覚醒の刻、再び
「逃げんなよ、黒いの! オレのギガローダーでぶっ潰してやる!」
ギガローダーのタックルが砂塵を巻き上げるが、ルナは軽やかに後退。
シャオは低く笑い、鉤爪を回収しながら次の動きを計算する。
「ハン! オレのルナに、んな鈍重な機体で勝てると思うなよ!」
砂嵐が戦場を覆い、六機のコマンドスーツが火花と爆炎を撒き散らす。
ゲイルは頭痛と戦いながらレールガンを構えた。
「ここまでして……ようやく五分か……!」
オーバーリアクターの警告音が鳴り響き、稼働時間の限界が迫る。
だが、ゲイルの目は燃えるように鋭い。
((この動き……お前は一体、どれほどの戦いをくぐり抜けて来た?))
「そこだッ!」
その時、烈火のブレイズはE粒子ライフルを抜き、閃光を放った!
辛うじて左肩でガードしたバーキッシュ。そのシールドに粒子弾が激突!
火花が散り、ゲイルの機体は大きく後退する。
もはやシールドの耐久も限界だ。
「ぐぅ……ッ!」
機体の出力では互角でも、機体の安定性、兵器の性能、そして反応速度で負けている。
シグマの最新型機体は、エリシオンの技術に及ばない───
そんな現実を突きつけられていた。
「これ程か……エリシオン!」
さて、戦場の反対側。
ドレッドはギガローダーのコックピットで歯を食いしばった。
額に汗が流れ、インスティンクツの起動スイッチに手が伸びる。
ゲイルの警告が脳裏をよぎる――「インスティンクツは脳に負担をかける。ギリギリまで控えろ」。
だが、目の前の黒狼のような機動性能は圧倒的で、攻撃が当たらない。
もはや、選択の余地はなかった。
「くそが! やってやる!」
ドレッドがスイッチを押し込む。
不気味な音とともに、インスティンクツが起動した。
闘争本能が強引に引き出され、頭痛が彼の意識を刺す。
「がああッ!?」
だが、その効果は覿面だった。
ギガローダーのリアクターが唸り、大型化した機体が砂漠の大地を震わせる。
「オラァ!」
ギガローダーがタックルを繰り出す。
巨体による突進は、常識なら交通事故も同然――パイロットの肉体を粉砕する無謀な攻撃だ。
だが、ドレッドの屈強な肉体はそれを耐え抜く。
砂塵を巻き上げ、ギガローダーの巨体がルナを直撃。
反応速度が上がったことで、相手の回避速度を上回ったのだ!
シャオの悲鳴がコックピットに響く。
「うわっ! てめぇ、なにしやがる!」
ルナは鈍い音を立てて弾き飛ばされ、砂漠の大地に叩きつけられた。
シャオは座席に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。
超人的なシャオの肉体でなければ、とっくに気絶していただろう。
だが、シャオとてエリシオンの精鋭、この程度では倒れない!
そこへ迫るギガローダーの追撃!
「こんのぉお!」
咄嗟にシャオは操縦桿を握り直し、両手の鉤爪を展開。
ギガローダーの追撃――ガンブレードの振り下ろしを、辛うじて鉤爪で受け止める。
ギャガガガガッ!!
電磁フィールドを帯びた刃が火花を散らし、ルナの装甲が悲鳴を上げる。
「くそっ、重てぇ……ッ!!」
シャオは歯を食いしばるが、ルナのフレームが軋む。
しかも、ギガローダーの背中から伸びるガトリングガンがルナへと向けられていた。
ドレッドの笑い声が戦場に響く。
「逃げねぇなら、ぶっ潰すぜ!」
「コイツ……ッ!!」
一方、ルシアの愛機、ウィンディアは、流星のように戦場を旋回していた。
両肩と背中のスラスターが赤熱し、ガトリングガンとグレネードをリリエル・ザ・ラビットに浴びせかける。
彼女もまた、インスティンクツを起動していた。
頭痛が視界を揺らし、意識が鋭くなる。
ゲイルの警告を無視した代償は重いが、効果は絶大だった。
「チャンスは多くない……確実に仕留める!」
ルシアの青い瞳が、リリエルの動きを追う。
兎歌はE粒子コートを最大出力で展開し、ウィンディアの弾幕を弾き返す。
だが、ウィンディアの攻撃は途切れない。
グレネードが爆発し、砂塵が視界を覆う瞬間、ウィンディアが急接近。
「今だ!」
ガトリングガンが火を噴くが、兎歌の第六感がそれを捉える。
リリエルは急旋回し、紙一重で回避!
同時に腰からサブマシンガンを引き抜く。
「そこぉー!!」
ガガガガッ!!
粒子弾の嵐がウィンディアを襲い、ルシアは離脱を余儀なくされる。
「反応速度を上げてるのに、付いてくる!? ……信じられない!」
ルシアの声に焦りが滲む。
ウィンディアの機動力がリリエルを圧倒するはずだったが、兎歌の直感と技術がそれを許さない。
頭痛がルシアを苛むが、歯を食いしばり、次の機会を狙う。
だが、弾幕は雨あられと撃ち込まれる!
