撃ち抜け! 戦闘空母ヴァーミリオン!
ゲイルの視線は、砂嵐の向こうに揺れる三つのシルエットを捉える。ブレイズの赤、リリエルの桜色、ルナの黒――エリシオンの三機が、嵐の中を突き進んでくるのが見えた。
ゲイルの胸に、冷たい興奮が広がる。
((さぁ来い、エリシオン……お前たちの力を、この砂漠で試してやる))
ドゥッ!!
バーキッシュのレールガンが光を放ち、戦場に新たな火花が散った。
〜〜〜
砂嵐が唸る戦場で、兎歌は愛機、リリエルのコックピット内で、冷静に状況を分析していた。
桜色の髪が汗で額に張り付き、呼吸は荒い。
爆音がいくつも響いている。ヴァーミリオンからの砲撃がヘルメスに迫っているのだ。
今は砂嵐のおかげで直撃を免れているが、やがては被弾するだろう。
そんな中、兎歌は通信機を叩き、鋭く指示を飛ばす。
『ヘルメス、至急後退! 安全圏まで下がって!』
『了解、ヘルメス、後退します!』
クルーたちの声がノイズ交じりに響く。
小型輸送艦のリアクターが唸り、砂塵を巻き上げながら後方へと退避していく。
それを見届けつつ、兎歌はすぐに烈火とシャオに通信を切り替えた。
『烈火、シールドを構えて前進して! どうせ止めても突っ込むでしょ!』
『ハッ、相変わらず見透かしてんな! 了解だ!』
烈火の声は、獰猛な笑みに満ちている。
ギュオォオオオッ!
ブレイズの両手にE粒子シールドが展開され、青白い防壁が砂嵐の中で輝いた。
烈火は操縦桿を強く握り、ヴァーミリオンとタイタンの一斉砲撃を正面から受け止めながら前進を開始!
ドガガガガ!
粒子防壁が火花を散らし、砲撃の衝撃がブレイズを揺らす。
プラズマリアクターが生み出す防壁は強力だが、集中砲火を永遠に防ぎ続けることはできない。
烈火の額に汗が光るが、その目は燃えるように鋭い。
『問題ねぇ! 俺の後ろに隠れろ!』
『うん!』
『よしきた!』
兎歌とシャオは、ブレイズのシールドの影に隠れるように、一直線に追従する。
リリエルとルナは、ブレイズの背後で縦の陣形を形成。
身をひそめつつ、兎歌は荷電粒子ランチャーを再装填し、冷静に狙いを定めた。
『撃ってきた方へ撃てば……、必ず当たる!』
マティアスの言葉を思い出しつつ、兎歌はトリガーを押し込んだ。
ズドォオオン!
二発目の青白い光の柱が、砂嵐を切り裂き、ヴァーミリオンの左舷に直撃!
艦の砲台が一瞬で融解し、爆炎が砂塵に混じる。
艦橋に走る激震、響き渡るクルーたちの悲鳴!
直後、砂嵐の奥から二本の鉤爪が閃光のように飛来。
タイタン二機の装甲を貫き、内部で炸裂する。
『な、なんだ!?』
『ぐわっ!』
兵士たちの驚愕の声が通信に響く。
同時に、爪に仕込まれた粒子開放機が至近距離で荷電粒子を放出。
ドウッ!
爆発がタイタンのリアクターを吹き飛ばし、土色の機体が砂漠の大地に崩れ落ちた。
シャオはルナのコックピットで、牙を剥くように笑う。
「オレのルナを舐めるなよ!」
シャオはランチャーの閃光に敵の視線が奪われた隙を突き、側面に回り込んでいたのだ。
ルナは砂嵐を切り裂き、両手の鉤爪をアンカーワイヤーで回収。
漆黒の巨体が、次の標的を見据える。
その前方。
爆炎の中を、ブレイズ・ザ・ビーストが突進する。
ブレイズの両腕が軋み、直後、両手のE粒子ブレードが青白く輝いた。
『させるか!』
最後のタイタンがアサルトライフルを構えるが、ブレイズの方がさらに迅い!
「遅ぇんだよ!」
斬ッ!!
粒子ブレードがX字に閃き、タイタンの装甲を一瞬で両断!
爆発が砂塵を巻き上げ、土色の機体は無残に四散する。
烈火はブレイズを停止させ、息を荒くしながら咆哮した。
「次はお前らだ、シグマの野郎ども!」
~~~
遠く、ヴァーミリオンの艦体が砂漠の大地に不時着する。
右舷と左舷の砲台を失い、格納庫のシャッターも破壊された艦は、もはや戦闘能力をほぼ失っていた。
だが、その下で、ゲイル・タイガー、ルシア・ストライカー、ドレッド・ドーザーの三人は、砂嵐の中でエリシオンの戦士たちと対峙する。
バーキッシュのコックピットで、ゲイルは副官ノレアの報告を受けていた。
緊迫した女の声が、艦橋から響く。
『隊長、右舷粒子砲と格納庫が壊滅! 左舷砲台も全損! 艦の戦闘能力は10%以下です!』
ゲイルの金髪が汗で張り付き、切れ長の目はモニターを凝視する。
砂漠の砂は抵抗となり、通常なら命中率と威力は落ちる。
ましてや、嵐の中でのこの距離だ。
それでもヴァーミリオンに壊滅的な打撃を与えた事実は、エリシオンの火力と精度が想像を遥かに超えていることを示していた。
((あの桜色の機体……間違いなく、以前より強くなっている……))
ゲイルの脳裏に、リープランドで見た桜色の少女の姿が浮かぶ。
あの少女が、砲撃を?
