃で撃墜された。

 今、再びその悪夢が現実となるのか?


「ヒャーハハ!」


 ドレッドのギガローダーは、インスティンクツの影響で闘争本能が極限まで高まっている。

 その剛力でルナを吹き飛ばすと、彼は迷わずブレイズに突進した。

 ガンブレードを振り上げ、砂塵を切り裂くギガローダー!


『オラァ! てめぇもぶっ潰すぜ!』

『待て、ドレッド! 危険だ!』


 ゲイルの制止の声が通信に響くが、一手遅かった。

 ───斬ッ。

 ブレイズの粒子ブレードが閃き、ギガローダーの右腕を一瞬で切り落とす。

 青白い粒子の刃が装甲を溶かし、火花が砂嵐に散った。

 ゴロリとガンブレード付きの腕が転がり、砂にまみれる。


『なにィー!?』


 ドレッドの声がコックピットに響くが、対する烈火は無言のまま。

 ブレイズの赤い機体は、まるで亡魂のように次の標的を探し出す。


『ッ!?』


 次の瞬間、ブレイズはバーキッシュの眼前に現れていた。

 烈火の操縦は人間の限界を超え、ゲイルのネクスターの素質さえも一瞬遅れる。

 アニムスキャナ―の受信限界を超える精神波が、人類の限界を突破しているのだ。


 ヒュオン───

 ブレイズの右手の粒子ブレードが横薙ぎに振るわれ、バーキッシュの可動式シールドが辛うじてガード。

 耐久限界を超えたシールドは砕け、鉄塊となって散った。

 衝撃で機体が軋み、ゲイルの頭痛が限界を超える。


「くそっ……!」


 だが、烈火の攻撃は止まらない。

 ブレイズは斬撃の反動を利用し、バーキッシュの側面に回り込む。

 肩に搭載された機銃が火を噴き、重金属の弾丸がバーキッシュの頭部を直撃!

 メインカメラが吹き飛び、モニターが一瞬暗転。

 サブカメラに切り替わるが、映像はノイズに乱れている。


『ゲイル様、ご無事ですか!?』


 ルシアの慌てた声が通信に響くが、ゲイルは答えない。

 額には汗が流れ、インスティンクツの負担が意識を揺らす。

 バーキッシュのレールガンを構え直す手は震えていたが、その目は依然として鋭い。


「まだだ……まだ終わらん!」


 さて、ブレイズの回路は、菊花の手により、覚醒を封印する仕様に改造されているはずである。

 それが、なぜ覚醒状態になっているのか?

 答えは非常に単純。


 烈火の怒りが、アニムスキャナ―のリミッターを凌駕したのだ!

 今や烈火の精神は、孤独と絶望の色に染まっていた。

 それが、回路の想定しない挙動を引き起こしていた。


~~~


 一方、巨人の腕に抱えられたリリエルのコックピットボールの中、兎歌は自らを抱きしめ、泣いていた。

 壊れたコックピットの薄暗い空間に、少女の嗚咽が響く。

 桜色の髪が汗で乱れ、兎歌の声は震えていた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……! わたしが、弱いから……!」


 リリエルの大爆発は、兎歌の心に深い傷を刻んでいた。

 烈火を危険に晒し、シャオを孤立させたのは、自分の力不足……そう少女は感じていた。

 コックピットボールの通信パネルは沈黙し、外部の状況はわからない。

 透明な涙が、膝にぽたりと落ちる。


「烈火……シャオ……お願い、無事でいて……」


 少女の祈りは、砂嵐の戦場に届かない。

 烈火のブレイズは赤黒いオーラをまとい、バーキッシュに迫る。

 シャオのルナはギガローダーと切り結び、ルシアのウィンディアは爆風で損傷した機体を横たえていた。


 戦場は混沌と化していた。

 ドレッドのギガローダーは右腕を失いながらも、左手のシールドを構え、ルナに突進。

 シャオは鉤爪をアンカーワイヤーで射出し、ギガローダーの動きを牽制する。


「オレのルナを舐めんな! まだやれるぜ!」


 ギガローダーは、右半分が黒焦げに焼け付き、動きが鈍くなっていた。

 オーバーリアクターも限界が近づき、インスティンクツの負担がドレッドの肉体を苛む。

 それでも、彼はガンブレードを構え、黒く走るルナに立ち向かう。


「このぉお!」


 ルナのコックピットで歯を食いしばるシャオ。

 アニムスキャナーが彼女の精神状態を露骨に反映し、ルナの動きに迷いが滲む。

 烈火の異常な殺気、兎歌の生死不明……仲間への不安が、シャオの決断を鈍らせていた。

 ルナの右足が鋭い蹴りを繰り出し、脚の粒子開放機がギガローダーを吹き飛ばそうとする。

 だが、ギガローダーのシールドがそれを防ぎ、装甲が火花を散らすだけで破壊には至らない。


「くそっ……どうすりゃいいんだ!」


 シャオの声に焦りが滲む。

 ルナの鉤爪がアンカーワイヤーで射出されるが、ギガローダーは重砲で鉤爪を迎撃!

 ドレッドの咆哮が響き渡る。


『無駄だ、黒いの! オレのギガローダーはこの程度で負けねえ!』


 シャオは操縦桿を握り直すが、ルナの反応が僅かに遅れる。

 彼女の心に、仲間を守らなければならないという使命と、敵を仕留めきれない迷いが交錯していた。


 一方、烈火のブレイズは、左腕にリリエルのコックピットボールを抱えていた。

 赤黒いオーラが機体から迸り、砂嵐を押しのける。

 烈火の目は絶望と怒りに燃え、粒子ブレードがバーキッシュを追い詰めていく。

 ゲイルはサブカメラの不鮮明な映像を頼りに戦うが、ブレイズの速度と火力に圧倒されていた。


「ぐおぉお……!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