「このーッ! 落ちろ、落ちろー!!」
兎歌の絶叫とともに、青白い光の雨がウィンディアを襲う!
「く……ッ!」
ルシアはサブマシンガンの弾幕を紙一重で交わし、急上昇で離脱していた。
コックピット内で、青いポニーテールが汗で揺れ、頭痛が彼女の意識を刺す。
インスティンクツの負担が限界に近づいていたが、ルシアの闘志は煮えたぎっていた。
((ゲイル様……))
ルシアはゲイル・タイガーを尊敬していた。
冷徹な指揮官としての彼の姿、戦場での完璧な判断力――それだけではない。
女として、ルシアはゲイルに焦がれていた。
ただの部下としてではなく、彼に振り向いて欲しかった。
そのために、ルシアは自分を証明しなければならなかった。
───どんな犠牲を払っても。
「見ていてください、ゲイル様……!」
ルシアは意を決し、ウィンディアのスラスターを全開にした。
ギュオォオオオオッ!!!
流星のような機体が砂嵐を切り裂き、リリエルに対し、一気に間合いを詰める。
当然、リリエルの放つ荷電粒子の弾幕がウィンディアを襲う。
致命的な一撃を左腕で受け流し、残りは敢えて受ける。
ボゴォン!!
機体の装甲に亀裂が走り、背中と左肩のスラスターが火花を散らして爆発。
ウィンディアのフレームが悲鳴を上げるが、ルシアは止まらない。
「まだだ、……まだ終わらない!」
ルシアの咆哮がコックピットに響き渡る。
爆風と砂塵の中、ウィンディアは遂にリリエルの目の前に到達!
ルシアはガトリングガンを至近距離で撃つ、撃つ、撃つ!
荷電粒子の弾幕がE粒子コートを貫き、リリエルの装甲を削る。
兎歌は悲鳴を上げるが、ルシアの攻撃は止まらない。
「これで……終わりです!」
ついに一発の弾丸が、リリエルのプラズマリアクターに直撃。
次の瞬間、桜色の機体が大爆発を起こした。
「きゃああ!?」
───ドゴォオオオオンッ!!!
轟音が砂漠を揺らし、爆炎が砂嵐を赤く染める。
ウィンディアは爆風に巻き込まれ、砂の大地に叩きつけられ、転がる。
装甲が剥がれ、スラスターは全損。
ルシアはコックピットで意識を保つのがやっとだった。
「う、ぐ……ゲイル様……私、やりました……」
ルシアの呟きは、途切れ途切れに通信に漏れる。
だが、戦場に響くのは、爆発の余韻と、残る四機の静かな緊張だけだった。
爆炎の中、リリエルのコックピットボールが砂漠に転がる。
通信は途絶え、桜色の機体は黒焦げの残骸と化していた。
「トウ、タ……?」
烈火はその光景に、一瞬動きを止めた。
コックピット内で、烈火の赤い髪が汗で乱れ、赤い目が絶望に染まる。
「おい、兎歌……?」
その声は震え、ブレイズの手がコックピットボールをそっと拾い上げる。
呼びかけても、返事はない。
「あ、ああ……あ……」
烈火の胸に、怒りと絶望が渦巻く。
───ドクン
───ドクン、ドクン、ドクン
次の瞬間、ブレイズのプラズマリアクターが異常なまでに唸りを上げ、赤黒いオーラが機体から迸った。
砂嵐がその気配に押され、戦場に不気味な静寂が広がる。
「てめぇら……」
烈火の咆哮が通信に響き、ブレイズの双眼が赤く輝く。
残る三機……ゲイル・タイガーのバーキッシュ、ドレッド・ドーザーのギガローダー、シャオ・リューシェンのルナ・ザ・ウルフファング……も、烈火の殺気に一瞬凍りついた。
「これは……あの時の……?」
ゲイルはモニターに映る赤い機体を見つめる。
明らかに、リープランドの時と同じ現象。
だが、あの時とは少し状況が違う。
ルシアが敵の一機を撃墜し、ドレッドが残る一機を引き付けているのだ。
すなわち、この強敵を突破できるなら、やりようはある……!
「ルシア、よくやった。だが……まだ終わっていない」
ゲイルはレールガンを構え、ブレイズの動きを追う。
ドレッドのギガローダーはガンブレードを振り上げ、ルナと切り結ぶ。
シャオは鉤爪で斬りあいつつ、烈火の異変に声を上げた。
『おい、烈火、落ち着け! どうしたんだよ!』
だが、烈火の耳にその言葉は届かない。
ブレイズは赤黒いオーラを纏い、砂嵐を切り裂き、バーキッシュへと突進。
砂漠の闘い、その決着まであとわずか……。