確証はない。だが、ゲイルの本能的な何かが、正解だと告げていた。
「ぐ……っ」
インスティンクツの頭痛に耐え、ゲイルは歯を食いしばる。
ゲイルは頭を押さえながら、通信パネルに叫んだ。
『総員、避難区画へと移動しろ! 間に合わん者は脱出艇に駆け込め! 火事に呑まれるなよ!』
『ザリザリ───了解ザザ───』
ノイズ混じりの返答が通信パネルに響く。
辛うじて命令が届いたことを確認し、ゲイルは操縦桿を握り、バーキッシュの両肩の可動式シールドを展開した。
ガコン───。
レールガンの銃口が、砂嵐の向こうの三機を捉える。
その後方ではルシアのウィンディアがスラスターを噴かし、流星のようの光を纏う。
ドレッドのギガローダーはガンブレードを構え、背中のガトリングガンを砂漠に突き立てる。
『ギガローダー、いつでも行けるぜ! さぁ、ぶっ潰してやる!』
『ゲイル様、ウィンディア、攻撃準備完了です!』
二人の声に、ゲイルは頷き、ニヤリと口を歪めた。
『さぁ……被害は甚大だが、ここで退くわけにはいかん。やるぞ、二人とも!』
『了解!』
『押ォ忍!』
勇ましい声がコックピットに響く。
砂嵐が咆哮する戦場で、シグマとエリシオンの三機ずつが対峙した。
赤茶けた砂塵が視界を多い、オーバーリアクターの不気味な稼動音と、プラズマリアクターの重低音が風とともに響き渡る。
オーバーリアクターの稼働時間は短い。
もはや悠長に構えている余裕はない。
『ここで撃破する! 全機、攻撃開始!』
ゲイルの命令が通信に響き、シグマの三機は一斉に動き出した。
バーキッシュ、ウィンディア、ギガローダーが砂漠の大地を震わせ、エリシオンの三機と激突する。
~~~
闘いが始まった。
最初に動いたのはバーキッシュ!
二門のレールガンが白い閃光を放つ。
ゲイルは時間差で左右の銃口を撃ち分け、ブレイズの動きを封じようとする。
だが、烈火の操るブレイズは、まるで生き物のように砂嵐を切り裂いた。
赤い巨体は急角度で旋回し、レールガンの弾道を紙一重で回避!
ブレイズの後ろで砂塵が爆発的に巻き上がる。
「馬鹿な! そんな動きでかわせば、骨が砕けるぞ!?」
ゲイルの声に驚嘆が滲む。
常人なら、急加速と急旋回のGフォースで肉体が耐えられない。
だが、烈火は鍛え上げた筋肉と異常な耐久力で、それを可能にしていたのだ!
ブレイズのプラズマリアクターが唸り、E粒子ブレードが青白く輝く。
「てめぇの弾なんざ、当たらねぇ!」
烈火は咆哮し、バーキッシュに肉薄する。
「速いな……!」
ゲイルは咄嗟に右肩のシールドを構え、防護フィールドを最大出力で展開。
直後、ブレイズのE粒子ブレードがシールドに激突し、火花が砂嵐に散る。
一方、ルシア・ストライカーのウィンディアは、両肩と背中のスラスターを全開にし、流星のように戦場を飛び回っていた。
ガガガガガ、ドゴォン!
ガトリングガンとグレネードが降り注ぎ、リリエルを執拗に狙う。
兎歌はコックピットで歯を食いしばり、リリエルのE粒子コートにエネルギーを集中させていた。
「当たらないで……お願い!」
桜色の機体が輝き、粒子コートがガトリングの弾幕を弾き返す。
グレネードが爆発するが、リリエルは機敏な動きで爆風を回避。
兎歌の研ぎ澄まされた第六感が、ウィンディアの軌道を読んでいるのだ。
「速い……けど、わたしだって負けない!」
リリエルはコンテナからサブマシンガンを引き抜き、反撃の弾幕を浴びせかけた。
ウィンディアがスラスターで急上昇し、弾丸を回避するが、ルシアの額に汗が光る。
「この動きに着いてくる!? なんて反応速度……!」
戦場の反対側では、ドレッド・ドーザーのギガローダーが重々しい足音を響かせ、背中のガトリングガンと重砲を乱射。
ガンブレードを右手に構え、シャオ・リューシェンのルナ・ザ・ウルフファングを追い詰める。
だが、ルナはアクロバティックな動きでギガローダーの攻撃を嘲笑うように回避!
「ハッ、でけぇ的は狙いやすいぜ!」
シャオは牙を剥いて笑い、ルナの黒狼のような機体が砂嵐の中で跳躍。
両手の鉤爪がアンカーワイヤーで射出され、ギガローダーのシールドをかすめる。
だが、ギガローダーはガンブレードを振り上げ、2発目の鉤爪を弾き返す。
本能的に1発目は囮、2発目でコックピットを狙ってくると察したのだ!
「逃げんなよ、黒いの! オレのギガローダーでぶっ潰してやる!」
ギガローダーのタックルが砂塵を巻き上げるが、ルナは軽やかに後退。
シャオは低く笑い、鉤爪を回収しながら次の動きを計算する。
「ハン! オレのルナに、んな鈍重な機体で勝てると思うなよ!」
砂嵐が戦場を覆い、六機のコマンドスーツが火花と爆炎を撒き散らす。